ノケモノケモノ

乃火マキナ

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閑話/誘導し、繁殖する接木

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 あるところに、無辜なる人々に天国へ行ける免罪符を不当に販売する悪い悪い詐欺師達がいました。
 詐欺師が狡猾なのは彼は敬虔な神父に化けていたことです。
 詐欺師は清廉潔白な神父たちを悪魔のように金銭で誑かし、銀貨30枚を夜の闇に紛れてこっそりと配りました。
 神父達の影は夜の影のように深みが増しました。
 多くの敬虔な神の子たる信徒は文字を読めない人々が多いのです。
 詐欺師はそこを利用し、神の言葉を読み上げるときに幾つかの嘘と不安を煽りました。
「もし、免罪符の払う銅貨を削るなら地獄に行くだろう」
 皆、地獄には行きたくはありません。
 日々日々、畑を耕し、不当な行為を嫌い、家族を養い、日曜日は教会に集まる素朴な、だけど真面目な彼らは恐怖に駆られ、限られた銅貨をくすねる不心得者まで出る始末であり--不心得者は銅貨が増えたのだから天国に近づいたと思うことで己の罪を正当化し、銅貨が少ない貧しい者たちは自分たちは地獄に行くしかないのだろうと元気のない顔で以前より覇気もなく動く死体のように諦観の中、働くだけでした。
 そして、その両者にすらなれない哀れなモノが橋の下で乾いていったとしてもそれを気に掛ける者はいません。
 それにとらわれることなく家中を村中を引っ掻きまわし少しでも銅貨と変えられるものを探し回ることに必死でした。
 不誠実が横行すれば人々は目先の物に囚わられ、秋の収穫のあとの春先の種まきも、治水工事にも手が回ることなく日銭を求めていきます。
 やがて雨季になり、貧しい者も奪う者も不心得者も地獄に行く前に、地獄を見ていた人も痩せた土地の上を滑るように流れる水に流されていきます。
 橋の下の乾き果てた誠実な聖者だったモノは不道徳な世界の生み出した洪水で渇きは癒え、やがて流されました。
 不道徳が人々の小さな世界を壊していきます。
 詐欺師たちは素知らぬ顔、安全な高台の教会でもう使えないと見た村を捨てて次の銅貨のために、この村の悲劇を免罪符の払えなかった逸話として喧伝する他の材料として、自分たちの次の銅貨のための話にするためにそそくさと逃げていきます。
 次の村でも話をするのです、お前たちが私たちに対して正当な価値のあるものを出せばあの村のようにならずに済むだろう、と。
 その惨状はいく先々の村々の人々は知りません。
 彼らは仲間を増やし、あつめ、その一派はとうとう教皇庁を乗っ取ったのです。
 それに気づいた帝国の騎士は名を隠し、教皇一派を打ち破るために数少なく残った真摯で敬虔な薄汚い金では汚れていない神父たちと協力しました。
 人々は帝国が真実を描いた新聞を見て、吟遊詩人の話を聞いて怒り狂います。
 活版印刷によって正しい内容と正しい神の言葉が書かれた聖書と神の言葉が広がります。
 今の教皇一派は嘘で人々から金を盗むだけの詐欺師だと大陸中に悪党どもの名前が喧伝されました。
 そして悪逆の限りを尽くした悪漢とそれに雇われた僧兵に化けた野党がナナシの騎士に倒されます。
 人々は喝采をあげます。

 騎士様、万歳!
 新教皇、万歳!
 帝国は神の加護により一層繁栄していくことを約束されました。
 めでたしめでたし。
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