【完結】神様は愛し子を餌付けしたい

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番外編その1 現世の交わり

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「……死ぬほど痛いな。夢では初めてでも全く痛みは無かったのだが」
「当たり前です!! ムシュカ様は人の身体の脆さというものを、もう少し自覚なさってください! ……ほら、軟膏塗りますよ? あーあーがっつり切れちゃってる……」
「ぐぅ……恐ろしくしみるな……ヴィナよ、もうちょっと優しく塗れぬか」
「全力で優しく塗ってもしみると思いますよ、これじゃ……」

 明くる朝。
 以前よりは幾分広くなった丈夫なベッドの上には、うつ伏せになって呻くムシュカと、半泣きになりながら24時間営業のドラッグストアに駆け込み、痔の薬を手に入れた新太の姿があった。
 朝日が差し込む部屋で推しの痛々しい窄まりにそっと軟膏を塗り込めば、あまりの痛みにびくりとまろい尻が跳ねて……こちらまでお尻が痛くなってくる。

「いくら何でも無茶しすぎですよ……受け入れる側は確か、かなり準備を必要とするでしょう? 前世の知識だからあやふやですけど」

 薬を塗り終えた新太は、改めて神様の秘めた蕾をじっと眺める。
 何の穢れも知らない、色の薄いそこは半透明の膏薬に覆われテラテラと光っていて、途端に昨日のムシュカが脳裏に再生されるものだから、実に股間によろしくない。

 大体、こんな可愛らしい穴じゃ自分の体格に見合った元気な息子さんはただの凶器でしかない……と新太はため息と共にしょんぼりと肩を落とす。
 だがそんな愛し子を気遣おうとしたのか「うむ、常々準備はしておったのだ」と呻き声の合間に返事が返ってきて、思わず新太は「はい?」と素っ頓狂な声を上げた。

「つね、づね…………!?」
「お主を正室に指名した以上、いつ何時そういう事態になっても良いように備えるのは当然であろう。あの頃は政務の合間を縫って地道にだな……ヴィナよ、ティッシュは枕元にあるぞ。その様子では先に詰めておいた方が良いのでは無いか?」
「だだだって、推しの脳内妄想エロスチルがまた増えたんですよ! これで反応しないとか最早人間じゃ無いっす!! にしても、前世の俺じゃいくら準備したって無駄だった気が……」
「いいや、恋人と手も繋げないようなもじもじヴィナとはいえ、立派な男なのだ。覚醒する可能性はゼロではない……少なくとも私はずっと信じておったぞ?」
「……ええと、その……前世の俺がすみませんでした…………」
「なに、お主には人より時間が必要だった、それだけのことだ」

 痛みに顔を顰めながら、しかしムシュカは目を輝かせて「これは実に良い学びだった」と何やら頷いている。
 二度も思いを遂げられなかったのだ、流石に意気消沈しているかと心配していた新太は、その意外な反応に少し戸惑いを覚えつつもご機嫌で何よりだとひとまず安堵を覚え、何気なく「学びですか?」と聞き返した。

 ……数十秒後、その判断を全力で後悔するとも知らずに。

「お言葉ですが、学びと言うには随分代償が大きすぎる気が」
「いや、この程度の痛みなど可愛いものよ。どれだけ入念に準備しても1年も放置すれば元通りになると知れたことは、実に大きい。……つまりヴィナよ、私の穴を健やかに保つためにも、これからお主は毎日私を美味しく頂かねばならぬと言うことだな!」
「ちょっと待った、論理の方向性がぶっ飛んでますよ神様!!そもそもそこは、健やかって表現する場所なんですか!?」

 新太のツッコミもお構いなしに、これでお主も誘いやすくなったであろう? と神様は満面の笑みを浮かべる。
 そう、このお方は元王太子なのだ。
 有能で民想いと名高かった彼はいつだって王族らしい威厳と自信に満ち溢れていて……その光はあの頃の「ヴィナ」にはあまりにも眩しかったが、まさか尻に傷を負ってすらその威光が衰えぬとは、想定外にも程があろう。

「なに、準備は入念に行うから案ずるでない。お主は頑張って誘い文句を考えておくのだぞ?」とこんな状況においても懲りない神様に一抹の不安を覚えながら、新太は当面夜の絶対安静を宣告するのであった。


 ◇◇◇


 設定上は高卒の浪人生という扱いになっているとはいえ、ムシュカはこの世界のことをほとんど知らない。
 加えて刺激への過敏さや眠りに落ちるときに生じる不安は未だ健在で、新太がいなければ外出もままならないのが実情だ。

 そのお陰か、昼間一人で過ごす不安を紛らわせるよう新太が渡したスマホを使いこなせるようになるのは、あっという間だった。
「このような小さな板で書庫に眠るような情報を読めるとは、素晴らしい文明であるな」と子供のように興奮しきりなムシュカの笑顔に、新太は一体何度尊死しかけたことだろうか。

 全く、推しと同居というのは実に罪作りな常設イベント揃いだ。一撃必殺をこんなに用意しないで頂きたい。

「ところでヴィナよ、少し頼みがあるのだが」

 ……それから2週間ほど経ったある日。
 神様が「少々買いたいものがあるのだが、この世界の支払いはどうすればよいのだ?」と聞かれた新太は、何の躊躇いも無くカードを手渡す。

「ほう、このような板で買い物をするのか……金貨や銀貨がこの中に詰まっているのか?」
「えっと、お金は銀行ってところに……ってあれも結局データだしな……まあいいや、そんな感じです。この番号を入れれば購入できますんで」
「ふむ……本当にこの世界のからくりには、驚くばかりであるな」

 王太子であった頃には私的な物の購入には随分慎重だったムシュカのことだから、金銭面に関しては特段心配もない。
 何より彼がこちらに来てからと言うもの、おはようからおやすみまで供給が豊富すぎて……そろそろ盛大なる課金をしないと、こちらの申し訳なさが暴発しそうなのだ。

 これは渡りに船だったと、スマホをポチポチ操作する神様を見つめる新太の顔は、緩みっぱなしである。

(いやぁ推しに貢げるなんて幸せ過ぎる……はっ、でもこれで神様の笑顔が魅力的になったら、俺の尊死確率が上がるだけでは!?)

 そんな脳みそが沸いたような思考に百面相を繰り返す新太を、ムシュカは微笑ましげに眺めながらも無事人生初のネットショッピングを完遂したらしい。「これで遠くの街に行かずとも買い物が出来るとは素晴らしいな」と感心しきりである。

 すぐさま新太のスマホにやってきた利用通知も十分想定内で、流石俺の最推しは分かってる! と悦に入っていたのは……確か2日前のことだったか。

 ……そう、金銭的な心配「は」全くなかった。
 だから、すっかり新太は油断していたのだ。

「え、ええと……ムシュカ様これは……?」
「なかなか綺麗であろう? これは初心者向けの『でぃるど』と『あなるぷらぐ』だそうだ!」
「し、初心者、向け……?」
「なに、ようやく尻の調子も良くなったからな、準備は早いほうが良かろうよ。ああ、ちゃんと専用の潤滑剤は購入したし、先日使い込んでしまったお主用の潤滑剤も補充しておいた」
「どうしてこうなった!! ……って、使い込むほど中に入れてたんですか!? どうしよう、推しが尊さと残念さの両面攻撃を仕掛けてくる……!」

 仕事を終えて帰宅した新太に開口一番「ヴィナよ、もう商品が届いたのだ! 実に素晴らしいな、この世界は!!」と抱きついてきたムシュカは、まさに「神」であった。
 これだけで課金額の3倍くらいの尊さは頂いた、なんと推し甲斐のあるお方よ……と新太は感動に打ち震え、思わず目頭を押さえたほどだ。

 しかし夕食後、新太の目の前で小さな小包を丁寧に開けたかと思うと、嬉しそうに色とりどりの、しかし色々と残念な製品を開陳するムシュカの姿に、新太は別の意味で天を仰ぎ、嘆く羽目になる。

 ――ああ、心配すべきは神様の積極性の方だった。
 尻の健康を取り戻した段階で、このお方にストッパーなどある筈が無かったのだ!

「しかし、実に不思議な手触りだな。こちらのは芯はしっかりしておるが表面は柔らかいし、このすべすべした感触もなかなか面白い。我が国の性具よりも身体の負担は少ないかも知れぬな……少し試して」
「ちょっと待ったムシュカ様! そっその、一体どこでこのようなグッズを見つけたんですか?」
「ん? ああ、お主用の潤滑剤が入っていた紙の箱に、何やら紙が入っておってな。使った分は補充せねばと店のあどれすとやらを入れてみたのだ。するとだな、なにやら男性向けの拡張講座なるものが」
「うああああ、推しの道を踏み外させたの、俺じゃん!!」

 きっと神様のことだ、好奇心に駆られてこちらの世界の性事情を調べたのかと思い、危ないサイトもあるから……とやんわり窘めようとしたはずなのに。
 まさか届いた箱を開けて請求書も処分しないまま、アダルトグッズをベッド下に放置していた自分のズボラさが神様の好意を捻じ曲げてしまったとは思いもよらず、新太は床にめり込む勢いで土下座を繰り返し

「おお、これは随分もったりした潤滑剤なのだな……なるほど乾きにくく長時間楽しめる、今の私にはぴったりでは無いか!」
「いやどれだけやる気満々なんですか神様! お願いします今日のリアイベはこのくらいで勘弁して下さいっ、もう墓石が足りません!!」
「……ヴィナよ、お主が私を尊んでくれるのは実にありがたいが、少しは耐性をつけようとは思わぬのか?」

 開封イベに続いて更なる高みを目指そうと下着をいそいそと脱ぐムシュカを、全力で押しとどめるのであった。
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