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しおりを挟む「……おい、それを俺に向けるって、どういうことか分かってやっているのか?」
ナイフを突き付けられて、表情は余裕ぶっているけれどだいぶ焦っていた。ここで人を呼ぶことも出来たけれど、リオナはまだ敷地内にいるだろう。この男と会わせたくなかった。
「お、前、俺の、リオナにっ!!」
「俺の? …勘違いするなよ。リオナは元々、俺のものだ。俺からリオナを奪ったのは、お前だ!刺せもしないナイフを持つ意味はあるのか、この意気地無し」
実際に、オルキスはエドワードを憎んでいた。それまで当たり前に遊んでいたリオナが、『エドワード様に悪いわ』などと言って、会いに来てくれなくなった。リオナに恋愛感情はないけれど、本当に家族のように大切にしていた。リオナとならば上手くやっていけると、婚約も簡単に出来ると思っていた。この愚かな男にリオナを奪われるまでは。
「リオナの肌はいいぞ?透き通るように白くて、柔らかくて、可愛らしい」
嘘は言っていない。昔から彼女は綺麗だ。それに俺は、リオナを抱いたとは言っていない。勝手に勘違いしているのはこの男だ。
「社交界でも、俺とリオナの方が釣り合っていると言われているんだ」
「リオナはお前とは婚約しないと言ってただろ!!」
「そんなもの、ネオハルト公爵に頼めば何とでもなる。それに俺と彼女は深い関係だ」
ーー親友だ、嘘ではない。
「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」
やばい。そう思った頃には遅すぎた。エドワードの持ったナイフが腹に突き刺さる。
「リオナ、リオナっ…いやだ、俺のだ、俺の、リオナだ」
まるで壊れたようにそうブツブツと呟く男を横目に、俺は倒れた。倒れる際に机の上の花瓶を一緒に落としたので、その割れた音で使用人が部屋に入ってきた。もちろん大騒ぎになったが。
目覚めると鈍痛と、リオナの泣きそうな顔。
つくづく、俺もバカだと思う。
「バカでしょう、あなた!」
「…ごめん」
リオナからの平手打ちは、オルキスに十分と言っていいほど効いた。
「もし、っ…胸に、刺さっていたら、どうするのよ!貴方のその挑発するくせで、何度も、喧嘩になったのにっ!」
「分かったよ、悪かった。ごめん」
「バカ、バカ、バカ!!」
涙を流しながら叫ぶ彼女に苦笑する。
「怒るのはいつでも出来るだろ、…お前は早く行け。お前があの男を連れて帰ったのは聞いた」
「っ…それは…」
「俺のことは気にしなくていい。父上にも俺が言い訳しておく、心配するな。ちゃんと話してこい」
「まだ貴方についているわ」
「それこそ、少し頭の狂ったあの男の火に油を注ぎかねない。早く行けって」
もう一度強くいうと、彼女はぎこちなく頷いて立ち上がった。それがいつもの優雅な仕草ではなく本当にぎこちなくて、また笑ってしまった。
「またすぐに来るわ」
「あぁ」
彼女の背中を見送る度に、あの泣き虫なリオナがよくここまで強く育ったなぁなんて、爺臭いことを考える。
「オルキス様、よろしかったのですか?リオナお嬢様を行かせてしまって」
執事のモランが聞いてくる。花瓶の音を聞いて真っ先に飛んできたのはコイツだ。
「いいんだ、これ以上俺も恨まれたくない」
「…そうですか」
殴られる痛みはすぐに治っても、この傷はしばらく治りそうにないことを考えてまたため息をついた。
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