愛してました、ふざけんな。

伊月 慧

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 リオナが部屋を出て割とすぐのことだった。部屋に人の気配を感じたのは。
「…誰だ?」
 刺客かと疑ったけれど、殺気がそれとは異なるものだった。これでも公爵家の嫡男だ。気を張らなければ、自分を守れはしない。
 窓から入ってきた無作法な男に思わず顔をしかめた。
「招かれてもいないのに公爵家に入り込むとは、余程の礼儀知らずなのか」
 バカにした口調を作ったけれど、それは許してほしい。リオナとの会話を聞かれていたのかと思ったら不愉快だった。
「お、俺は、リオナが心配で」
「心配?何の心配だ。お前とはもう関係のないことだろう」
 別にこの時まではリオナのことを考えて、大事にはしないつもりだった。大人しく帰ってもらおうと考えていたのだ。
「お前はあの女と結婚でもしておくんだな。…まぁ、リオナとは比べ物にならないゴミだったが」
 リオナには言わないけれど、この男がリオナに気があるのは見え見えだった。そしてリオナに素直になれないことも。立場的にはリオナの方が上だ。男とは常にプライドの元で生きている。彼がリオナに劣等感を抱かないはずがない。
 自分のように、リオナは完璧主義者なのだからと初めから同じ土俵に上がろうとしないのが一番なのだ。自分は自分だと考えられなければ、彼女には釣り合わない。
「…お前に、リオナは渡さない」
 いくらリオナの想い人でも、ほぼ初対面といってもいい、自分より下位の者にお前呼ばわりはイラついた。
「残念だな。とっくに俺が、彼女と寝ていることも知らないで」
「な…ん、だと…?」
「お前があの女にしたくらいのことは一通り、俺とリオナもやっているんじゃないか?」
 挑発してしまったことに後悔したのはその後のことだが、一応嘘はついていない。幼い頃、同じベッドで寝たことはある。二人で出掛けたこともあるし、リオナと出掛けてプレゼントを渡したこともある。
 この男も、あの女にプレゼントを渡すくらいは……それにあそこまで堂々としているのだから、やることはやったんだろう。それこそ下世話な話だが。
「そんなことも知らずに、自分はリオナに好かれていると錯覚してるなんて……可哀想なヤツだな」
 精一杯、鼻で笑ってやってーーそれから、動けなくなった。
 まさか相手が刃物を持っているなんて、思いもしなかったのだ。
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