異世界区役所〜転生するために、労働をします〜

玉菜たろ

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1章

8.~冷たいスーツの男性は、見放していなかった?~

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 思ったように力は入らず、カウンターから離れようとする。もう、地縛霊とか亡霊にもなれない、そんな存在になるんだ。

「待って下さい、これ以上は職務上は難しいです。ですから私は今、休憩に入りました。休憩時間中は、プライベートになります。つまり、あなたの力になってあげようと思います。」


 彼は静かに、そして力強くそう言った。確かに、力になってくれると言ってくれた。絶望ではなかった。まるで、天国から垂らされた蜘蛛の糸に縋るように、私はカウンターへ再び駆け寄る。勢いで、L字スタンドは向こう側へ落ちてしまった。

「落ち着いてください。これが無いと、私は職務中の身になってしまいます。」

 そう言いながら、彼は落ちたスタンドをカウンターへ戻す。

「とりあえず、貴方を誘導した死神の場所は特定しています。後ろの柱、その横に貴方の生きていた場所でいう、懺悔室があります。そちらで待っていて下さい。すぐに向かいます。」

 やはりあの時に感じた、優しさは彼に宿っているのだと理解できた。感謝するしかない、ドロになる運命を回避できるのであればなんだってやってやる。

「ありがとうございます!本当に、本当に助かりました!」

 彼は、私の言葉を聞き、目を逸らす。

「まだ助かったわけじゃありません。だから感謝は早いです。いますぐにでもドロになる可能性があるのですから。分かったら、早く待ち合わせ場所へ向かって下さい。」

 うん、本当に優しいだけじゃなかった。せめて、感謝の言葉を受け入れて欲しかったが、しょうがない。とりあえず、彼の指示に従い懺悔室のような場所へ向かう。それでも、やっぱり冷たくない!?


 それでも、俺は従うしかない。右も左もわからない自分にとっては、彼を頼るしか無いのだから。とりあえず指定した場所へ向かうと、古い木でできたような大きな箱がある。生前好きだった漫画に出てきたから、それが分かるがそうでなければ日本人には馴染みがないだろう。分からなかったら、どうするつもりだったのだろうか。とりあえず、あの時の知識で、懺悔側の空間へ入る。中に入ると、周囲の喧騒がピタリと止み、隔絶された世界になったように感じた。あまりにも情報が無くて、過去の記憶へ縋ろうとしてしまう。

「ダメだ、あの言葉が本当であれば、これは寿命を減らす行為に等しい。とりあえず何も考えずにいるしかないな………」

 そう思うが、やはり情報が全くない暗闇という空間では時間の経過がわからない。これ程までに、周りの情報によって時間経過を認識していたのかと理解する。これは思った以上に厳しい時間になりそうだ。
どれくらい待っただろう、10分か1時間か、もしかしたら1日かも……いや、休憩に入るって言っていたから1日はないだろう。ダメだ、あまり余計なことは考えるな。そうしていると、衝立の向こう、僅かに差す光が揺らめき人が入って来たことが分かる。


「遅いです!助言をいただけるのはありがたいですが、流石に長くない!?」

「そこまで時間は経ってないですよ。それにここは擬似的な肉体状態に近いので、どれだけ過去を思い返しても時間経過はありません。」

「いやそれ!初めから言ってよ!拷問かと思ったんですけど!?」

「あー、それに関しては……。とりあえず話を進めましょう。」

「謝罪は!?今はごめんなさいなり言葉があるタイミングだったんじゃないですか!?まあいいですけど!」

 いいんですね、じゃあ続けます。と彼の低い落ち着いた声が帰ってきて、そのまま説明を始めてしまった。なんとも淡白ではあるが、それが彼なのだろう。

「この状況は、うちの死神のミスになります。あまり多く起こることではありません。彼女はここ最近、1級に昇格したために起きてしまったことでしょう。そして、今は管轄である惑星アースの時空軸三十八番にて、業務を行なっています。そこに直接行き、死亡診断書を彼女から発行してもらう必要があります。」

 惑星アース?時空軸?かなりSF成分が強くなってきた。本来なら一つづつ聞きたいが、冷たい声の前に憚られてしまう。

「ただし、魂の状態では先程の説明のように無意味に時間を消費してしまう事になります。その為、貴方には仮染の器が必要になるのです。そこまでは分かりますか?」

「あー、なんとなく。この懺悔室みたいに擬似的な肉体が必要になるんでしょ?でもそれならここで三十日間待てばいいんじゃ無いですか?」

「そう言われるとは思いました。ここでは擬似的な肉体としての機能を持ちますが、魂自体が劣化するので、使用はそうですね……。分かりやすくいうと30分が限界になります。それ以上時間が経過すると魂だけの場合には、ドロとして区役所外へ放出されてしまうのです。」

 つまりは、ここでは魂としての時間経過が発生しない反面、外部的なタイムリミットがあるということなんだろう。理解が早くて助かります、と俺の返事を待たずに何かを差し出してくる。間仕切りを通り抜けて、それが目の前へ出される。

「これは……、羊の人形?なんですかこれ?可愛いですね!そういう趣味なんですか?」

「違います。もう少し、頭を使ってください。これは貴方へお貸しする仮染の肉体になります。これで惑星アースでの活動が可能になります。それでも、思考時間49日間が限界で、そこから出てしまえば、また現状のカウントダウンが開始します。そして、一番重要なのが、魂の状態では自由に行動ができないのですが、こちらに入れば可能になると言う事になります。」

 つまりは、これを使って死神ちゃんを探してこいと言う事だろう。かなり無茶な事を言っている自覚はあるのだろうか。地球という場所での人探し、それを実質的な時間ではなく、脳内時間で行えということだ。あまりにも無謀、責任はあちら側にある筈なのに、そんな気持ちが沸き起こる。理不尽な状況に、あまりにも強い怒りを湧き起こすには十分な要因だろう。それでも、ここで文句の一つを言っても何も変わらないし、彼なりの尽力をしてくれている事は、ここまでの行動で理解している。理性で感情を抑え込んで、なんとか返事をする。

「分かり……ました……。それで、俺は、この先どうすればいいのでしょうか。」

「この羊に、口づけをしてください。」

 極めて冷静沈着な、落ち着いて、目の前でどんなことが起きても動じないような声で、予想の斜め上の言葉を返された。これが純粋無垢な少年少女であれば、それなりに恥じらいがあれど、近所に住むたまに会う隣人に、大きな声で挨拶をするような勇気で受け入れるだろう。けれどそれなりに社会人を経験してしまえば、人形にキスをするという行為は人前でする事へ、羞恥心を覚えることは当然だろう。

「えーと、流石に冗談きついですよ。人形に口づけって、花束だったら出来るかも知れませんが。」

「花束は歩行ができないので、意味がありません。早くしてください、時間がありません。」

「冗談が通じないんですか!―――分かりました、顔は見えませんがなんとなく表情まで見えるようです。やればいいんでしょ、やれば!」

 そういい、決心すると羊の人形に口を近づける。まさか、スーツ姿の初対面の男性の前で、いきなり人形にキスをするとは思わなかった。それと唇が触れ合った瞬間に、視界が低くなる。

「理解と決心が早くて助かりました。もう少しかかると思っていましたから。それでは、あとはこれをお預けします。使い方は肉体の記録があるので、アースに行けば理解できます。それでは、ご武運を。」


 彼が一通り話し終えると、俺の周りに三重の円が現れる。その輪っかを認識した瞬間に、それは俺を締め付けるように縮み、体に触れたかという瞬間には目の前は白い光にのまれていた。
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