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しおりを挟む何だかんだでオルキスとグラシルクーーローレンス公爵は帰り、リオナの父であるネオハルト公爵も先に帰った。
「それにしても、本当に申し訳ない」
素直に頭を下げたエドワードに、リオナは苦笑した。
「もういいですわ。あの女と完全に断ち切れたわけではないことなど、予想の範囲内でしたし」
「えっ」
「追い出すだけで夢が覚めるのなら、もっと早くに覚めるでしょう。貴女は女を何だと思っていらっしゃるのですか?」
「め、面目ない」
「…まぁ、別に」
いいのですけれど、というリオナの呟きに、エドワードが顔を上げる。
「今からでも婚約破棄、もしくは婚約解消、なさいますか?」
「…嫌だ」
「そうですか」
「……リオナ」
「なんですの?」
紅茶の香りを楽しんでいると、エドワードが思い詰めた表情を浮かべる。
「…オルキス殿のことだが」
「オルキスが何か?」
「……幼馴染なんだろう」
「えぇ」
何故オルキス?と思うけれど、言葉の続きを待つことにする。
「…けれど、婚約者は俺だ」
「そうですわね」
「だから、リオナは、その」
「だから何が仰りたいのです?」
さすがに苛立ってしまう。令嬢が自由に使える時間など限られたものだ。無駄にする時間など一秒たりとてない。
「オルキス殿を、名前で呼ぶのをやめて、俺を、呼び捨てにすればいいと、思う」
「……はい?」
「仲が良すぎて、嫉妬、しているんだ。悪い、馬鹿馬鹿しいとは分かっているけれど」
「…エドワード様、」
「エドワード」
「……エドワード」
うん、と満足そうな笑みを浮かべるエドワードに、リオナは苦笑した。
「余裕がない俺は格好悪いか?」
「…では、言いますけれど。私も余裕がなかったのですわよ?」
「え?」
先ほどのミーシャにもそうだ。もしかしたらまたエドワードが余所見をしたら、という不安に駆られた。決して顔には出さないけれど。
「オルキスのことも。…私の、昔の想い人が。オルキスの色香に惹かれ、見事オルキスに告白して、おじ様に沈められておりましたから」
どこに沈められたか、それは聞かないほうがいいだろうとエドワードは判断したが。それよりも気になることがあった。
「リオナ、好きな男がいたのか?」
力のこもったエドワードの声に、リオナがしまったとばかりに口を押さえる。
「……だれ?」
「…もう名前すら思い出せません」
「……俺が初恋じゃなかったのか」
「………」
エドワードはどうやら嫉妬深いらしい。嬉しい反面、面倒臭い。
「………」
「リオナ」
「…はい?」
「好きだよ」
「……私も、好きです」
人と想い合うことが、こんなに幸せとは知らなかった。
まだやらねばならないことは沢山あるし、心配事もある。
けれどきっと、大丈夫だ。お互いを理解してくれる、最愛の人がいるのだから。
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