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しおりを挟むリオナとエドワードの結婚式の準備が着々と進む中、リオナの父であるモランとオルキスの父であるグラシルクは、久しぶりに二人で酒を飲んでいた。
「こうして飲むのも久しぶりだな」
「お互いに領地問題が相変わらず滞っているからな」
二人はやはり仕事人間であり、こうして休んでいる間も、明日までに何を終わらせるとかいうことを考えていた。
「それにしても、リオナも大きくなったものだな。少し前に見た時は小さかったのに、お前に似ずシーラに似て、立派な女性になったものだな」
「なんだと?」
茶化しながらドキリとした。シーラ、と名前を出した。いつもは「ネオハルト公爵夫人」などとつれない呼び方をするくせに。
「リオナの結婚式にはもちろん、お前も参加してくれるんだろう?」
「まあな」
「オルキスはどうするつもりだ?」
「なにがだ」
「そろそろ婚約者くらい決めなければ、大変だろう。行き遅れるぞ」
「もういっそ、ずっと行き遅れてくれていい」
「おい」
息子を溺愛するが故か、それとも。
多分今から言うのは、十数年前の、未だに癒えないグラシルクの傷口に触れる言葉だ。それでも言うと決めた。
「…サシャへの愛情まで付け加えて、オルキスに押し付けたところで、お互いに疲れるだけだぞ」
グラシルクは少しだけ驚いた顔をしてから、苦笑した。
「そんなこと分かってるさ」
てっきり怒鳴られて罵られることを覚悟していたのに、拍子抜けだった。
「けれどまぁ、そのうちな。オルキスをしっかり支えてくれる女性が居たなら、任せるさ。リオナが適任だと思っていたのに、お前は早々にあんな小僧を婚約者に決めるし」
「えっ」
モランの変な顔に、グラシルクがどうしたと聞いてくる。
「…お前が私を恨んでいるだろうに、お前の大切なものを、また私が奪い去るなど出来るわけが無いだろう」
「……はぁ?恨む?誰が?」
「…は?」
誰がって。なんだ、その間抜けな顔は。けれどもきっと自分も同じ顔をしているのだろう、とモランは思った。
「いや、お前が言ったんだろう、許さないと」
「……許さない?なにを?いつだ?」
本当に分からないという顔をしたグラシルクに、モランはとうとう怒りが飛び出た。酒の勢いもあったのかもしらない。
「お前が言ったんだろう!サシャが死んだ時に、私たち二人を許さないと!」
「は?ーーーはぁぁあ!!!?」
バンッ、と力任せにテーブルを叩いたグラシルクが叫ぶ。
「そんなこととっくに時効だろうが!なにいつまでも引きずってるんだよ!」
「は、はぁぁぁあ!!!?」
「バッカじゃねぇのか!」
「なんだとっ!?この!」
ガンッと頭を殴ると殴り返され、叩けば叩き返される。そのうち取っ組み合いになり、騒ぎを不審に思った執事が慌てて止めに入ってきた。
「全く、もう。いい歳をして二人とも、何をやっているの!」
「「……」」
シーラに手当をされながら、大の男二人が項垂れる図。
「…ていうか、モラン」
「!」
「お前もしかして、私がずっと恨んでると思って、サシャが死んでからずっと気を遣ってたのか」
サシャ、という名前にシーラの肩が揺れる。この3人でいる時にサシャの話題が出るのは実に十六年ぶりではないか。
「…悪いか」
「馬鹿だな。まさかシーラもか」
「え?」
「私がお前たち二人を未だに恨みながら生きてると思ったのか」
「え、ち、ちがうの?」
ここでまた盛大なため息をつくグラシルクに、モランとシーラは顔を見合わせた。
「…あのなぁ。あの時のことは仕方なかった、サシャが死んだのは誰のせいでもない。それにずっと気付かなかった私が悪かった。あの時の言葉は混乱して、咄嗟に出た言葉だ。訂正しようとした矢先にお前が普通に話しかけてきたから、すっかり忘れてたんだが」
「「・・・」」
まさかの十六年目の事実。
「本当に恨んでたら目も合わせないし、視界にすら入れないに決まってるだろ」
「…言わないと分からないだろう。それにお前、私やシーラを名前で呼ばなくなったし」
「公の場で如何にも私情を挟むわけにもいかないだろうが」
そこまで言われて考える。確かに互いに忙しくなり、会うのは社交の場が多くなった。私情で会う時に名前を呼ばなかったのは、社交の場でのクセがついてしまったからだろう、とグラシルクは呆れたように笑った。
「お前たち二人は本当に馬鹿だな。今頃天国でサシャも笑い転げているだろうよ」
「…そうだといいがな」
はあっとため息をつきながらもモランとシーラは、十六年ぶりのグラシルクとの親友としての距離感に泣きそうになるのだった。
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