Cocktail Story

#018 ベルベット・ハンマー

1人朗読用台本

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僕は君を愛していた。

世界中の誰よりも。君だけを愛していた。

君と過ごした日々の中で、今まで感じたことのない幸せを覚えていた。

君の涙を見る度、息が出来なくなるほど胸が締め付けられ、君の笑顔を見る度、涙が出そうなくらい嬉しくなった。

出会った日から毎日、毎日、君が愛おしくて仕方なかった。

僕は、ずっと君のそばにいたかった。隣にいたかった。

これからも、君との幸せが続くと信じていた。

けど、あの日君を失って、僕は全てを失った。

幸せ一色だった僕の世界が、色を失ったんだ。

そして、孤独、不安、絶望、恐怖が、僕を襲い続けた。

身を震わせながら、声が枯れるまで泣いて、泣いて、泣き続けて。君がいなくなってしまった事実を受け入れることが出来ずにいた。

ある時から、すっかり寂しくなってしまった部屋の中で、時々君の姿が見えるようにもなった。

生きていた時と何も変わらない君。

しかし、それは全て僕が見ている幻想だとわかっていたし、やはり君が戻ってくることはないのだと思うと、また涙が溢れた。

そうして、たくさんの月日が流れてきたんだ。

今でも思う。これが全て夢だったらと。

君がまた僕の前に現れてくれないかと。

叶わないことがわかっていても、願ってしまうんだ。

僕は、君を愛しているから。

……安い言葉に思えるかい？

今はそうだとしても、僕の言葉が、思いが、本物だと思える時が来るはずだよ。

僕自身で、それを証明する。他でもない、君のために。

その為に、今は一人でも立ち上がるんだ。

例え何度心が折れたとしても。立って、立って、立ち続ける。

そして何度でも言うよ。

僕は君をずっと愛していると。

長い時が流れていくなかで、君のことを忘れてしまう人がたくさんいても。

君という存在が、世界から薄れていったとしても。

僕は、僕だけは、君を忘れずに生き続けるよ。

あの日からっぽになってしまった僕の心を、もう一度君という存在で満たして。

君から貰ったたくさんの愛が目に見えなくとも。
かすかに感じるその温もりは、まるで陽だまりのように。これからもずっと、僕を照らし続けてくれる。

いつか奇跡が起きると信じるんだ。

何年、何十年、何百年の時を越えて……

もう一度、君に会えると。

この愛が本物だということを、僕は君に証明してみせる。

そしてその時、僕は伝えよう。

君を心から愛していると。

生き続けよう。この体が例え朽ちたとしても。

君とまた巡り逢える、その日まで。


ー完ー


今回のカクテル  「ベルベット・ハンマー」

ホワイトキュラソー、ブランデー、コーヒーリキュール、生クリームで作られる。

淡いブラウン色のカクテルで、コーヒーとオレンジの風味が美味しいデザートカクテル。
度数は決して低いとは言えないが、甘くクリーミーな口当たりで飲みやすい。

「velvet」は「ビロード状のもの、滑らかさ、柔らかさ」という意味。
ベルベットのように上品で柔らかい味わいと、ハンマーで殴れたようなパンチのあるアルコール度数から付いた名前だと言われている。

有名なバーテンダーの映画「カクテル」にも登場する一杯。

意味は「今宵もあなたを想う」