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第1章
4︰思いもしない修羅場
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★★黒野鉄志視点★★
ひだまり迷宮で【機巧剣タクティクス】を手に入れてから十数分。
俺は中心地となるエリアに差し掛かっていた。
今のところモンスターのエンカウントが少なく、順調に探索を行えている。
逆にそれが怖いが、まあ考えないでおこう。
ひとまずこのエリアを抜ければ管理局が設けている通行門に辿り着ける。
タクティクスの報告をしたほうがいいのかな?
でもそんなことしちゃったら研究材料にしたいって頼まれたりするかも。
もしそうなったら時間が取られちゃいそうな気がするなー。
そんなことを思いつつ迷宮の中心地へ足を踏み入れた瞬間だった。
――ドドドドドーン!!!!!
唐突に地面が揺れた。
なんだ、突然。迷宮が揺れるなんてただ事じゃないぞ。
俺は慌てて音がした方向に顔を向けると、とても近いのか大量の砂煙が上がっていた。
ひとまず近づいて様子を見てみよう。
近くにあった岩に身体を隠し、爆発があった場所に視線を向ける。
するとそこには、ニヤニヤと笑っている太った男性と、白い魔女っ娘姿をした女の子がいた。
「ちょっと、アンタ何するのよ!」
「この迷宮をぶっ壊してやるのさ! ハハハハハッ」
それは大惨事としかいえない光景だ。
地面は穴ボコに、木々は倒れていた。
あれは……?
よく見ると、太った男は足の速さが爆上がりする疾風シリーズを装備している。
あんな面長な顔で似合わないメガネをかけていることもあってか、せっかくのカッコいい装備がとても似合っていない。
いや、それよりもあのデブ、疾風シリーズを装備しているからレベルが高いってことだよな。
あんな見た目なのに、強いってことか。
うーん、とてもじゃないけどレベル高いようには見えないぞあのデブ。
「ん? あれは――」
デブを見ているとその手には爆竹っぽいものがあった。
よく見るとそれは蠢いており、よくよく見ると先ほど発見した【爆裂ムカデ】だった。
爆裂ムカデは熱の刺激を受けると爆発する特徴を持つ厄介な虫で、取り扱い注意の存在なんだけどデブは躊躇うことなくライターの火を近づける。
途端に爆裂ムカデは暴れ出す。
デブはそれを対峙していた女の子に投げつけると、爆裂ムカデは走り出し一秒も満たないうちに大爆発を起こした。
それは先ほどとは比にならないほどの破壊力。
迷宮全体が揺れ、中心地に生えていた植物が木っ端微塵になるほどだ。
岩陰に隠れ、遠目で見守っていた俺ですら危機感を覚えるような破壊力である。
「あっぶねー……!」
何なんだあいつは。
無差別攻撃にも程があるだろ。
下手したらあの爆発に巻き込まれて俺は死んでたぞ。
咄嗟に大木の裏に隠れたから大丈夫だったけどさ。
いや、それより狙われた女の子はどうなったんだ?
俺は砂埃が立ち込める空間に目をやると、不思議な光に包まれた女の子の姿を発見した。
どうやら無事だったらしい。
ちょっとだけ胸を撫で下ろしつつ、俺は女の子の顔をよくよく見てみる。
見たことがない顔だ。
だけどどこかで聞いたことのある声なんだよな。
えっと、どこで聞いたっけ?
最近は地上波なんて見てないし、見ているといえば無料動画サイトぐらいだし。
あとは迷宮管理局で迷宮配信を聞いたぐらいか。
「あっ」
そういえば迷宮管理局で声を聞いたな。
確か、そこで名前を聞いた気がする。
えっと、名前はなんだっけ?
そんなことを考えつつ、スマホを使って検索をかけてみる。
するといつも使っている動画サイトのトップページの注目配信という項目に二つのオススメがされていた。
「どうしたんだいどうしたんだい? そんなことじゃあリスナーが泣いちゃうよ、アヤメちゃーん!」
そうだ、思い出した。
天見アヤメだ。
確か、探索者を熱狂させるぐらい配信者だったはず。
なんでそんな人気者がこんな初歩の初歩とも言える迷宮に来ているんだ?
そんな疑問を抱きながら俺は天見アヤメの配信を開いてみる。
するとそこにはアヤメを心配するたくさんのコメントが書き込まれていた。
〈負けるなアヤメー! あんなやつ魔法で一撃だ!〉
〈にげろぉぉぉぉぉ!〉〈あいつ強いぞ〉〈勝てない勝てない勝てない〉
〈魔法をぶっぱなせ!〉〈魔法でギャフンと言わせるんだ!〉
〈真剣なアヤメはじめて見た〉〈マジでヤバいって〉
〈やばいやばいやばい〉〈こんなのってないよ!〉〈通報しろ通報!〉〈デブ通報しろ!〉
〈あのデブの装備、疾風シリーズじゃん レベルやべーぞ〉
〈アヤメよりレベルが高い〉〈悪いこと言わないから逃げろ! 勝てっこない逃げろ!〉
〈おい誰か迷宮管理局に通報しろ! アヤメやばい!!!〉〈もうしてるって! なんですぐに動かないんだよあいつら!〉
〈アヤメやべーじゃんw マジもんのヤバさじゃんかwww〉
〈逃げろってあいつレベル高いって〉〈迷宮管理局はよこいっ〉
〈アヤメ今は真剣に助言する逃げろ!!! あいつはアヤメより強い!〉
これはとんでもないぞ。
でも助けようにもデブのレベルは高そうだし。
というかアヤメに突っかかっているあのデブはなんだ?
俺は気になってもう一つのオススメであるおデブちゃんねるを開いた。
するとそこにはたくさんのアンチコメントが書き込まれている。
死ね、アヤメをいじめるな、お前の母ちゃんデベソといった心のない言葉が書き込まれていた。
「アンタ、有名配信者にトツって同接を増やそうとする迷惑系配信者ね。いくらなんでもやってることが陳腐すぎて笑えてくるんだけど!」
「へへへ、なんとでも言え。とにかく、この迷宮をぶっ壊してやるのさ。ついでに、アヤメちゃんにも僕が有名になるのを手伝ってもらうからね!」
「手伝う? 誰が? 言っておくけど、探索中でも故意に同業者へ攻撃した場合はとんでもない罰則が課される。あと私が配信してるってことを知っててそれをやるのかしら?」
「ふへへ、そうだよ。でもただ考えなしでやるほど僕はバカじゃない」
そういってデブはある存在をアヤメに見せつけた。
それは一匹の白猫だ。
必死にバタバタと足を動かし、逃げようとしている白猫だがデブの力が強いのか逃げ出すことができない。
それどころか完全に逃げられないようにゲージの中へ白猫は入れられてしまった。
「さあ、どうする? 僕と一緒に迷宮破壊をしなきゃこの子はムカデで死んじゃうよ~」
「……アンタ、最悪ね」
「なんとでも。さあ、いいなりになってもらおうか。それとも、このままにゃんこちゃんを見殺しにしちゃうのかな?」
人質作戦、いや猫質作戦とは卑劣な!
しかしあのデブ、案外侮れない。
レベルが高いし、思ったよりも頭の回転も早そうだ。
できれば穏便に事態を済ませてほしいところだけど、まあ無理か。
「ボックス」
俺は自分のスキルを使い、アイテムボックスを出現させる。
手に入れたばかりのコレクションには手を出したくないけど、事態が事態だ。
場合によっては使うしかなくなるし、この迷宮が壊れたらとても困る。
だから、迷宮のためにもアヤメに手を貸そう。
俺はスマホで検索しながら爆裂ムカデを無効化するアイテムを探す。
すると一つのアイテムが検索に引っかかった。
ひとまずこれで爆裂ムカデはどうにかなりそうだ。
後はそうだな、あの白猫が助けられたら万々歳だけど――
「わかったわ。そっちに行くから、その子には手を出さないで」
おっと、アヤメが思った以上に早く動き出しちゃった。
それに反応してコメントが一気に書き込まれていく。
〈アヤメ!?〉〈何言ってんだ!〉〈諦めちゃダメだ!!〉
〈アヤメ! アヤメー!〉〈く、人質なんて卑怯だぞ!〉〈デブをどうにかしろ!〉〈ダメだここからだと助けにいけない!〉
〈俺まだ役員会議中だ!!!!!〉
これ以上は考えている時間がない、か。
ひとまず、爆裂ムカデを無効化できればそれでいっか。
さて、ひと仕事をするぞ。
ひだまり迷宮で【機巧剣タクティクス】を手に入れてから十数分。
俺は中心地となるエリアに差し掛かっていた。
今のところモンスターのエンカウントが少なく、順調に探索を行えている。
逆にそれが怖いが、まあ考えないでおこう。
ひとまずこのエリアを抜ければ管理局が設けている通行門に辿り着ける。
タクティクスの報告をしたほうがいいのかな?
でもそんなことしちゃったら研究材料にしたいって頼まれたりするかも。
もしそうなったら時間が取られちゃいそうな気がするなー。
そんなことを思いつつ迷宮の中心地へ足を踏み入れた瞬間だった。
――ドドドドドーン!!!!!
唐突に地面が揺れた。
なんだ、突然。迷宮が揺れるなんてただ事じゃないぞ。
俺は慌てて音がした方向に顔を向けると、とても近いのか大量の砂煙が上がっていた。
ひとまず近づいて様子を見てみよう。
近くにあった岩に身体を隠し、爆発があった場所に視線を向ける。
するとそこには、ニヤニヤと笑っている太った男性と、白い魔女っ娘姿をした女の子がいた。
「ちょっと、アンタ何するのよ!」
「この迷宮をぶっ壊してやるのさ! ハハハハハッ」
それは大惨事としかいえない光景だ。
地面は穴ボコに、木々は倒れていた。
あれは……?
よく見ると、太った男は足の速さが爆上がりする疾風シリーズを装備している。
あんな面長な顔で似合わないメガネをかけていることもあってか、せっかくのカッコいい装備がとても似合っていない。
いや、それよりもあのデブ、疾風シリーズを装備しているからレベルが高いってことだよな。
あんな見た目なのに、強いってことか。
うーん、とてもじゃないけどレベル高いようには見えないぞあのデブ。
「ん? あれは――」
デブを見ているとその手には爆竹っぽいものがあった。
よく見るとそれは蠢いており、よくよく見ると先ほど発見した【爆裂ムカデ】だった。
爆裂ムカデは熱の刺激を受けると爆発する特徴を持つ厄介な虫で、取り扱い注意の存在なんだけどデブは躊躇うことなくライターの火を近づける。
途端に爆裂ムカデは暴れ出す。
デブはそれを対峙していた女の子に投げつけると、爆裂ムカデは走り出し一秒も満たないうちに大爆発を起こした。
それは先ほどとは比にならないほどの破壊力。
迷宮全体が揺れ、中心地に生えていた植物が木っ端微塵になるほどだ。
岩陰に隠れ、遠目で見守っていた俺ですら危機感を覚えるような破壊力である。
「あっぶねー……!」
何なんだあいつは。
無差別攻撃にも程があるだろ。
下手したらあの爆発に巻き込まれて俺は死んでたぞ。
咄嗟に大木の裏に隠れたから大丈夫だったけどさ。
いや、それより狙われた女の子はどうなったんだ?
俺は砂埃が立ち込める空間に目をやると、不思議な光に包まれた女の子の姿を発見した。
どうやら無事だったらしい。
ちょっとだけ胸を撫で下ろしつつ、俺は女の子の顔をよくよく見てみる。
見たことがない顔だ。
だけどどこかで聞いたことのある声なんだよな。
えっと、どこで聞いたっけ?
最近は地上波なんて見てないし、見ているといえば無料動画サイトぐらいだし。
あとは迷宮管理局で迷宮配信を聞いたぐらいか。
「あっ」
そういえば迷宮管理局で声を聞いたな。
確か、そこで名前を聞いた気がする。
えっと、名前はなんだっけ?
そんなことを考えつつ、スマホを使って検索をかけてみる。
するといつも使っている動画サイトのトップページの注目配信という項目に二つのオススメがされていた。
「どうしたんだいどうしたんだい? そんなことじゃあリスナーが泣いちゃうよ、アヤメちゃーん!」
そうだ、思い出した。
天見アヤメだ。
確か、探索者を熱狂させるぐらい配信者だったはず。
なんでそんな人気者がこんな初歩の初歩とも言える迷宮に来ているんだ?
そんな疑問を抱きながら俺は天見アヤメの配信を開いてみる。
するとそこにはアヤメを心配するたくさんのコメントが書き込まれていた。
〈負けるなアヤメー! あんなやつ魔法で一撃だ!〉
〈にげろぉぉぉぉぉ!〉〈あいつ強いぞ〉〈勝てない勝てない勝てない〉
〈魔法をぶっぱなせ!〉〈魔法でギャフンと言わせるんだ!〉
〈真剣なアヤメはじめて見た〉〈マジでヤバいって〉
〈やばいやばいやばい〉〈こんなのってないよ!〉〈通報しろ通報!〉〈デブ通報しろ!〉
〈あのデブの装備、疾風シリーズじゃん レベルやべーぞ〉
〈アヤメよりレベルが高い〉〈悪いこと言わないから逃げろ! 勝てっこない逃げろ!〉
〈おい誰か迷宮管理局に通報しろ! アヤメやばい!!!〉〈もうしてるって! なんですぐに動かないんだよあいつら!〉
〈アヤメやべーじゃんw マジもんのヤバさじゃんかwww〉
〈逃げろってあいつレベル高いって〉〈迷宮管理局はよこいっ〉
〈アヤメ今は真剣に助言する逃げろ!!! あいつはアヤメより強い!〉
これはとんでもないぞ。
でも助けようにもデブのレベルは高そうだし。
というかアヤメに突っかかっているあのデブはなんだ?
俺は気になってもう一つのオススメであるおデブちゃんねるを開いた。
するとそこにはたくさんのアンチコメントが書き込まれている。
死ね、アヤメをいじめるな、お前の母ちゃんデベソといった心のない言葉が書き込まれていた。
「アンタ、有名配信者にトツって同接を増やそうとする迷惑系配信者ね。いくらなんでもやってることが陳腐すぎて笑えてくるんだけど!」
「へへへ、なんとでも言え。とにかく、この迷宮をぶっ壊してやるのさ。ついでに、アヤメちゃんにも僕が有名になるのを手伝ってもらうからね!」
「手伝う? 誰が? 言っておくけど、探索中でも故意に同業者へ攻撃した場合はとんでもない罰則が課される。あと私が配信してるってことを知っててそれをやるのかしら?」
「ふへへ、そうだよ。でもただ考えなしでやるほど僕はバカじゃない」
そういってデブはある存在をアヤメに見せつけた。
それは一匹の白猫だ。
必死にバタバタと足を動かし、逃げようとしている白猫だがデブの力が強いのか逃げ出すことができない。
それどころか完全に逃げられないようにゲージの中へ白猫は入れられてしまった。
「さあ、どうする? 僕と一緒に迷宮破壊をしなきゃこの子はムカデで死んじゃうよ~」
「……アンタ、最悪ね」
「なんとでも。さあ、いいなりになってもらおうか。それとも、このままにゃんこちゃんを見殺しにしちゃうのかな?」
人質作戦、いや猫質作戦とは卑劣な!
しかしあのデブ、案外侮れない。
レベルが高いし、思ったよりも頭の回転も早そうだ。
できれば穏便に事態を済ませてほしいところだけど、まあ無理か。
「ボックス」
俺は自分のスキルを使い、アイテムボックスを出現させる。
手に入れたばかりのコレクションには手を出したくないけど、事態が事態だ。
場合によっては使うしかなくなるし、この迷宮が壊れたらとても困る。
だから、迷宮のためにもアヤメに手を貸そう。
俺はスマホで検索しながら爆裂ムカデを無効化するアイテムを探す。
すると一つのアイテムが検索に引っかかった。
ひとまずこれで爆裂ムカデはどうにかなりそうだ。
後はそうだな、あの白猫が助けられたら万々歳だけど――
「わかったわ。そっちに行くから、その子には手を出さないで」
おっと、アヤメが思った以上に早く動き出しちゃった。
それに反応してコメントが一気に書き込まれていく。
〈アヤメ!?〉〈何言ってんだ!〉〈諦めちゃダメだ!!〉
〈アヤメ! アヤメー!〉〈く、人質なんて卑怯だぞ!〉〈デブをどうにかしろ!〉〈ダメだここからだと助けにいけない!〉
〈俺まだ役員会議中だ!!!!!〉
これ以上は考えている時間がない、か。
ひとまず、爆裂ムカデを無効化できればそれでいっか。
さて、ひと仕事をするぞ。
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