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「セレステ、コンサレス、アルマダ」
そうとなえると、死神を名乗る不審者は、ひょいと俺の足下から離れた。
体がすっと軽くなり、俺はベッドの上で上体を起こす。
やはりそこには、髑髏と白骨化した両手を包んだ黒いボロ布がフワフワと浮かんでいる。
ぎょっとしてビクリと震える俺を無視して、死神は天井照明からぶら下がる紐をカチリと引っ張った。
部屋中に白い光があふれかえることはなく、柔らかいオレンジ色の光が俺たちを包み込んだ。
スポットライトにしては、目に優しい色だな、なんて場違いな感想が胸に去来する。
「それで?お前のことは何て呼ぼうか。サイモン?ハルマ?それともシミったれか?」
「・・・ハルマで頼む」
呼び名の候補を指折り数えながら軽口をたたく死神を、俺は遮った。
驚いたように死に実がh動きをピタリと止めた。
「ならハルマ!」死神は演技かかったように大声で俺を呼ぶ。「まずは自己紹介だ」
「・・・誰に?お前は俺の事、知ってて来たんだろ?」
死神は黙ったまま、俺に促した。
何故か俺は死神のいる方向ではなく、壁を向いて話し始めた。
「サイモン・ハルマ。24歳、男。職業はフリーターだ。彼女はい・・・」
「それと、もうすぐ死ぬ!ぎゃははは!」
死神が割り込み、下品に哂う。
俺は恐怖に汗をにじませながら問いかけた。
「その、俺が死ぬってのは、どういう意味なんだ?俺は今の所ぴんぴんしてるけど」
「ドアの鍵を閉めてチェーンを掛けろ」
「ドア?鍵なら閉まってるはずだが」
死神は白い骨の手から人差し指だけをぴんと伸ばして、「シーッ」とたしなめてから、そのまま壁に貼ってあったホラー映画のポスターを示して言った。
「ついでに、換気扇にそこのポスターを貼り付けてこい。裏面が見えるようにだぞ。ほら急げ!」
俺は訝しみながら、ドアに近寄る。
確かに、ドアの鍵は開いていた。我ながら不用心な!
俺は言われた通りに鍵を閉め、チェーンも掛ける。
そして壁からはがしたポスターを言われた通りに換気扇に貼りつけた。
「これでいいか?」
ワンルームを振り返ると、死神の姿はすでに跡形もなく消えていた。
「いない・・・」
ギチギチギチギチ。
次の瞬間、俺が先ほど鍵を掛けたドアのノブが回る音がした。
口から心臓が飛び出るほどの吃驚に、俺は後ずさる。
ギチギチギチギチ。
部屋を間違えたのとは明らかに違った。
ゆっくり慎重にドアを開けようとしている音だった。
やがて、鍵によってそれ以上回らないところまでノブが来ると、ゴンッ、ゴンッと金属同士のぶつかり合う鈍い音が数度響いた。
ゴンッ、ゴンッ。
ゴンッ、ゴンッ。
それでもドアは開かない。
ドアの向こう側の人物はピッキングの技術はないらしく、鍵が閉まっているとわかって諦めたらしい。
それっきり静かになった安心感から、俺は大きく息を吐いた。
「ンだよ・・・死神より怖いじゃないか・・・」
おずおずと俺はドアに近付くが、結局その静寂は一瞬で打ち破られた。
ガコン、と言う音がドア脇にある換気扇から響いたのだ。
きっと、カバーを外した音だ。何故?決まっている、侵入できないか探っているんだ!
俺は尻もちをつき、尾てい骨の痛さに震えながらも、なんとか悲鳴を出さないように両手で口を押さえた。
「諦めてないのかよ!諦めろよ!」
小声で俺は毒づく。
その直後聞こえた「ギャッ!」という小さな悲鳴の主は俺ではない。
外にいる人物がポスターに印刷された怪物を換気扇の隙間越しに見て驚いたのだろう。
バタバタと言う足音が遠くへと去っていった。
死神の言葉を思い出して呟く。
「俺の寿命は絶望的、か・・・」
ドアを開けて、背格好を見てやろうなんて気は微塵も起きない。
下手すりゃまだ息を殺してドアの向こう側にいるのかもしれないのだ。
バクバクと、まるで短距離走でもしたかのように心臓が拡大と収縮を繰り返し、トイレを我慢しているときのような嫌な汗が全身に滲む。
到底、このままベッドでもう一度寝るなんてことはできそうにない。
俺は助かったのか、確かめたい。
そうだ、怪人が向こう側にいるなら、せめて姿だけでも拝んで警察に連絡してやろう。
そう勇気を振り絞りドアスコープを覗くが、そこには誰の人影もない。
「はーッ!っぶね~!」
安堵の声が漏れる。
死神と、殺人鬼は去っていった。
残されたのは鼻息の荒い、男が一人。
これは、俺が死ぬまでの物語である。
そうとなえると、死神を名乗る不審者は、ひょいと俺の足下から離れた。
体がすっと軽くなり、俺はベッドの上で上体を起こす。
やはりそこには、髑髏と白骨化した両手を包んだ黒いボロ布がフワフワと浮かんでいる。
ぎょっとしてビクリと震える俺を無視して、死神は天井照明からぶら下がる紐をカチリと引っ張った。
部屋中に白い光があふれかえることはなく、柔らかいオレンジ色の光が俺たちを包み込んだ。
スポットライトにしては、目に優しい色だな、なんて場違いな感想が胸に去来する。
「それで?お前のことは何て呼ぼうか。サイモン?ハルマ?それともシミったれか?」
「・・・ハルマで頼む」
呼び名の候補を指折り数えながら軽口をたたく死神を、俺は遮った。
驚いたように死に実がh動きをピタリと止めた。
「ならハルマ!」死神は演技かかったように大声で俺を呼ぶ。「まずは自己紹介だ」
「・・・誰に?お前は俺の事、知ってて来たんだろ?」
死神は黙ったまま、俺に促した。
何故か俺は死神のいる方向ではなく、壁を向いて話し始めた。
「サイモン・ハルマ。24歳、男。職業はフリーターだ。彼女はい・・・」
「それと、もうすぐ死ぬ!ぎゃははは!」
死神が割り込み、下品に哂う。
俺は恐怖に汗をにじませながら問いかけた。
「その、俺が死ぬってのは、どういう意味なんだ?俺は今の所ぴんぴんしてるけど」
「ドアの鍵を閉めてチェーンを掛けろ」
「ドア?鍵なら閉まってるはずだが」
死神は白い骨の手から人差し指だけをぴんと伸ばして、「シーッ」とたしなめてから、そのまま壁に貼ってあったホラー映画のポスターを示して言った。
「ついでに、換気扇にそこのポスターを貼り付けてこい。裏面が見えるようにだぞ。ほら急げ!」
俺は訝しみながら、ドアに近寄る。
確かに、ドアの鍵は開いていた。我ながら不用心な!
俺は言われた通りに鍵を閉め、チェーンも掛ける。
そして壁からはがしたポスターを言われた通りに換気扇に貼りつけた。
「これでいいか?」
ワンルームを振り返ると、死神の姿はすでに跡形もなく消えていた。
「いない・・・」
ギチギチギチギチ。
次の瞬間、俺が先ほど鍵を掛けたドアのノブが回る音がした。
口から心臓が飛び出るほどの吃驚に、俺は後ずさる。
ギチギチギチギチ。
部屋を間違えたのとは明らかに違った。
ゆっくり慎重にドアを開けようとしている音だった。
やがて、鍵によってそれ以上回らないところまでノブが来ると、ゴンッ、ゴンッと金属同士のぶつかり合う鈍い音が数度響いた。
ゴンッ、ゴンッ。
ゴンッ、ゴンッ。
それでもドアは開かない。
ドアの向こう側の人物はピッキングの技術はないらしく、鍵が閉まっているとわかって諦めたらしい。
それっきり静かになった安心感から、俺は大きく息を吐いた。
「ンだよ・・・死神より怖いじゃないか・・・」
おずおずと俺はドアに近付くが、結局その静寂は一瞬で打ち破られた。
ガコン、と言う音がドア脇にある換気扇から響いたのだ。
きっと、カバーを外した音だ。何故?決まっている、侵入できないか探っているんだ!
俺は尻もちをつき、尾てい骨の痛さに震えながらも、なんとか悲鳴を出さないように両手で口を押さえた。
「諦めてないのかよ!諦めろよ!」
小声で俺は毒づく。
その直後聞こえた「ギャッ!」という小さな悲鳴の主は俺ではない。
外にいる人物がポスターに印刷された怪物を換気扇の隙間越しに見て驚いたのだろう。
バタバタと言う足音が遠くへと去っていった。
死神の言葉を思い出して呟く。
「俺の寿命は絶望的、か・・・」
ドアを開けて、背格好を見てやろうなんて気は微塵も起きない。
下手すりゃまだ息を殺してドアの向こう側にいるのかもしれないのだ。
バクバクと、まるで短距離走でもしたかのように心臓が拡大と収縮を繰り返し、トイレを我慢しているときのような嫌な汗が全身に滲む。
到底、このままベッドでもう一度寝るなんてことはできそうにない。
俺は助かったのか、確かめたい。
そうだ、怪人が向こう側にいるなら、せめて姿だけでも拝んで警察に連絡してやろう。
そう勇気を振り絞りドアスコープを覗くが、そこには誰の人影もない。
「はーッ!っぶね~!」
安堵の声が漏れる。
死神と、殺人鬼は去っていった。
残されたのは鼻息の荒い、男が一人。
これは、俺が死ぬまでの物語である。
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