婚約者を見限った令嬢は、1年前からやり直す。

伊月 慧

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9,舞台の完成

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「それにしたって、本当君は凄いな」

 今日はお忍びで視察に来たカインと街でお茶をしております。もちろんルイス様には内緒ですが。

「あら、なんのことかしら?」
「次の国王である私を足で使おうとすることだよ。君くらいだ、そんな強者」

 そういってカインが苦笑しながら茶を啜った。

「…ご迷惑は承知しております」
「迷惑とは言わない。私は君のそういうところを気に入っている」
「恐れ入ります、カイン様」

 それにしても、とカインが続ける。

「そんなにもルイスが憎いか?」
「ーー愛しておりましたから」

 カインは普段お調子者のくせに、こういうときは真面目な声になる。だからこちらも真面目に返さなくてはと思ってしまう。

「…君らは仲良くやっていくと思ったが」
「そうですわね、私もそう思っておりましたわ」

 周りからの反対もなく、家も文句を言われる家柄ではなく。

「ーーこれでも侯爵家の長女ですの。もう二度と、あんな女などに易々と盗られてたまるものですか」
「それを聞いているとまだ愛しているように聞こえてくるな」
「まさか。…気のせいですわ」

 それにしても変な感じ。カインとお茶をすることはあったけれど、それはいつも城でだった。城ではルイスのせいで会えなくなったため、こうしてわざわざ街で会うのだが。

「不思議ですわね」
「なにが?」
「ここに私と貴方と、…何も変わらない場所に、未来から戻っているんですもの。何て言うのかしら…タイムスリップ?とは違う気もするけれど」
「まぁね」

 もうすっかり温くなってしまった紅茶をヒューリアも飲み干す。

「どこまででもお付き合い致しますよ、お姫様」
「…時が来ましたので、お願い出来ますわよね?」


 ここ数日、社交界ではヒューリアがルイスではなく、カインの婚約者になるのでは?という噂がたちまち広がっていった。

「なるほど?社交界の噂は君の仕業だったわけか」
「お知りだったのですね。申し訳ありません」
「まぁいいさ。では私は戻って、君のナイトにでもなろうかな」
「お気をつけて。私もそろそろ家に帰ります」

 舞台は揃った。せいぜい踊ってください、ルイス様ーー。

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