愛してました、ふざけんな。

伊月 慧

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 少しだけ気まずかった雰囲気を見事壊したのは、オルキスの方だった。
「父上は、私が嫌いなんだ」
「まさか」
 即答してしまう。さっきのあの様子からして、嫌いなんてことあり得ない。むしろ噂通り溺愛しているだろう。
「母上が死んだのは、私が生まれてきたからだからな。きっと恨んでいるのだ」
「…そうなんですか?」
「難産でな、私のせいで体調が悪くなった母上はあっけなく死んだらしい。その時の父上の悲しみようは散々だったと聞いた」
「……それは…」
 正直、想像は出来ない。自分のせいで母親が死ぬなど、そういう経験は滅多にないだろう。けれど。
「自分の子供を憎む親なんて、いませんよ」
 これは自分にも言える話だ。馬鹿なことをしてリオナを傷付け、伯爵家を潰そうとさえもした。そんな俺は両親に怒鳴られ罵られ見放される覚悟だったけれど、母様の「腐っても私たちの息子」という言葉にどれだけ救われたか。まぁ、微妙な気持ちになったけれど。
 思考回路が少しの間腐っていたことは確かなので、反論は出来ない。
「そんなのは、お前に母親がいるから言えるんだ」
「…そんな……それに、例え貴方のせいで亡くなったとしてもそれだけでローレンス公爵は、」
「男に襲われるんだ」
「……は?」
 間抜けな声が出たのはこの際許して欲しい。
「ホモが寄ってくるんだ、私に!隙あらば襲おうと、押し倒してくる!!」
「ほ、ホモ?」
「父上にももちろん報告がいってる。…公爵家の面汚しの私を父上は憎んでいるのだ」
「面汚しって……え、最後までされちゃったんですか?」
 あまり違和感がないのは、それほどの美少年だからだろう。
「わ、私は悪くないぞ?ただ、私を可愛いというから、可愛くなんてないもんって」
 もん!!?この人本当にあのオルキス殿か!?
「ただ、私を認めてくれるヤツがいるなら、誰だってよかったのだ……」
「…それは…」
 ぷくっと頬を膨らますオルキス殿やばい、これ襲われても仕方ないだろ。ていうか襲ってくれって言ってるようなもんだろ!!?
「っ…つまり」
 ダメだ、俺にはリオナがいるんだ。ダメだダメだダメだ!
 しかも俺はホモじゃない!!のに、身体が勝手に動くし!!
「…アンタは認められるために、こういうことも厭わないってことか?」
 気が付けば押し倒してしまった。本当に恐ろしい。
「お、おい?お前、リオナのこと…」
「…そうやって簡単に押し倒されちゃ、ダメだろ…」
「え?」
「押し退けるくらいしろよーー…」
 はあっとため息をついてしまう。何をやってるんだ、俺は。…いやでも!!俺はホモじゃないし、別に、この男になにか特別な思いがあるわけでもないし!
「ーー何をなさってらっしゃるのかしら?エドワード様」
 ビクリと自分の身体が不自然に揺れてしまった。恐る恐る後ろを見るとーーにっこりと笑いながらも目が全く笑っていないリオナがいた。
 誤解だ、と言おうとする前に頭に鈍痛がする。
「私のオルキスに何をやってるこのクズがぁ!!!」
 その声と共に、俺は意識を手放した。
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