【完結】神様は愛し子を餌付けしたい

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番外編その1 現世の交わり

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「ヴィナよ、今日は3.5センチのぷらぐが入ったのだ! もうすっかり馴染んでしまってな、抜くと少々腹が寂しく」
「ムシュカ様、お願いですから帰宅した瞬間に俺を殺さないで下さい。……ううっ、分かりました、成果は後で伺いますからそんなしょんぼりしないで、ね、ほらご飯にしましょう!」

 それからというもの、ムシュカはその飽くなき探究心を自己開発に全振りし、実に充実した拡張生活を送るようになってしまった。
「まだ準備も出来ていないのに、俺がやる気になったら大変ですから!」と新太の前でえげつない玩具達と尻で戯れるイベントだけは全力で阻止したものの、一人で過ごす暇と不安も相まってか、昼間はせっせといけない遊びに全てを注ぎ込んでいるらしい。

(ま、まぁ、ずっとえっちい事ばっかりしてるわけじゃないし……にしても、まさか神様がここまで家事をこなせるようになるとは思わなかったなぁ……)

 ――生来の飲み込みの早さ故か、ムシュカは一通り使い方を教わった家電を見事に使いこなし、日々洗濯に掃除に炊事にと励む日々を随分楽しんでいる。
 何せ元は王族だったのだ、何一つ経験が無かったからこそ面白いのだと語るその声には、嘘も虚勢も無さそうだ。

 だからこそ、昼間はどれだけ耽溺していても窘めようがないんだよな……と新太は苦笑を漏らしダイニングの椅子に腰掛ける。

 目の前に広がるのは、ほかほかのご飯に具だくさんの味噌汁、そして焼き魚と酢の物だ。
 ほんの一月前まで概念すら知らなかった異世界の料理だというのに、神様ちょっとスペック高すぎない? と思いながら口に運んだ魚は実にふっくらとした絶妙の焼き加減で「そうだよ、これを求めてたんだよ!!」と心の中の食いしん坊がすかさず雄叫びを上げた。

「ほんっと、神様は全知全能すぎて……はぁ、尊さに後光がさしてる……」
「ふふ、ヴィナが幸せなら何よりだな」

 そう、かつての主君はあの頃と変わらず何事においてもそつなくこなす、いわゆるスパダリというやつのままだ。
 ……ちょっと好奇心が旺盛すぎて、知らない世界にも躊躇無く飛び込んでいく柔軟さが全方面にありすぎるのが、玉に瑕ではあるが。

(にしても今日の神様、ちょっと色っぽいような……)

 ムシュカがこの地に降りたってから、家で過ごす食事の時間は随分色鮮やかになった。
 一人静かに味を噛みしめるひとときもそれはそれで悪くは無かったが、やはり愛しい人と向き合い、同じ時と味を分かち合える瞬間は格別だ。料理の味だけでは無い、なんとも温かく優しいものが胃袋と心をじんわりと満たしてくれるから。

 だがそれにしても。
 髪をかき上げる仕草が、随分扱いに慣れた箸を口に運ぶ所作が、そして味噌汁を口にしてほぅと漏れる温かい吐息が……今日はまるで淡いピンクを帯びた矢のように、新太の胸にプスプスと刺さっている気がする。

「週末には、またあの食材店に行かぬか? お主の好きな麺料理を、何としても再現して……どうした、ヴィナ」
「え? あ、その……今日のムシュカ様、なんだかいつも以上に美しいなって」
「ふふ、そんな惚けるほどの美しさか。お主は表情も反応も素直で、実に愛おしいな」
「んぐっ!? か、神様っその唐突な告白は天に召されますって……んん?」

 不意打ちのせいで魚を喉に詰めかけた新太は、慌ててグラスに注がれた麦茶をあおる。
 そうして何気なしに逸らした視線が捉えたのは……リビングの一角に設けられた、小さな棚だ。

 そこには、ムシュカが買いそろえた大小様々なディルドやプラグが、整然と並べられている。
 どうも完全無欠に見える神様は、恥じらいという概念だけはかの国に置き忘れたまま、この世界にやってきてしまったようだ。
「二人の家なのに、何を隠す必要があるのだ? ましてあれはお主からの贈り物では無いか」と可愛く小首を傾げられては、いや俺は推しに課金しただけでブツを送った覚えは無い! と反論することも出来ず。
 お陰で新太は、インテリアよろしく並んだ破廉恥な道具を眺める度それ来たと暴走する息子さんに、すっかり手を焼いている。

 ――だが、今日の問題はそこではない。

 2段目の右から2つ目。
 明らかに見た覚えの無い謎のフォルムの物体が、鎮座している。
 先が膨らんだ棒状?の部分は何となく使い道も分かるが、根元にはもう一つ……短い突起が付いている。いくら神様が異世界の人とはいえ、男にそれの入る穴はないはずだ。

 そう言えば、数日前にカードの利用通知が来ていたような……と新太がそうっとムシュカの顔を見ればその意図に気付いたのだろう、神様は花のような笑みを零した。

「なかなか面白い形であろう? いや、この世界のからくりは人類の叡智の結晶と呼ぶにふさわしい! ……あれは『めすいきすいっち』なるものを開発する道具でな」
「ちょ、今神様から出てきてはいけない言葉が聞こえたような」
「穴を拡げるのもそれなりに悦くはあるのだが、あやつを使うと腹の中と外から効率的に刺激出来ると書いてあったのでな……ふふっ、本当に勝手に動いて気持ちよくなれるのだぞ! あまりの快感に、気がついたら夕方になっておって」
「それか、そのフェロモンまき散らしまくりトロ顔の原因は!!」

 ちょっと病みつきになりそうだとうっそりした顔でレビューをつれつれと語る神様に、推しの笑顔こそが生きる原動力である新太が何かを言えるはずも無く。
 新太は「お主も少し試してみるか? 日頃の疲れも癒えるかもしれぬ」と善意100%のオーラを纏ってとんでもない爆弾を投げつけてきたムシュカを、必死に押しとどめるのである。


 ◇◇◇


「……今日はいつにも増して元気なようだな」
「ムシュカ様は、ご自分の魅力に気付いてなさ過ぎだと思うんですよね……」

 カーテンの隙間から月明かりが差し込むベッドで、二人はいつものように抱き合い口付けを交わす。

 相変わらず新太は子供のような可愛いキスをするだけで、ちょっと舌で唇を突けば目を白黒させる有様だが、それでもたった一月でムシュカが何も言わずとも、自ら唇を触れ合わせられるようになった。
 これは革命的進歩だと内心感動している神様は、特段それ以上を急かすことも無く、愛し子の穏やかで優しい愛を受け止めている。

(まぁ、こちらは全く優しく無さそうだったがな……服の上からでも立派だとは思っていたが、ここまでとは)

 時折謝りながらも擦り付けられる剛直は、確かに新太の体格を思えば当然の大きさであった。
 在りし日には何も考えず自分の大きさを目安に準備をしていたのだが、今思えばヴィナが超絶奥手で良かったかも知れぬと、ムシュカは内心安堵している。

 ――今の新太だから、半泣きで軟膏をてんこ盛りにされるだけですんだのだ。
 これがあの頃のヴィナのままなら、初めての秘め事を終えた瞬間、責任を感じて自害を試みたに違いない。

「……もう少しだけな、待っておれよ」
「んぅ……ちょ、ムシュカ様……」

 ムシュカの細い指が、服越しの雄にするりと絡む。
 思わずびくりと腰を跳ねさせ息を詰めた新太の耳に「……分かっておるのだ」と少し掠れて不安を帯びた声が流し込まれた。

「ここは平和な世界で、恐ろしい業火も存在しなければ、お主が戦いに出る必要も無い」
「ええ。……その節は盛大な勘違いをさせてしまって、すみませんでした……」
「よい、私が早とちりしただけだ。……それでもな、不安は消えぬ」

 またこの温もりが、理不尽に奪われてしまうのでは無いか。
 冷たい寝台の上で枕を濡らすだけの日々に、戻ってしまうのでは無いか。
 ――刻み込まれた喪失は、再会と同居を経てもなお、ムシュカの心に小さな棘を刺したままだ。

「だから私は、お主にうんとよりをかけて食事を振る舞うし、一刻も早くその熱を受け入れたいと願う。夢では無く、この世界で、な」
「ムシュカ様……」
「これはな、今日が最期であっても悔いは無いと、自分に言い聞かせたいだけの我が儘に過ぎぬのだ。……やつれ果てたお主のために必死で神を演じてきたが、私はただの人だぞ、ヴィナ」

 推してくれるのは実にありがたいが、どうか一人の恋人であることも忘れないでくれ……
 そう呟きながら眠りに落ちるムシュカを抱き締める手に、ぐっと力が入った。

「……大丈夫です、ムシュカ様。俺はもう絶対に、あなた様を置いてどこにも行きません。それに」

 神であろうが人であろうが、俺にとってムシュカ様は、生涯を共にする唯一の人ですから――

すうすうと寝息を立てる麗しき人の頬にそっと口付けを落として、新太は改めて誓いを立てるのだった。

「にしても……神様、流石にそこを握ったまま眠るのはちょっと……うう、どうしようこれ……」

 ……参ったなぁともどかしそうに腰を揺する新太の胸の中で、最推しの神様がふっと微笑んだことには気づかずに。
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