探偵内海は宝船を仕舞いこむ

八木山

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港区映画館殺人事件

ほな自殺やないか

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杵間映造。
2022年11月から23年8月にかけて計3件、映画館付近で映画のシーンに似せた方法で、男女が死亡した事件だ。
品川の事件も条件は合致している。
しかしそれは、今まで3つの事件をのうのうと起こした連続殺人犯と対峙することを意味するのだ。
駒場はこの事実を継母から突き付けられたとき、心底胃が痛かった。

しかし内海は豚トロをほおばりながら、呑気に続けた。

「で、今までの事件はどんなんやったっけ」
「ジャンルも公開時期もバラバラですね。いずれも洋画と言うのだけ共通しています」

そう言いながら、カバンからクリップで止められた紙の資料を取り出す駒場。
無言で受け取り読み始める探偵をよそに、駒場は金網の真ん中を不当に占拠する玉ねぎをひっくり繰り返す。

****

2022/11/18 「ストリームVSキャッチー」

被害者の女性は、有楽町の映画館前で呼吸困難によって死亡。
映画館で購入したドリンクから検出された神経毒が死因。

苦しむ被害者の様子は、映画に登場する呪われた被害者のようだったという。

アメリカのホラー映画シリーズ2大巨頭のコラボ映画と言えば聞こえはいいが、アメリカでのプレミア上映での評価は決して高くなかった。
しかし、こと日本においては、この事件の影響から「見たものが本当に呪われる」と噂が噂を呼び、2つのシリーズは日本国内で勢いを取り戻した。



2023/3/10 「シャークテンペスト」

被害者の中年男性は、お台場海浜公園にて溺死体となって発見された。
事件当日の午前中に、付近の映画館で映画を鑑賞していた。
アロハシャツを着た浅瀬での溺死体は、劇中の重要人物である博士がサメに襲われるでもなく死亡するシーンに酷似していたことから、22年11月の事件と同一犯とされる。

シャークネードに始まるアサイラム配給のサメ映画の最新作にして原点回帰をうたった今作だったが、低予算が故に笑えないほどに出来が悪いと映画評論家からは酷評された。


2023/8/9 「Hello, Rick」

被害者の女子高生は、ヤギのゴムマスクをかぶった状態で発見される。
恵比寿の映画館で鑑賞後、吹き抜けとなっている2階から地下1階に向け飛び降りたとされたが、その死体は高所から突き落とされたヒロインの死体とよく似ていたという。

動物を模したマスクをかぶった主人公を操る2D見下ろし型アクションゲームを原作にした映画。
狐の面をかぶった主人公がめっぽう強い本作は、ジョン・ウィックの完全な劣化版と揶揄された。

原作者はこの事件にかかわらず直近2年間は公式のアナウンスを行っていなかったが、ヤギのマスクの少女が主人公のDLCを開発することを9月のゲーム展示会で急遽発表した。

****


火が通り少し萎んだエリンギを2枚重ねてパクリと食べ終えてから、探偵は率直な感想をこぼす。

「なんかどれも面白そうやないね、映画」

駒場も、『PUMA』に出演している女優の玉木文乃くらいしか顔が思い出せない。
それでも、少なくとも被害者たちは好き好んで見に行ったのだ。
上映初回に見にいこうとしたのだ、熱心なファンだったことは容易に想像がつく。
だからこそ、あえて否定も肯定もしなかった。
故に、淡々と事実を述べるのみにとどめた。

「確かに、いずれもどこの劇場でも公開しているわけではなかったですね」

ふむ、と内海は顎を撫でる。

「しかもいずれも公開初日最初の上映枠のほぼ直後に殺害されとる」
「映画館で被害者と犯人は同時に映画を鑑賞し、映画の内容に見合う方法で被害者を殺害したというのが、うちの本部長の見解です」
「いやそんなわけないやろ。事前に映画の内容を知っていないと凶器を用意できひんやないか」

たしなめるように、カチカチと内海はトングを鳴らす。

「なに、タネは簡単や。犯人は本国で公開されたタイミングで映画を前もって見ていたんやろうね。映画関係者でなくてもネットにわんさと溢れとる海賊版さえ見れば、どんな方法で殺せば映画に似せられるか考えられるんよ」

駒場は、自分の皿にのせられたエリンギに辛味噌を混ぜたタレを絡ませる。

「しかしそうなると被害者が絞り込めません」
「だから、今回起きた事件が重要なんやないか」

角刈りの探偵はどうやらトングを鳴らすことが癖になっているらしい。
そうして手持無沙汰になっては、いつの間にか広げたセセリが金網に引っ付かないようにいじくっている。

「大館の映画は文字通りの、事前に映画の内容を知ることができて、大舘の持っていたペットボトルを盗むことができる人間はかなり限られるやろ?」
「しかし上映中はほとんど、エンドロールが流れてからに至っては誰一人として持ち場を離れていないんです」

駒がが七輪に目をやると、探偵は金網にカルビを押し付け油を落としていた。

「ほとんどっちゅうことは、誰か席立ってんねや」
「ええ、上映開始から30分ほど経ってから、インタビュアーを務めたフリーアナウンサーがトイレに立っています」
「アナウンサー?」
「映画誌にも掲載する関係でコンプラに反した内容がないか、事前の打ち合わせで印象的なシーンをいくつか共有されていたようです」

コンプラ、ねぇ。どおりで見る映画見る映画グロもエロも表現が厳しくなってるわけだ。
内海は昨今の映画の質の低下に苦笑する。

「ただトイレに行った時点では被害者はまだ席におった。つまり殺害は不可能っちゅうことやな」

駒場は白米とカルビを呑み込んでから、「ええ」と短く返す。

「そのほかの観客もエンドロールまで一度も席を立っていません。つまり、被害者を映画の内容になぞらえて殺害出来た人間は一人もいない、それが母の出した結論でした」

内海は焼いた肉を頬張りながら、駒場の言葉を聞いていた。
そして、腕を組んで言うのだった。

「ほな、自殺やないか」
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