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1章

5.~異世界区役所は地獄だった?~

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 大きく手を広げた死神ちゃんは、地獄だと口にした。確かに、死神なら地獄というのは納得できる。ただ、周りを見回して、やはり思う。

「死神ちゃん、改めて聞くんだけど、ここが地獄なんだよね。」

「なんですか、改まって。そうですよー。」

「いや、地獄って感じじゃない!思ったよりも清潔だし、血みどろなんてない!地獄の窯なんて、もってのほか。ほとんどここ、市役所じゃないですか!規模の大きい市役所!」

「だから、私さっきからずっと言ってますよね。『異世界区役所』が最近の通称です!あなたが、地獄の方が分かりやすいかなと思って言い換えただけですよ。」

 確かに、ずっと区役所って言っていたな。ただ、ここが地獄となると、天国もしくは極楽浄土があるんじゃないのか。

「あー、おおよそその考えはあってますよ。ただ、概念としては、そういった場所は無いですね。次の生まれ変わりの場所が、地球以外もあって見てくれが地球で言う天国の場所はいくつかありますね!」

「生まれ変わり?この後俺は異世界転生するって事?やっぱりラノベの主人公みたいじゃないか。これで、記憶を引き継ぎ、能力を得て悠々自適なスローライフを……。」

「出来ませんよ。」

 死神ちゃんに言葉を被せられた。え、今なんて?


「いや、だから普通は出来ませんよ。記憶の引継ぎとか特殊能力とか。」

「なんでだよ!?ここまでそれらしい展開で、出来ないの?なんで?俺は特殊な魂じゃななかったの?」

 あー、ちょっと待てください。とか言いながら、死神ちゃんは手帳のようなものを出して、めくり始めた。ここは説明してて、ここも説明してと指をさして確認をしている。チェックリストのようなモノだろう。

「あー、これ船で説明抜けてましたね。まあ、今からするんで許してくださいな!」

 そう言いながら、人差し指を笑顔で立てる。いや、重要事項の説明忘れは職務怠慢でアウトだろう。だが、許そう!可愛いから!

「可愛いは正義ですね!感謝感謝!……えっと、それで説明してもいいですか。」

 俺はよろしくお願いしますと、返事をする。死神ちゃんは、あたりを見回して、ベンチのような場所へ俺を誘導してくれた。人通りの多い場所での立ち止まっての説明は、邪魔になるからだろう。彼女はこぶしを手元に持っていき、コホンとわざとらしく咳ばらいをする。

「まず初めに、記憶の継承やスキル系の獲得は、現状では無理です。ほぼ不可能と言ってもいいでしょう。思い出してほしいのですが、三途の川を渡るとき、あなたから260円貰いましたよね?」

「ああ、いきなり腕突っ込まれて、ハートキャッチされるかと思った。心臓無いけど。」

「あれが善行ポイントであることまでは説明してますよね。そのポイントというので色々と条件と交換しながら異世界転生することになるのです。そのポイント数がかなり必要になるんですよ、特に記憶継承系と能力選択系は莫大なポイントが必要ですね。」

「ちなみにおおよそどれくらい必要何ですか?」

 死神ちゃんはピタッと固まる。少し考え込んでいるのか、地面を見つめたまま少し固まってしまう。

「えーとね、大体お金で言うと1兆円ぐらい必要なんですよねー。わかりやすく言うと、ガンジー三回分くらいですね!1ガンジーが大体3000億円相当のポイントですので!」

「ガンジーを単位で使わないで欲しいんですけど!?ってかガンジーでもそこまでなの?」

「そうなんですよ!結局善行ポイントって生前には全く分からないので、溜めにくいですし色々な地域での公平性を保つために、あの世の倫理観が基準になっているので結構ガバいです!」

 そんなことを自信満々で言わないで欲しいな。欠陥システムみたいな話しじゃないか。

「ま、まあ、その辺りはおいおい分かりますし、魂が肉体に定着した時に、ここの情報は自動的に忘れるようにできてますしねー。」

「え、いまさらっと重要そうなこと言いませんでした?死神ちゃんさん?」

「とりあえず、内包している善行ポイントとの交換で、色々と条件を揃えられるんです!ただ、そうして獲得したポイントは今はわかりません。ここから先は私も説明義務がないので、善意で説明します。だから、感謝の心を持って聞いてくださいね!」

 かなり丁寧に説明をしてもらえたので、俺でも理解をすることができた。まず、善行ポイントはこの場所での共通通貨というものらしい。そのポイント数は生前の行動によって決まるようだ。今の状態のではわからず、死亡して魂が安定した際にどれほどのポイントであるかがわかるようだ。普通に生活して居れば、100万円ほどのポイントが通常のようだ。
 そして、そのポイント数によって、いろいろな権利が行使できるとのことだ。代表的なのは次の生を享受できる星の選択。性別の選択や、肉体の選択、能力の選択、そして記憶の継承等の特殊能力の選択が可能になる。これを選択せずに転生することもできて、その場合は全てがランダムで肉体の剪定が行われる。あながち親ガチャという言葉も間違っていないようだ。ちなみに、これらのポイントが使われない場合には、2週目の修行完了時にポイントが10倍ほどになる。修業とは、肉体での活動の事だ。そのため、最低限をのポイントを使いその他をランダムで、次の生を享受する魂が多いらしい。
 最後に、このポイントは肉体での修行だけでなく、この異世界区役所でも貯めることができるようだ。その際は、奉仕という名の仕事をすることで、一定期間で一定数のポイントが入る仕組みだ。説明をしてくれた死神ちゃんがいい例だ。

 一通り説明をしてもらう事で、死神ちゃんの話を飲み込むことができた。これらを異世界転生する人は毎回説明を受けていると思うと、俺には主人公の資格はないかもしれない。

「まあ、そんなわけなんです。ここまでが、私のお仕事になりますので!この先は現状、私が説明する権利がありません。」

「そうか、なんだかんだ、死んでからここまで連れて来てくれてありがとう。また、お話できる機会があれば嬉しいな。」

 その言葉を聞き、彼女は頬を少し赤くしたように見えた。

「いやいや、なーに言ってるんっすか。それでも、こちらこそありがとうございます!その言葉を聞くと、この仕事をしてて良かったなって思いますから!」

 そう微笑む彼女は、見た目の服装のようなちょっと面倒臭そうな少女とは思えなかった。多分これが彼女の本質なんだろうな。

「それで、この後どうすればいいんだ?」

「そうでした。えーっと、あそこ見えますか?」

 そう言いながら、広間の中央にある円形になった建物を指さした。

「あそこが総合案内所になります。あそこに行って、フードをかぶっている人に話しかけてみてください。死神ちゃんに指示されましたって言えば、説明してくれますよ!」

「そっか、ありがとう!それじゃあ、またいつか!」

 そう言い、俺は死神ちゃんの元を離れていく。その時に、いつかがあれば……と聞こえたのは気のせいだろうか。歩いていくと、案内所と書いた看板が建てられた円形の状態で、中にフードを被った人が数人案内を行っていた。とりあえず、一番空いている、カウンターへ向かう。

「すみません、あの、死神ちゃんに教えて貰ってきたんですが……。ここへ来るのは初めてなので。」

 そう伝えると、下を向いて作業をしており、フードに隠れて見えなかった顔が見える。銀髪に、金色の瞳。繊細なまつ毛に雪のように白い肌。儚いとも、危ういとも言えそうな女性がこちらを覗き込んでいた。

「あの、異世界区役所の総合案内所へようこそ、です。準備をしますので、少々お待ちください。」
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