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結婚生活
女という生き物---ゼイルド
しおりを挟むゼイルドは最高に機嫌が悪かった。
昔からイルタナー家に仕え、執事筆頭のバロンでさえ近付かないほど、最高級に機嫌が悪かった。
「俺が嫌い、か…」
ゼイルドはボソリと呟き、一人寂しく笑う。
「…そう言われれば、そうか」
妻であるシャルロットは、自分を一度も愛称で呼んだことがない。今まで特に気にも止めなかったが。
どうやら彼女は、俺が心の底から嫌いらしい。
「…どうしたものかな」
日の光りに当たって煌めいたパールのネックレスを机の上に置く。
それは紛れもなく、シャルロットの物だった。
ゼイルドは女という生き物が嫌いだった。
それは母が嫌いだったからだ。浅ましく傲慢な、女狐。ゼイルドから見たゼイルドの母親は、そんな女だった。
まとわりつくような声でゼイルドに触れ、気に入らなければ叩く。
もう十数年も前の話だが。
シャルロットに求婚したのは、レイドル家と姻戚関係があれば便利だと思ったからだ。初めは姉のルーラに求婚する予定だったが、ルーラとシャルロットではあまりに違いすぎた。言ってしまえば悪いが、ルーラは平凡な顔立ちだった。とてもあのレイドル家の長女だとは思えないほど、平凡だった。纏う空気も、平凡過ぎた。
それに比べて、シャルロットは美しかった。顔も仕草も、笑顔も。シャルロットの母も、平民の出だがたいそう美しかったと聞いた。
ゼイルドにとって、女は子供を産ませる道具でしかなかった。それ以上の価値なんて見出だせなかった。
けれどシャルロットは違った。
ゼイルドを不安にさせ、シャルロットの一言で一喜一憂してしまう。
それがシャルロットを愛しているのだと、気付くまでに何ヵ月かかったことか。
シャルロットに想い人がいるのは知っていた。だから、キツく当たってしまう。俺の妻でありながら、他の男を想う。
一度、寝言で『ユーリお兄様』と呟くのが聞こえた。その日俺は一日中不機嫌で、シャルロットは一日中ご機嫌だった。
それが夢のおかげかと思うたび、胸の中が真っ黒に染まっていった。
「…シャルロット…」
愛していると言えれば、どれだけ楽なのだろう。けれど言えないのは、拒絶されるのが怖いからだ。
女なんて嫌いだったのに。
「…ユーリ…か…」
いっそ、開き直ってみようか。どれだけ嫌われていても離さず、他の男のところへなんて行かせない。そうすればシャルロットは自分を見るかもしれない。
もしもシャルロットが嘘でも、一言、愛していると言ってくれれば。これ以上ないほど優しくして、望むものなら何でも買ってやるのに。
(気付けよ、俺の気持ち…)
彼女を、本当に大切にしたいのに。
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