尼寺のお尻叩きの行

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尼寺のお尻叩きの行

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 十二月三十一日。駆け込み寺としても有名な尼寺。いつもよりほんの少しだけ豪華な蕎麦を頂き、後は百八の鐘を鳴らせば今年のお勤めももう終わりである。
 早めの夕餉を終えた頃。
 この尼寺の伝統的な煩悩を退けるためのお勤めであり、修行であり、仕置きである「悔悟の板の行」が行われる。
 庵主が尼僧一人一人を呼び、その年の罪を文字通り打ち清める為に剥き出しにしたお尻を特別製の響作で百八回きつく打ち据えるというもの。
 ここの尼僧たちは元来仏教に目覚めて出家したというよりは、行き場をなくした女性たちが最後に仏様に縋りついた者たちばかり。
 年若く、俗世のことが忘れられずに少しばかり怠惰になってしまうことがあるようで…。





 甲高い乾いた音が尼寺の最奥にある蔵の中で鳴り響いている。土蔵ではあるが中は普通の畳敷きの一室になっていて、小さなものが一つきりではあるが火鉢も置いてあり、安置してある如来像も相まって本堂と見た目はさほど変わらない。
 違うのは換気用の小窓がある以外は四方を完全に土壁に囲まれているので、音が完全に遮断されること。行を行う場でもあり、戒めの仕置きを行う場でもある。

 バチィンッ!

「んんっ…!はぁはぁ…ひゃ、ひゃくはち…」
 
 この寺で下から二番目に年若い尼僧が手文庫でも乗っていそうな小さめの文机に腹ばいの状態で、丸出しのお尻を突き出している。
 仕置きでもあり、修行でもある以上、一切の手加減のない淡々としたお尻打ちに、その真っ白だった丸いお尻は真っ赤に腫れ上がっていた。

「いいでしょう。今年は大きな声を上げることなく耐える事ができましたね雀蓮。よく頑張りましたよ。さぁ、では最後に白蓮を呼んできてください」

「は、はい…ありがとうございました庵主様」

 雀蓮と呼ばれた二十代後半の尼僧は、下履きを痛そうに履くときっちりと僧衣の上着の裾を整えて庵主に両手を合わせて頭を下げる.少しだけ両手でお尻を擦ると、涙と汗をそっと手拭いで拭って蔵の外へと出て行った。最後の一人、最年少の白蓮を呼びに本堂へと向かったのだ。

 庵主はその間奥に座している釈迦如来像に向けて静かに真言を唱え続けた。
 一心に祈りを捧げるその頭巾の下の顔は、悟りを開いたかのような落ち着いた雰囲気とは裏腹にとても若く美しく見える。実際の年齢は五十路に近いはずだが、先ほどの雀蓮と年の近い姉妹と言われてもだれも疑わないだろう。
 不意に一心不乱に唱えていた真言が止まる。紅など差そうはずもないぷっくりとした紅い唇が僅かに開いた。

「白蓮、座ってください」

 蔵の扉が静かに開いて白蓮が緊張した面持ちでそこに立っていた。年の頃は二十代半ばくらいだろうか。小柄なせいもあって年よりよほど幼く見えた。
 僅かな衣擦れを残して庵主が白蓮の方へと向きを変える。火鉢の中で炭がパチパチと静かに音を立てるだけ。だが、今の白蓮にはその音にすら怯えてしまいそうになる。
 口を真一文字に結んだままおずおずと白蓮が畳に座ると庵主が緊張をほぐすように優しく問いかける。

「貴女がここにきてもう半年ですか。初めての厳しい行になると思いますが、歯を食いしばってしっかりと俗世への思いや罪を断ち切ってくださいね」

「は、はい…」 

 庵主の座るすぐ横に三十センチほどに整えられた響作が置いてある。それを見てしまった白蓮は、胃の辺りを握りしめられたような感覚に耐えながらどうにか返事をした。
 もちろんこの行については聞かされているし、怠けた罰にお仕置きを受けたことも幾度かはあった。
 だが、あの響作を半分ほどにした硬い木の板で剥き出しにされたお尻を百八回も打たれてしまうなど想像しただけで恥ずかしく、恐ろしい。

「人は誰しも気づかぬうちに罪を犯してしまうものです。何か胸の中で悔いるようなことがありますか?」

 あっても無くてもこの問いは変らないし、板のお尻打ちは増えもしなければ減りもしない。教会の告解のようなもので、言葉にすることで心の内を軽くして、悟りに近づこうするためだ。

「あ、いえ、あ…!あの、托鉢の途中でファーストフードで買い食いをしてしまいました」

「まぁ…。罪の告白としては遅いですね。煩悩に負けてしまうのは人間の性ですが、改めようとするのもまた人間ですよ。してしまったことはすぐに報告するようになさい」

 庵主は思わず吹き出しそうになるのをどうにか堪えて、説法をするときのように静かに窘めた。
 だがまるで中学生の違反のようではないか。小柄で可愛らしい少女に見えてしまう白蓮がそれをしたことがとても愛らしく思えてしまった。

「申し訳ありませんでした…」

「その分少しだけ強く打つことにしましょうか。では白蓮「悔悟の板の行
」を始めます。準備なさい

 白蓮は両手を合わせてお辞儀をすると立ち上がり小さな文机の前に立つ。 そしてお仕置きを受けるときと同じように、いやこれもお仕置きの側面を含んでいるのだが。
 とにかく僧衣の上着の裾を持ちあげて下履きの帯を緩めた。それだけで白い下履きがするりと足元に落ち、質素な白いショーツ姿だけになる。まだ寺のお仕置きに慣れない白蓮はまだお尻も出していないのにこれだけで頬を恥ずかし気に紅く染めて、下着に手を掛けるのを躊躇ってしまう。
 
「あまり時間をかけていては除夜の鐘に間に合いませんよ?」

 叱るでもなく窘めるでもなく静かに庵主はそう事実だけを伝えた。
 寺にとってそれは一大事だ。最近では除夜の鐘を鳴らさない寺も増えているというが、世の中の煩悩を払う大事な鐘。尼僧全員がその認識で一致はしている。白蓮とてそれは同じだった。
 覚悟を決めてショーツのゴムに指を滑り込ませる。ぐいと一気に足元まで引き下ろすと下履きと一緒に文机の隣にきちんと畳んで置いておく。
 そのまま文机に腹を乗せると、上着の裾をまくって丸く小ぶりなお尻を打ちやすいように突き出した。
 透き通るような白い太腿はぴったりと閉じられてはいるが、もちろん庵主からは白蓮のあられもない所が全て見えてしまっている。
 白蓮は両手で耳まで真っ赤になった顔を隠して、声を上げてしまいそうになるのを必死に耐えた。

「手は畳の上ですよ。しっかりと煩悩を払えるように一打ごとに数を数えるのです」

 庵主が響作を手に持ち文机の横に座る。そっと白蓮の腰のあたりを左手で押さえて位置を整えた。
 悔悟の板は泣いても、お尻を逃がしても咎められることはないが終わることは決してない。打たれるものが自分の口で百八を数えるまでは一時間でも二時間でも庵主は待つ。だが二十三時半になれば鐘を突き始めなくてはならないのだから実際のところ時間制限はあるだろう。
 勿論、我慢強いものなら十数分程度で終わるし、痛みのあまりに中々数が数えられないとしても三十分と掛からないだろう。
 
(庵主様を困らせては駄目…頑張って行を終えなくては…煩悩退散…)

 初めて受ける厳しい行を前に真言を頭の中で唱えながら白蓮は歯を食いしばった。

「悔悟の板を始めます」

庵主の静かな言葉に白蓮は身を固くする。数十打は経験があったが、百八もお尻を打たれるのは初めてだった。
 次の瞬間静かに振り上げられた響作は小さな風切り音とともに白蓮のお尻へと叩きつけられた。
 
 パシィンッ!

「んっ…!一つ…」
 
 小ぶりながらも柔らかで丸い右の尻肉が潰れた。食いしばった歯の間から呻き声が漏れる。すぐに数を数えるのを忘れない。

 パァンッ!パァンッ!パァンッ!

「あ、二つ。うぅ、三つ。ひぃ…四つ」
  
 規則正しいお尻打ちが蔵の中に響き渡る。庵主は罰もかねて少しだけ普段よりもきつくお尻を叩いた。
まだ十打といかないが、力強くお尻を連続で打たれた白蓮は、腰をくねらせ、呻き声をあげ、畳についた手を拳にしてお尻打ちに耐えようとしている。
 一打ごとに白蓮の尻肉が潰れて響作をはじき返す。
 反射的に下に逃げてしまう紅く染まった両半球を追いかける様に庵主はは響作を叩きつける。

 バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!

「痛ぃっ…二十五っ…ああっ!二十六ぅ…はぁはぁ、んんーっ!二十七っ」

 真言は頭の中で途切れ途切れになっていて、数すら忘れそうだった。涙が溢れ出し、喉の奥が引きつく。行とはいえこうやって剥き出しのお尻を突き出して、木の板でお尻を叩かれて泣いてしまっていることが情けなかった。

「ひぃーっ!?ご、ごじゅう…っ…ああーっ!痛いぃっ!……ごじゅういち…」

 五十打を過ぎると頭の中は真っ白になっていた。羞恥心どころではなく、お尻に響作が叩きつけられる度に、爪先が畳を擦った。両足をバタバタと畳に叩きつけて痛みをごまかそうとしたがそれほどの効果はない。

 パァンッ!

「いたぁいっ!いやぁ…庵主様…もう、もうお許しを…」 

 お尻の中心を強かに打たれて白蓮は背を弓なりに反らした。必死に握っていた拳が解けて逃げようと宙を舞う。当然数は数えられない。

「……白蓮…数を数えないと終わりませんよ」

 そんなことは分かっている。しかし、数を口にすれば次の容赦のない一打がお尻に降ってきてしまう。とてつもない矛盾であり、耐える気持ちを試されていた。

「ろ、ろくじゅうにぃ…きゃあっ!」

 数を数えた瞬間に次の一打。白蓮は少女のように泣き叫び、かぶりを振っていやいやをした。

「白蓮…御仏の前でそのような大声を出してはいけません」

「あ、あ…申し訳ありません」

 お尻を打たれる苦痛と涙で訳が分からなくなっていたが、顔を上げればそこには釈迦如来の像が鎮座している。身悶えするのは止められないが、せめて声だけはどうにか我慢しよう。

 バチンッ!バチンッ!バチンッ!

「ひっ…!はちじゅう…んんんっ…!はちじゅういち…いっ…!はちじゅうにぃ」 
腫れに腫れたお尻の真ん中をじっくりと打ち据えられる。両方のお尻の頂点が同時に潰れて弾けた。白蓮は再び数を数えられずにお腹を文机に打ちつけるように跳ねた。
 お尻がズキズキとして熱を持っているのが分かった。小さく弾ける火鉢の炭と、白蓮の荒い息だけが蔵の中に聞こえる。庵主はまた静かに白蓮が数を数えるのを待つ。
 寒い蔵の中で白蓮は額に汗を浮かべながら涙で畳を濡らす。。

「ぐすっ…すみません…きゅうじゅう…です」

  白蓮は背中を震わせて啜り泣いた。それでも一回り以上も腫れて真っ赤になったお尻を差し出しながら数を数える他ない。
 丸い小ぶりな双尻は満遍なく赤黒くなり打つとこなどない程に腫れている。そこへ躊躇いのない九十一回目の響作が振り下ろされた。

バッチィンッ!

「………っ!!!きゅうじゅういちぃぃ…!」

 ぎゅうっと体が縮こまり、白い足袋が畳を擦る。ジタバタと両足が空を切り痛みを逃そうと悶えた。
 真っ白だった白蓮の桃尻は内から外まで、太腿の近くまでも真っ赤になっている。
 ぴったりと閉じられていたはずの太腿が開き、閉じられた女性部分が庵主からは丸見えになってしまっている。だが、それを気にする余裕など今の白蓮にはまったくない。
 
 パァンッ!

「いたいぃいたいぃ…ひゃ、ひゃくぅ…!」

 お尻百叩き。通常のお仕置きならここまでだが、まだあと八回も残っている。その事実が白蓮の心をほとんど折っていた。

「あんしゅさま…もう、むり…あああーっ!」

 庵主はその白蓮の様子に眉一つ動かさずにお尻に中心に百一打目を打ち込む。
 何人ものお尻を叩いてきて、また自分も叩かれてきたのだ。白蓮の心の動きなど手に取るように分かる。最も辛い時間だと。

「白蓮、あと七回だけです」

 全く容赦のない淡々とした厳しいお尻打ちとは裏腹に、庵主の声はいつもと同じように優しい。

「はぁはぁ…ああ…ひゃ、ひゃく…いち…」

 荒い息を漏らして背を上下させながらも数を数えるその姿に、庵主は目を細めて微笑を浮かべる。そして、試練を与えるように最後まで剥き出しのお尻をきつく打ち据えた。








 百八回のお尻打ちを終えて白蓮は文机の上にぐったりと身体を預けている。きついお尻叩きの残り火がじりじりとお尻の全体を苛んでいる。ズキズキとした焼けるような痛みと鈍痛に呻き声を小さく上げてしまう。
 お尻の状態は他の尼僧と同じく赤黒く腫れあがり、数日は正座するのがつらいだろう。

「白蓮、初めての「悔悟の板の行」はとても辛かったでしょう。でもよく頑張りましたね」
 白蓮はよろよろと文机から体を起こすと、子供のように嗚咽を漏らして啜り泣いてお尻を押さえた。

「庵主様…とても…辛かったです…」

「そうですね。でも、ここの尼僧なら誰しもが通る道なのです。うふふ、私も昔はお尻叩きが辛すぎて白蓮みたいに泣き喚いていましたよ」

 下履きもショーツもそのままに、お尻を丸出しにしたまま涙に濡れた眼で庵主を見る。
   この落ち着いた庵主が剥き出しのお尻をぶたれて泣いている姿など想像できない。

「庵主様が?」

「ええ。剥き出しのお尻をこんなに硬い板でぶつのですよ?誰だって痛いに決まってますよ。でも、それを耐えるのが修行のうちです。今日の白蓮はお仕置きもはいってましたけどね」

「あ、そ、そうですよね。私が怠けたお仕置きもありました」

   触れるだけで熱を帯びている両方のお尻にそっと手を当てて顔を顰める。

「さ、白蓮の「悔悟の板の行」も終わりです。除夜の鐘を鳴らして心清らかに新しい年を迎えましょう」

  お尻を動かすだけで尻肉がぐにゃりと変形して辛い痛みが走ったが、白蓮はどうにか立ち上がり下履とショーツを履いた。
   庵主はそれを満足気に見届けてたおやかな指先で白蓮の頬の涙を拭うと、行きましょうと言って本堂へと向かった。
   歩くだけでお尻が痛くてしょうがなかったが、それでも白蓮は新しい年を迎えるために敬愛する庵主の背中を追うのだった。
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