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結婚生活
イルタナー伯爵婦人
しおりを挟むゼイルドの冷ややかな笑みと発言に、ユーリは一瞬固まった。
「旦那様!?」
「シャルロット、騒がないでくれるか?…ユーリ君、誰がどこで見ているか分からない。…シャルロットに変な噂が纏うのは、君も本意ではないだろう?」
「旦那様、ユーリお兄様は再従兄で…」
「結婚出来る間柄の人間だ。シャルロット、君だけの問題ではないんだ」
結婚、なんて。ユーリお兄様にはそんなつもりはないのに。ただ、妹のように親切にしてくださっているだけなのに。
(そういう旦那様はどうなのよ…!奥方に囲まれて笑っているくせにっ…!)
「旦那様、おやめになってください。ユーリお兄様に失礼でしょう!」
「人の妻と二人で長話する方が非常識で失礼だと思うのは私だけか?」
「旦那様!」
「シャルロット、いいんだ。配慮出来ていなかった俺の責任だ。ゼイルド様、申し訳ありませんでした」
ゼス、とは呼ばなかったことから、ユーリも少しだけ気分を害したことが分かった。
けれどゼイルドも気分を害していたようだった。
けれど、けれど。
「あぁ…それから、君。私の妻を呼び捨てにしないでくれるか」
このタイミングで言わなくてもいいのでは?
「旦那様、おやめください!ユーリお兄様とは幼馴染みなのです、今更呼び名を変える方が可笑しいでしょう!」
「可笑しくなどない。可笑しいのは、人の妻を呼び捨てにする方だろう。違うのか?」
どうして、旦那様は。そういう言い方ばかりをするのだろう。
「…そうですね。申し訳ありませんでした」
「ユーリお兄様!」
ユーリお兄様が私のせいで。
「旦那様、私がユーリお兄様に話しかけたのです!ですからユーリお兄様は、」
「庇うのか、この男を!!」
急にゼイルドが大声を出したので、シャルロットは思わず怯んでしまった。
「そんなにもこの男が大切か!」
「当たり前でしょう!」
咄嗟にそう言ってしまう。少しだけユーリの目が開いたのを見て、しまったと訂正する。
「た、大切な…大切な、幼馴染みですわ」
「…ふん。…お前のせいで気分が最悪だ。帰るぞ」
スタスタと歩き出したゼイルドを追いかける前に、ユーリに頭を下げる。
「ユーリお兄様、旦那様が申し訳ございませんでした。また改めてお詫びを…」
「…結構だ。では、お元気で……イルタナー伯爵婦人」
そう言われた瞬間、本当に地獄へ突き落とされたような気分になった。そうだ、私が旦那様をどう思っていても…私はイルタナー伯爵婦人なのだ。
「…では、失礼します、ユーリお兄様……いえ、…クラウス様…」
早く来い、と旦那様が叫ぶ。
ペコリともう一度頭を下げて、私はユーリお兄様を背にして歩いた。
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