異世界区役所〜転生するために、労働をします〜

玉菜たろ

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1章

9.~異世界区役所から一転、地球に戻ってきた?~

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 光の輪が俺の体に触れて、白い光に包まれた瞬間に落下していた。あまりにも勢い良く落下している。自由落下をしたことは無いが、地面が見えないとそれはそれで気持ちが良いものだ。

「な゛る゛ほ゛ど!こ゛れ゛がじゆ゛う゛ら゛っ゛か゛と゛い゛う゛や゛つ゛か゛!」

 人形の体と言えど、落下による抵抗は受けるようだ。かつて生きていた時に見たことがあるように、まともに話ができなくなるんだな。はて、ここは一体どこだろう。いざ冷静になって周りを見回すと、下には分厚い雲が広がっている。まるで、このままどこまでも広がる綿菓子に、バウンドして空中散歩を楽しめるのではないだろうか。月光に照らされた、その雲の広さと雄大さに思わず、唾を飲む。

「あ゛れ゛?こ゛れ゛っ゛て゛や゛ばく゛な゛い゛?」

 月の綺麗さや、星の瞬きなど、見惚れている場合ではない。どうするのこれ、どうするの!?そんな思考をする間にも、落下は止まらない。気がつけば、目の前に分厚い雲が迫っていた。ボフッという効果音が似合えば良いのだが、そうはならない。雲の中に入ると視界不良になってしまった。果たして、どうするべきか……。

『アースへはうまく行けましたか?こっちの声が聞こえているのであれば、頭の中で返事をしてください。』

『なんですか!これはなんですか!多分地球だとは思うけど!とりあえず月の感じは地球だった!』

『よし、こちらの声も聞こえているのですね。それであれば大丈夫です。今は……落下中ですか……?』

『こいつ!分かってるんだな!どうにかしてくれ!1日に何度も死ぬのは流石にどうかと思うんですけど!?』

 そう話しているうちに雲を突き抜けて、目の前には夜景が広がっていた。タワーが二つ、光っていることを確認して、そこが日本であり、首都の東京だとすぐに理解できた。こんな景色は、死ぬ前には見られなかったな。

『って呑気に景色を楽しんでいる場合じゃないんです!これ、流石にぬいぐるみでもやばいですよね!落ちて、中の綿が飛び出てくるでしょ。』

『まあ、落ち着いてください。今の貴方は、普通のぬいぐるみとは違いますよ。貴方のイメージで構いません。空中に浮こうと思えば浮けますし、飛ぼうと思えば飛べるはずです。仮染の肉体よりも魂の配分の方が強いのですから。』

『そんなこと言われても!飛ぶイメージをすればいいんですか?』

『そうですね、早くしてください。地面と感動の再会をしてもいいですが、魂ごと砕けますよ?』

 そういうことは、できるだけ早く言ってほしい。ってか説明ぐらいしてからにしてほしかった!!そんな愚痴が出てくるが、それでも空中で浮遊するイメージを頭で練る。死神ちゃんがしていたように、自由にふわりと、空気を蹴って舞うようにスキップする。そのイメージをした瞬間に、落下感はなくなり物理法則を無視して、体はふわりと宙に舞う。

「おおおおお!何これ、何これ?浮いてる、浮いてるよ!楽しいぞこれ!」

『子供ですか、貴方は。冷静になってください。浮遊は魂なら誰でもできるでしょう。』

 そう言われて、トラックを突き抜けた時に、浮いていたことを思い出した。そう思い出せば、それほど特別なことでもないということだろう。

『冷静に言われると、こっちまで気が抜けちゃうな。まあいいや、とりあえず浮くことができたんだけど、どうしたらいいんだ?』

『分かりました、でしたら、左手首にある時計のようなものを確認してください。』

 そうして、左手首を見ると確かに腕時計のようなものが付けれれていた。それでもチグハグなのが、懐中時計のようなデザインが革バンドで繋がれていた。指示も聞かずに、懐中時計の蓋を開けると、中には方位磁石のような針が中空に浮かび上がる。

『勝手に開けないでください。まあいいです、とりあえず貴方が会った死神を思い浮かべてください。そうすればいく場所が分かります。』

 なるほど、これはそういうシステムなのか。すぐにあの黒い服に身を包んだ死神ちゃんを思い浮かべる。その瞬間に、針はぐるぐると360°全てをなぞるように回り始める。回るスピードが速くなるにつれ、赤く光り始める。赤い球体のようになった瞬間に、ビタリ!と針が止まった。

『すごい、よくわからないけど。これは、この先に!?』

『ええ、おそらく彼女がいると思います。それでは、ご武運を。私は業務に戻ります。』

『え゛!?ちょっと、待って!』

 俺の言葉に、彼は返事をすることはなかった。ここまで、潔く放り出されてしまうと、怒りは軽く通り越してしまった。休憩中にこれほどまでに、尽力してくれたんだ。あとは自分の力で頑張るしかない。何とか浮遊する技術も手に入れた。とりあえず、この針が刺す先へ飛んでいくとするか。


 そうして、東京の上空を飛行する。正確には空中散歩であり、これが人間の見た目であればどれほど幻想的だろう。確かに、羊のぬいぐるみが空を飛んでいるのも幻想的といえばそうではあるが、どちらかというとファンシーという言葉の方が似合うだろうな。そんなくだらない事を思い浮かべながら、俺は夜の空を駆けていく。そうして、東京タワーを横目に都心部から離れていく。暫くすると、高いビルは少なくなり、マンションが立ち並ぶいわゆるベッドタウンへ行き着いた。東京には妹が住んでいる。本当であれば会いに行きたいが、疎遠になり住む場所もわからない。せめて、元気そうな顔を見れたら、良かったのだけれど。

「とりあえず、針の先を辿って、死神ちゃんを探すしかないかな。」

 簡単に見つかれば良いのだけれど……。そうして、指し示す場所には、大きな病院が鎮座していた。夜の大きな病院というのは、外から見るとかなり不気味だ。窓から漏れる灯りは僅かで、階段や廊下に面した窓というのがよく分かる。

「この針、大まかな場所しか分からないのか?とりあえず、入るしかないか。」

 そうして、入口を探して律儀に入ろうとする。だが、自動ドアに反応しないので、開く気配がない。誰かが来るのを待つのが良いかもしれない。いや、もしかして、通り抜けられるのではないか?トラックを通り抜けた時のように、空を飛んだ時のように、イメージをする。ガラスは水で、スルリと肉体を通すことができる。

「あ、これいける気がする。」

 思わず呟く。空を飛んだことで、肉体の記憶が呼び覚まされたのかもしれない。ガラス扉に手を触れて、ゆっくりと押し込む。そうすると、ぬるりとモコモコな腕は通り抜けて病院の中に入ることができた。それど同時に、肉体を持った人間に見つかってはいけない。その警告が全身に走る。


「なるほど、これが受付の男性が話していた、肉体の記憶か。それならば、病院内でのスニーキングミッション開始だ!」
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