at night

八木山

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起②

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「それでは、バクラさんのことでも、他に不審者を見てことでも何でもいいので。何か思い出したことがあれば連絡ください。それでは」
「はあ、ご苦労さんで・・・す」

言い終わるより先に、玄関の扉はかためかしいスーツ服を着た筋肉質な男によって、バタンと無造作に閉じられた。
男はこのあたりの警察署の刑事と名乗り、俺が住むアパートの住人が強盗殺人の被害に遭ったという事件について、聞き込みをしにきていた。

被害者の男は、ヤヌシ・バクラ。
俺の部屋とは別のフロアの部屋に住む彼は、犯人は心臓を一突きされ、苦しむ間もなくバクラ氏は即死したという。

その話を聞いて俺は、心臓が縮み上がると同時に、どこかで後悔していた。

俺は、刑事に全てを正直に話すべきか迷った。
だが、結局は何者かが俺の部屋にも入ろうとドアノブを捻ったことだけ伝えるにとどめた。
死神の警句や換気扇のポスターで追い払ったことについては語らなかったということだ。

「死神どうこうなんて信じるわけもないもんな」
「ここにいるぞ」

刑事の来訪を告げる呼び鈴で俺が飛び起きると、昨日と同じように手に持ったレモンを上に放っては捕まえてを繰り返しながら、死神は部屋の隅に立っていた。
どうやら、別に日の光が苦手と言うわけではないらしい。

死神なんていない、とすると、刑事に伝えられることは大して多くない。
まず犯人の姿は何も見ていないし、死神に起こされて時間を気にする余裕もなかったので、犯行時刻もおぼつかない。
決定的な目撃証言になるかもと思ったのか、刑事は最初こそウンウンと頷いていたが、しまいには「それは残念」とそっけなく返すだけだった。

死神は「死神がいると言ってみろ」と囃し立てていたが、その声は刑事には届いていない様子だった。

「あーつまんねぇ、つまんねぇなぁ」と落ち込む死神と、非番なのに朝早くから起こされた俺だけが、ポツリと部屋に残され、今に至る。

「ハムエッグでも作るか」

俺が朝食の用意をしようとすると、死神は急に言い出した。

「よし、ゲームをしよう。お前が無視しても説明はする。ざまみろばーか!」

本当に無視していると、レモンを投げてきた。

「いてえな!」
「ゲームのルールはこうだ。フリップドン!」

・・・
<死神のゲーム>

ルールその1
・・・

「待て待て」
「なんだよ、まだ何も説明してないだろ」
「いや、何だよ今の子供の声。教育番組かと思ったぞ」

ルールその1るぅるそのいち! じゃねえよ。お遊戯会か?
死神は「Zasada nr 1」と書かれたフリップを持ったまま微動だにせず、呆れたように言った。

「あのなぁ、子供死神だっているに決まってんだろうが・・・」
「子供死神て。じゃあ大人死神もおじいさん死神もいるのかよ」
「いるよ」
「いるの!?」
「面白黒人死神もいるけどな、そこは本題じゃないんだよ」

・・・
<死神のゲーム>

ルールその1
死神は、寿命が1週間以内の人間が寝ているなら、その足元に立たなければならない

ルールその2
死神は、その者の寿命が24時間以内なら、その枕元に立たなければならない

ルールその3
死神が足元にいる時に選ばれたプレイヤーが呪文を唱えた場合に限り、死神は刈り取る寿命を変更しなければならない

ルールその4
一度変更された寿命は、再度呪文によって変更することはできない

・・・


勝利条件も敗北条件もない、これのどこがゲームなんだ?
と疑問に思った俺を見透かしたように、死神は続けた。

「そうだよな、お前に有利すぎるルールだ。何せ、勝敗なんてないんだから。なのでルールに追加しようじゃないか。『ルールその5 この街にはアガタ・サナの現在について知る死神がいる』」
「・・・なんだと?」
「同姓同名の別人じゃあないぞ?お前と同じ高校に通い、お前と一時期付き合っていた(ヒュー!)あのアガタ・サナだァ~」

俺は愕然とした。
チラリと、シンクの端に立てかけた写真立てを見る。
そこには、俺と腕を組む、行方不明となった彼女の姿があった。

彼女の
俺自身もとっくに死んだと思っていた彼女について、死神があえて「彼女の」と表現しないのには、何か意味があるはずだ。
それこそ、どこかで生きているのだろうか。
死神はそんな俺の迷いを見透かしたように、カタカタと骨だけの顎を鳴らした。

「な、死神にも色々いるんだよ。お前は、今にも死にそうな奴を見つけて、死神を追い払うついでに話を聞けばいい。それにお前貧乏だろ?なんなら命を救ったついでに金を貰ってもいい。咎めやしないさ」

確かに、それはありかもしれない。
仮に彼女が地球の裏側で生きているなら、俺はそこまで会いに行きたい。絶対に。
だが、そのお金もないのが実情だ。くそう。
まるで俺のために設えられたかのような死神の提案に、俺は首を傾げた。

「一ついいか、何で俺にそこまで構うんだ?」

死神は、真似して首を傾げて言った。

「そうでもしないと舞台が進まないからだろうが」
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