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1章
7.~異世界区役所では日数の経過が普通と違う?~
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早速13番窓口へ向かうが、ちょっとした列をなしていた。これはしょうがないと思っていた並ぶが、意外と早く列は捌けていく。窓口に到達して、事情を話す。
「すみません、死神さんを探しているんですが……。あの18番の『R』さんから連絡が入っていると思います。」
そう伝えると、受付にいる男性はぶっきらぼうに、内容を聞いた後に目線が合うことも無く話し始めた。
「畏まりました。案内番号の用紙はありますか?」
「え?用紙ですか?えーと、多分ないんですけど。」
俺の言葉を聞きすぐに、その男性は言葉を発する。
「すみません、用紙による受付順になりますのであちらの発券機で用紙を取っていただけますか。」
いやいや、知らないし説明なんてされていない。彼が指をさした方向を見ると、ちょっと仰々しい機械のようなものがあった。
「えっと、もしかしてまた待つことになるんですか?」
「そうですね、案内順になりますので。この列は案内された列です。」
「いやいや、こっちは魂が消えかかっているらしいんですが!?」
「ソレはあなたの事情ですよね。申し訳ございません、案内順がルールになりますので、そちらに従ってください。」
またここでも、市役所感というかお役所仕事を感じてしまう。しょうがないといえばそれまでだが、日数にも余裕がある。彼の声がかなり冷たく低いので、威圧感がある。こういった言い方に弱いのは、死ぬ前からそうだった。
「わかりました、そうします。」
素直に従うが、内心は苛立ちが溜まってしまった。窓口から離れて、案内された発券機へ向かう。現実で見たことがあるような形状ではあるものの、質感というか何処か骨のような感じの灰色っぽい色をしている。ボタンがあるので、そこを押すと小さな用紙が吐き出された。番号は63番、意外と長そうだなと思うが、良く観察すると窓口の上に案内モニターのようなものがあり、番号表示がされていた。番号は一番新そうなもので52番だったので意外と早いのかもしれない。
そう思っていたのは、間違いだったとすぐに気がついた。1つの番号が処理されるまでの時間がおおよそ10分ほどかかっている。今の最新が56番なので、残り1時間以上は待たないといけないだろう。とりあえず、今までのことを思い出しながら待つことにした。多分死んでから体感4時間ほどだったと思うが、内容が濃くてそれ以上にも感じてしまう。そうやって一つ一つ思い出していれば、呼び出しの番号が表示されていた。その後に列に並ぶ。
先程のことがあるので、できればあの男性には当たりたくないなと思ったが、ドンピシャで彼の窓口が開いた。重い足取りで、向かっていき用紙を見せる。
「ありがとうございます。先程はすみません、ルールなので。63番ですね、問い合わせ内容をお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「はい、えっと内容が、18番窓口の『R』さんからメッセージを入れていただいていると思うんですが、死亡診断書?というものを貰っていなくて。その件になります。」
「かしこまりました。内容確認しますので、少々お待ちください。」
そう言って、分厚い資料を捲り始めた。先程の『R』さんも同じ作業をしていたことを思い出す。こちらの世界でもしかしたら、PCのようなものなのかも知れない。
「あー、入ってますね。18番から。とりあえず、これだけの情報だと、どの担当死神かが分からないので、できるだけ情報を話していただけますか。」
「わかりました。ちなみに個人名?をお聞きしていないんですが、死神にも名前ってあるんですか?」
今更ながら、死神ちゃんには名前を濁されてしまい、反面案内受付の『R』さんからは教えて貰ったことに疑問を持つ。死神ちゃんへ名前を聞いた時の、あの言い方だと、何かがあると思うんだけれど……。
「それはですね、私からは言えない決まりになっているんです。これは言いますが、個人名を口から伝えるのはそれなりにリスクがあるんです。イニシャルだけでも大きいんですよ。受付の彼女へは感謝した方がいいですね。」
言えないというのが、おそらく重要なんだろうな。あれだけしっかりしてそうな死神ちゃんが濁した理由のはやっぱり事情があったんだと理解した。
「情報、教えていただいていいですか?おおよそどんな死に方だったかとか、どれくらい前だったかでいいですよ。あと担当死神の容姿も教えて下さい。」
職場に一人はいそうな、無機質な話し方と質問内容だった。生きていた時だったら、相容れない人だっただろうなと思う。それでも問題解決を優先したいので、指示の通りに死神ちゃんの容姿から覚えている限りの死亡情報を伝えた。
「なるほど、分かりました。おそらく死神番号231番であると思います。現在は、別の案件にて外に出ております。帰還の日程はおおよそ30日後になりますね。えーと、あなたの状態を見る限り入物は貰っていないので、日数は限られますね。」
「ありがとうございます。それでも49日まだあるんで十分間に合うと思います。それでも、30日も待つのは大変ですね。それってここでずっと待たないといけないですか?」
俺の質問がおかしかったのだろうか。彼とは今まで目線が合わなかったが、急に顔をまじまじと見つめてきた。
「そこも説明されていなかったんですね。魂の状態での経過日数は肉体がある状態とは違います。わかりやすく説明をすると、脳内で感じる時間によります。現在に対する認識だじゃなく、過去の回想と未来を想像する時間、思考に使ったと判断した長さ。それらを含めての49日になります。」
分かりやすく説明をされたから、すぐにその意味が分かった。今の認識だけじゃない、記憶を遡ればその分の日数が、時間が、失われると言う事だ。
「なら、待っている間に、少しでも過去のことを思い出してしまえば……?」
「その分、短くなります。もちろん、実質的な時間というよりも、過去の夏休みの思い出を一瞬でも思い出せば30日は簡単に消費してしまうでしょう。」
その日数を、過去も思い出さず、未来を思い描かず、ただ空白を見つめているしか無いということだろう。多分、そんなことはできる自信がない。今ですら、こうやって時間を浪費しているのだから。
「でも、どうしてそんなことになっているのですか?」
「魂のみという不安定な状態だからです。これは永久保存的な物質ではない、思念体でもある。だから劣化しやすいんです。」
初めは事務的だとは思ったが、親切にしてくれているのだろう。表情の変わらない、彼の瞳の奥には、どこか優しさというか慈しみを感じることができた。
「これ以上は私から提案は難しいです。」
その言葉を放つと、彼はカウンターに休止中と書かれたL字スタンドを置いた。先程の感じた優しさとは反する行動。あれは思い違いだったのかもしれない。これ以上は、もうどうする事もできないのだろう。このまま、俺はあの彼岸花の空間を漂うようなドロになってしまい、永遠に暗闇を彷徨うのだ………。
少しでも希望を抱いてしまったのが、失敗だった。絶望が初めから横たわっている状況よりも、一度光を見せられた後に絶望へ落とされてしまうことの方が、よっぽど辛いものだ。確かに、ここは区役所だ。正しい手続きを行わなければ、受け付けてもらえない。残り何日の猶予があるだろう、希望を抱き待つしかない。
それなりに佇んでしまったのかもしれない、分かりましたと言葉を絞り出して、この場を離れることにした。
「すみません、死神さんを探しているんですが……。あの18番の『R』さんから連絡が入っていると思います。」
そう伝えると、受付にいる男性はぶっきらぼうに、内容を聞いた後に目線が合うことも無く話し始めた。
「畏まりました。案内番号の用紙はありますか?」
「え?用紙ですか?えーと、多分ないんですけど。」
俺の言葉を聞きすぐに、その男性は言葉を発する。
「すみません、用紙による受付順になりますのであちらの発券機で用紙を取っていただけますか。」
いやいや、知らないし説明なんてされていない。彼が指をさした方向を見ると、ちょっと仰々しい機械のようなものがあった。
「えっと、もしかしてまた待つことになるんですか?」
「そうですね、案内順になりますので。この列は案内された列です。」
「いやいや、こっちは魂が消えかかっているらしいんですが!?」
「ソレはあなたの事情ですよね。申し訳ございません、案内順がルールになりますので、そちらに従ってください。」
またここでも、市役所感というかお役所仕事を感じてしまう。しょうがないといえばそれまでだが、日数にも余裕がある。彼の声がかなり冷たく低いので、威圧感がある。こういった言い方に弱いのは、死ぬ前からそうだった。
「わかりました、そうします。」
素直に従うが、内心は苛立ちが溜まってしまった。窓口から離れて、案内された発券機へ向かう。現実で見たことがあるような形状ではあるものの、質感というか何処か骨のような感じの灰色っぽい色をしている。ボタンがあるので、そこを押すと小さな用紙が吐き出された。番号は63番、意外と長そうだなと思うが、良く観察すると窓口の上に案内モニターのようなものがあり、番号表示がされていた。番号は一番新そうなもので52番だったので意外と早いのかもしれない。
そう思っていたのは、間違いだったとすぐに気がついた。1つの番号が処理されるまでの時間がおおよそ10分ほどかかっている。今の最新が56番なので、残り1時間以上は待たないといけないだろう。とりあえず、今までのことを思い出しながら待つことにした。多分死んでから体感4時間ほどだったと思うが、内容が濃くてそれ以上にも感じてしまう。そうやって一つ一つ思い出していれば、呼び出しの番号が表示されていた。その後に列に並ぶ。
先程のことがあるので、できればあの男性には当たりたくないなと思ったが、ドンピシャで彼の窓口が開いた。重い足取りで、向かっていき用紙を見せる。
「ありがとうございます。先程はすみません、ルールなので。63番ですね、問い合わせ内容をお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「はい、えっと内容が、18番窓口の『R』さんからメッセージを入れていただいていると思うんですが、死亡診断書?というものを貰っていなくて。その件になります。」
「かしこまりました。内容確認しますので、少々お待ちください。」
そう言って、分厚い資料を捲り始めた。先程の『R』さんも同じ作業をしていたことを思い出す。こちらの世界でもしかしたら、PCのようなものなのかも知れない。
「あー、入ってますね。18番から。とりあえず、これだけの情報だと、どの担当死神かが分からないので、できるだけ情報を話していただけますか。」
「わかりました。ちなみに個人名?をお聞きしていないんですが、死神にも名前ってあるんですか?」
今更ながら、死神ちゃんには名前を濁されてしまい、反面案内受付の『R』さんからは教えて貰ったことに疑問を持つ。死神ちゃんへ名前を聞いた時の、あの言い方だと、何かがあると思うんだけれど……。
「それはですね、私からは言えない決まりになっているんです。これは言いますが、個人名を口から伝えるのはそれなりにリスクがあるんです。イニシャルだけでも大きいんですよ。受付の彼女へは感謝した方がいいですね。」
言えないというのが、おそらく重要なんだろうな。あれだけしっかりしてそうな死神ちゃんが濁した理由のはやっぱり事情があったんだと理解した。
「情報、教えていただいていいですか?おおよそどんな死に方だったかとか、どれくらい前だったかでいいですよ。あと担当死神の容姿も教えて下さい。」
職場に一人はいそうな、無機質な話し方と質問内容だった。生きていた時だったら、相容れない人だっただろうなと思う。それでも問題解決を優先したいので、指示の通りに死神ちゃんの容姿から覚えている限りの死亡情報を伝えた。
「なるほど、分かりました。おそらく死神番号231番であると思います。現在は、別の案件にて外に出ております。帰還の日程はおおよそ30日後になりますね。えーと、あなたの状態を見る限り入物は貰っていないので、日数は限られますね。」
「ありがとうございます。それでも49日まだあるんで十分間に合うと思います。それでも、30日も待つのは大変ですね。それってここでずっと待たないといけないですか?」
俺の質問がおかしかったのだろうか。彼とは今まで目線が合わなかったが、急に顔をまじまじと見つめてきた。
「そこも説明されていなかったんですね。魂の状態での経過日数は肉体がある状態とは違います。わかりやすく説明をすると、脳内で感じる時間によります。現在に対する認識だじゃなく、過去の回想と未来を想像する時間、思考に使ったと判断した長さ。それらを含めての49日になります。」
分かりやすく説明をされたから、すぐにその意味が分かった。今の認識だけじゃない、記憶を遡ればその分の日数が、時間が、失われると言う事だ。
「なら、待っている間に、少しでも過去のことを思い出してしまえば……?」
「その分、短くなります。もちろん、実質的な時間というよりも、過去の夏休みの思い出を一瞬でも思い出せば30日は簡単に消費してしまうでしょう。」
その日数を、過去も思い出さず、未来を思い描かず、ただ空白を見つめているしか無いということだろう。多分、そんなことはできる自信がない。今ですら、こうやって時間を浪費しているのだから。
「でも、どうしてそんなことになっているのですか?」
「魂のみという不安定な状態だからです。これは永久保存的な物質ではない、思念体でもある。だから劣化しやすいんです。」
初めは事務的だとは思ったが、親切にしてくれているのだろう。表情の変わらない、彼の瞳の奥には、どこか優しさというか慈しみを感じることができた。
「これ以上は私から提案は難しいです。」
その言葉を放つと、彼はカウンターに休止中と書かれたL字スタンドを置いた。先程の感じた優しさとは反する行動。あれは思い違いだったのかもしれない。これ以上は、もうどうする事もできないのだろう。このまま、俺はあの彼岸花の空間を漂うようなドロになってしまい、永遠に暗闇を彷徨うのだ………。
少しでも希望を抱いてしまったのが、失敗だった。絶望が初めから横たわっている状況よりも、一度光を見せられた後に絶望へ落とされてしまうことの方が、よっぽど辛いものだ。確かに、ここは区役所だ。正しい手続きを行わなければ、受け付けてもらえない。残り何日の猶予があるだろう、希望を抱き待つしかない。
それなりに佇んでしまったのかもしれない、分かりましたと言葉を絞り出して、この場を離れることにした。
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