【完結】神様は愛し子を餌付けしたい

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番外編その2 愛しい猛獣の作り方

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「…………ちっ……」
「……その、ヴィナよ……そろそろ出かけねば」
「ん? あ、ああ、そうですね……ふぅっ……」

 一日中推しといられる至福の週末が、こんな地獄になるだなんて思いもしなかった……
 ちょうど折り返し地点となる日曜の朝、新太は珍しく不機嫌を露わにしてソファに沈み込んでいた。
 その手は無意識に中心へと伸び、固い感触に当たる度にチリッとした苛立ちが下腹部に溜まる。

(触りたい、出したい、くそっ……ここを触りたい……!)

 隣に座るムシュカは――流石に膝枕は危険を感じて丁重にお断りした――いつもの休日よろしくのんびりと書物を読み耽っている。
 最近は歴史に興味を持ったらしく、図書館で分厚い本を何冊も借りてきては真剣な表情で目を通している。

 普段はそんな神様の膝を枕にしながら、新太がスマホゲームに興じるのが常であるが、流石に今はそれどころでは無い。

(……そこに、鍵がある…………っ、だめだ、考えるな……!)

 ただの普段着に身を包んだ姿だというのに、髪をかき上げる仕草や何気ない耳飾りの音、肩を寄せ合う温もり……その全てが新太の劣情をかき立てる。
 そして何より目を惹くのは、ムシュカの首にかけられた金属のネックレス……その先にぶら下がっているはずのもの。

「……辛いよな」
「っ、分かってるなら……くそっ、何でもないです……っ……」
「ふむ……全く、そんな状態になってもお主は……それで、どうするのだ? 今日は流石に休むか? 行くなら私が運転するが」
「…………いえ、行きます。身体を動かさないとやってられないですから……あと、ムシュカ様は大人しく助手席に座っていて下さい。貞操具を解放する前に、二人揃って魂が肉体から解放されかねません」
「今のお主より危険だというのか……これでも随分上手く運転出来るようになったと思うのだがな」

 珍しくぶっきらぼうに振る舞う新太は、行きますよ、と神様の手を引く。
 時折もどかしそうに腰をゆすりながらも、繋がれた手はどこまでも優しい。

(……私は5日で限界であったが……お主の自制心は相変わらず鉄壁であるな、ヴィナよ)

 ある意味予想の範囲内ではあるがと腰に低い振動を感じながら、ムシュカは心の中で溜息をつく。

 いくら自分より七つも年上とは言え、まだ新太は三十にも乗らぬのだ。
 毎夜のように推しとベッドを共にしていれば、渇望はどこまでも膨れ上がる一方だと火を見るより明らかだというのに……まるで遠くなったあの頃に戻ったかのように、新太は閨では神様の艶やかな御髪にすら触れようとしない。

(これ見よがしに見せつけても、鍵をねだりも、まして奪おうともせぬとは……本能すら凌駕する忠義は天晴れであるが、今はもう必要ないのだぞ、ヴィナよ)

 無意識であろう、ハンドルを握る新太の瞳には殺気じみた迫力が灯っていて。
 ムシュカは背中に走った痺れに酔いしれながら、けれど運転中の愛し子を苦しめないようにそっと視線を外すのだった。

 ――早くその瞳を私に向けてくれと、熱を溜め込んだ胎を震わせて願いながら。


 ◇◇◇


「今日のヴィナは、いつもにも増して勇壮であったな。まるで騎士であった頃のお主が乗り移ったようであった」
「ま、それでも中学生に軽く捻られちゃったんですけどね! ……でも行って良かったです、ちょっとすっきりしました……いや、まぁ身体は全然ですけど」

 日曜の午後は、新太の運転する車で空手の稽古に同伴する。
 こじんまりした町道場の中は若い熱気で溢れていて、かつて自室の窓から眺めていた風景を懐かしく思いながら愛し子の奮闘を見守るこの時間は、ムシュカにとって至福のひとときだ。

 ……残念ながらその筋骨隆々とした外見とは裏腹に、中学生どころか時折小学生にすら負けているのだが。
 射精管理の鬱憤を全て詰め込んだかのような迫力を持ってしても、その腕が元に戻る日は大分遠そうだ。

「ふぅ、汗びっしょり……すみません、臭いますよね。直ぐシャワーを」
「そうだな。ならば今日は一度きちんと洗うか。ちょうど折り返しであるしな」
「え」

 家に帰るなりシャツを脱ぎ捨てた新太を、ムシュカは呼び止める。
 そうして提案された、思いがけない神様の慈悲に……愛し子はぽかん、と間の抜けた顔を見せた。

(…………洗う?)

 きちんと、洗う。
 ――その言葉が指すところなんて、一つしか、ない。

「え、えっ、あっ、あのっ」
「先に身体を洗って置くがよい。少し準備もあるのでな」
「はっ、はいっ!!」

(は……外して、貰える…………っ!)

 どくん、と歓喜の音が心臓から響いてくる。
 ああ、鏡を見なくたって分かる。きっと今自分は、どこまでもだらしない笑顔を神様に晒している……!

「じゃ、じゃあ入ってきますっ!」
「うむ。ほら、前を向いて歩いた方が」
「いでっ! ! ……えへへぇ……」

 慌てすぎて入口にの壁に小指をしこたまぶつけたけれど、こんな痛みで喜びが潰えるはずも無い。
 もちろん、洗浄が終わればまた閉じ込められることは分かっていても、ほんの一時自由な膨張を許される、それだけで十分嬉しいし

「洗いながらちょっとだけ……うん、ちょっとだけで良いから……ふふっ」

 約束は絶対だけど、洗浄中に良いところに触れるくらいはきっと、自分をここまで愛して下さっている神様のことだからお目こぼし頂けるに違いない――

 熱いシャワーを頭から被りながら、新太はようやく訪れた一時休戦に心の底から安堵し、神様の慈悲に深く感謝するのであった。

「……むぅ、ちゃんと説明をしておいた方が……もう遅いかのう……」

 ……バスルームから漏れ出るあまりの喜びっぷりに、ムシュカが少々どころでない罪悪感を覚えているなどとは、思いもせずに。


 ◇◇◇


「ヴィナよ、用意が出来たが入っても良いか?」
「あ、はい! もう全部洗い終わってますから!」

 こんこんと響くノックの音に、期待の鼓動はますます早くなる。
 ああ、その扉を開けて、あの白く美しい指でこの金属の鍵を外して……

 逸る心を抑えきれない新太の目の前で、扉が開く。
「すまない、待たせたな」と少し申し訳なさそうな顔で謝るムシュカは、艶やかな髪を後ろで束ね、Tシャツとホットパンツを身につけている。
 みだりにその美しい肢体を晒さないで欲しいという新太の願いは、こんな時にも守られている……その事実は、じんわりとした温かさを愛し子の胸に満たすのだ。

「いえっ全然待ってませんから! ……って、その、これは……?」
「ああ……まあ作業をしながら話そう。むしろ……私は謝らねばならぬのだが」
「?」

 そして手には……いくつかの道具と手袋、そしてガラスのコップが載ったトレーが握られていた。
 ……何かが頭の片隅に引っかかって、小さな胸騒ぎを覚える、気がする。

「取りあえず一度後ろを向いてくれるか」
「あ、はい」

 何だろうと首を傾げながら、新太は言われたとおりに湯船で立って背中を向ける。
「いつ見てもお主の背中は広くて……逞しいな」とうっとりした声で愛し子をほめそやしながら、ムシュカはそっと新太の手を後ろに回した。

 次の瞬間

 カチカチカチ……

「へっ」

 冷たい何かが親指に触れた、と思ったら、小気味よい音共に関節が締め付けられて。

「……ムシュカ、様……?」
「…………そのまま動くでないぞ」
「……」

 何が起こっているのか、予想外の事態に頭は思考を止めてしまって。
 そうこうしているうちに首には革の首輪が巻かれ、じゃらり、と頭上で音が鳴った。

「うむ、これでよいな。……気をつけてこちらを向くのだぞ」
「…………あの、ムシュカ様……」

 静かに言い放たれた言葉に、気をつけてとは、と動こうとして……新太は気付く。
 親指はただ金属の何かで締め付けられたのでは無い、左右を繋がれ、戒められていることに。
 
(手が……え、後ろで縛られてる! ? 待って、それじゃ)

 嫌な予感に、身体の感覚が鈍くなった気がする。
 どこかすがるような瞳を向ける新太に、ムシュカは心の中で謝りながら「これは指錠というやつでな」と口を開いた。

「親指の関節を戒めれば、大の男でも外すことはできぬという」
「え……」
「すまない、ヴィナ。先にきちんと話しておくべきだった。……私の力ではお主の膂力に勝てぬから、首輪も着けさせて貰った。暴れると首が絞まる、どうかじっとしていてくれ」
「…………ま、さか……」

 心臓が、痛い。
 けれどこの痛みは、先ほどまでとは全く色合いが違う。

 温かいはずのバスルームなのに、背中に伝うのはどこまでも冷たく、嫌な汗。
 カラカラになった喉で「どうして」と泣きそうな声を響かせれば、神様は再び「すまない」と苦しそうに謝りながら、首にかけた鎖を外す。

「貞操具での射精管理はな、装着者に自慰と射精を禁じる。それは最初に話したな」
「はい」

 かちゃり、と小さな音が、やけに耳に響く。
 引き抜かれた錠は、新太にはどうやっても届かない場所に置かれたトレーに載せられ、続けてゆっくりと半球状の檻が外された。
 ずるり、と音がしそうな勢いで抜かれる尿道カテーテルの感触に「んうぅっ……」と漏れた声は思った以上に甘い。

(こんなものまで……気持ちいいって思うなんて……)

「管理者は装着者がうっかり射精を、そして自慰をしてしまうのを何としても防がなければならない。貞操具をただ着けるだけでは管理は完成では無く……おっと、急がねば抜けなくなるな」

 解放の気配を察知した中心は、直ぐに固さを増そうとする。
 慌ててムシュカは兆した雄を腹の奥に向かって押し込み、固定用のリングを根元から外した。
 そうしてたっぷりのボディソープを泡立てずっしり重いふぐりに塗り込み、ぬめりを借りて一つずつ、慎重にリングをくぐらせる。

 ――この間ほど痛みを感じなかったのは、十分な潤滑剤故だろうか、それとも……あまりのショックに、世界を感じられなかったせいか。

「……痛くはないか」
「…………っ……ムシュカ様……これじゃ……」
「人の意志は、本能の前には無力だ。例え洗浄目的であっても、つい魔が差して約束を破ってしまう可能性はゼロでは無い。だから」

 聞きたくない、と言わんばかりに新太はぶんぶんと首を振る。
 その瞳は涙に潤み、絶望を湛え、身体は小刻みに震え……ようやく全力を出せた剛直は、その先端からつぅ、と糸を引く涙を零しているのに。

「こうやって拘束して、お主の手が一切触れぬ状態で私が洗い上げるのだ。なるべく快楽を拾わぬように、な」
「ひぐっ……そんな、神様……ひっく、ひっく……うう……っ……!」

 あまりにも無情な宣告に、一度期待した心の糸はプツンと切れて。
 大きな身体を震わせしゃくり上げる愛し子に「すまぬ」と短く謝罪を口にしたムシュカは、そのままうっすら汚れの付いた貞操具をゴシゴシと洗い上げるのだった。

 ◇◇◇


「はぁっ、はぁっ、ムシュカ様っ、んっ……!」
「これ、あまり動くでない。……そう腰を振っても触れてはやれぬぞ」
「ううっ……はぁっ、うあぁっ!!」

 洗顔用のネットを使って、もこもこになった泡をたっぷりとまぶして。
 尽きぬ熱情に打ち震え久方ぶりの完全復帰を果たした剛直を、ムシュカは丁寧に洗っていく。

 普段から念入りに洗っていたとは言え、やはり完全に清潔を保つことは難しかったのだろう。
 溜まった汚れを指の腹で軽く擦れば「はぁっ」と上から熱い吐息が、そして涙に潤みながらも突き刺さるような視線が降ってきた。

(やだ、そんなんじゃ余計に辛いっ……ムシュカ様、お願いしますっ触って……!)

 思わず懇願を叫びそうになる己を全力で押さえつけ、新太は歯を食いしばる。
 一言でも「刺激が欲しい」「出したい」と口にしてしまえば……もう、歯止めが効かなく未来しか見えないから。

「ひぐっ……くそぉっ……!!」

 泡で撫でられる感覚にすら、身体が勝手に跳ねる。
 かくかくと情けなく腰を突き出しては、何とかしてその白い手に包まれたいと、滾った中心をぷらぷらと揺らす。
 荒い息の合間にはずっと鎖の音が鳴っていて、何度も引き千切ろうと引っ張り続けている親指には、きっと苦闘の痕が刻み込まれているはずだ。

 どうせ出せないなら、扱けないなら、檻の中に閉じ込められている方がずっと楽だ――
 きっと施錠の音を聞いた瞬間から解放を願うと分かっていても、この狂おしい時間をさっさと終わらせてくれと、馬鹿になった頭は放逸を希求する叫びと共に己の首を絞める思考だけを繰り返す。

「うむ、綺麗になったな。しかしそのままでは着けられぬか……鎮められるか?」
「無理に、決まってる、でしょっ……!」
「だろうな。すまぬが少し手荒にするぞ」
「何を……うぐっ!!」

 そんな愛し子の苦悶をさっさと和らげようと、ムシュカは湯桶で手早く泡を流し、そっと拭き上げた股座にたっぷりとワセリンを塗り込む。

「傷も腫れもないな……歯を食いしばっておれ」
「……っ……ふっ、ぐ…………ぅ……!」

 外したときより明らかに強く指で潰される痛みに、思わず大粒の涙が新太の瞳からこぼれ落ちる。
 ……けれど、もう、そんな最悪の痛みですら……「射精したい」の五文字が頭から消える瞬間を作り出せない……

(痛い、痛い、出したい、痛い……出したいっ……!)

 お願いします、どうか出すことが叶わなくとも。
 その白い御手で、あなた様への愛しさを叫ぶこの砲身を一度だけ、包んで欲しい――
 そんな声にならない願いすら汲み取って頂けない、神様への小さな怒りが胸の奥で弾ける。

 ……この方に怒りを覚えるだなんて、前世でも無かったというのに。

「よしよし、大人しくなったな、えらいぞヴィナ……直ぐに終わらせるからな、もう少し辛抱してくれ」
「……ひぐっ……はい…………」

 カチリ……

 なんで、どうして……
 茹だった頭は当初の目的をすっかり忘れ、ただ本能という激流の中で慟哭を上げながら、再び煩悶の日々が戻ってきた合図を耳にする。

 その音は小さく、けれど大きく、深く、魂まで抉り縛り付けられるかのようだった。


 ◇◇◇


「大丈夫、ではないな……洗浄は辛いと書いてあったが……」
「そんな言葉で終わらせないで下さい……されてみれば、分かりますよっ……」
「……お主の言うとおりだな。そこまでは自分では試せなかったから」
「っ……」

 本来の使い方なら、きっと管理者は冷徹に装着者を戒め、突き放し、もしくは翻弄するのだろう。
 けれど服従を目的としないが故に、最推しの神様はどこまでも愛し子を気遣い、甘やかす。

 ……一番甘やかして欲しいところは封じられたままという、残酷さを伴いながら。

「……これでもまだ、だめなのだな」
「何が、ですか……ぐぅっ、出したい……」

「側にいると頭がおかしくなりそうですから」と少しだけ距離を離し、けれどやっぱり同じソファの端に腰掛けながら、新太は少し心配そうにこちらを伺うムシュカに苛立ちを載せた恨み言を呟く。
 どうやら初めての洗浄は、これまでの比ではない苦痛を愛し子に与えたのだろう。その拳は白くなるほど固く握りしめられていて、今この瞬間も収まらない射精欲に悶えていることが一目で見て取れた。

「欲を放ちたい衝動には、波がある。普段は忘れたふりをしていても、些細なきっかけで情欲は燃え上がる。ちょうど、今のお主のようにな」
「……そうですね」
「日が経つにつれ、波は頻繁に起こり、高さも増す。……きっと今のお主はこれまでに無い衝動を感じているはずだ。殺気が漏れ出すくらいには、な」
「そう思うなら……ぐぅ……」

 それでもお主は、強請らないのだ。
 そう嘆息する神様の瞳には、小さな悲しみが見て取れる。

「私に開放を強請らぬような状況でその戒めを解いたところで、お主はきっと私を襲わない。精々トイレに駆け込むのが関の山であろう? ……そう睨んでも、事実は事実だ」
「……ならもう、諦めて下さいよ……まだ半分だなんて、このままじゃ俺、壊れてしまいますって!」
「ならぬ。ここで中途半端に終わってしまえば、正気に戻ったお主が腹を切りたいと言い出す未来しか見えぬからな」

 流石に壊れる前には襲ってくれると信じておるのだがな、と伸ばされる手を握るのすら、今は癪に障る。
 だが、きっと神様の言っていることは正しいのだ……

 留まることを知らない渇望に焼かれた頭の片隅には、それでも消えないかつての主君への、そして推しへの熱い信頼が灯っていて。

「……反抗は謝りませんから」
「何を謝る必要がある、お主が耐えている証であろうが。その理性があと五日で剥がれるよう、全力で手助けするでな」
「それは手助けじゃ無くて拷問って言うんですよ……くそっ、ううっ……」

 文句を言いながらも白魚のような手をそっと優しく握りしめた愛し子の掌は、いつもより熱くて、しっとりと汗ばんでいた。
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