さぁ、離縁して下さいませ。

伊月 慧

文字の大きさ
8 / 47
結婚生活

女という生き物---ゼイルド

しおりを挟む



 ゼイルドは最高に機嫌が悪かった。
 昔からイルタナー家に仕え、執事筆頭のバロンでさえ近付かないほど、最高級に機嫌が悪かった。

「俺が嫌い、か…」

 ゼイルドはボソリと呟き、一人寂しく笑う。

「…そう言われれば、そうか」

 妻であるシャルロットは、自分を一度も愛称で呼んだことがない。今まで特に気にも止めなかったが。
 どうやら彼女は、俺が心の底から嫌いらしい。

「…どうしたものかな」

 日の光りに当たって煌めいたパールのネックレスを机の上に置く。
 それは紛れもなく、シャルロットの物だった。



 ゼイルドは女という生き物が嫌いだった。
 それは母が嫌いだったからだ。浅ましく傲慢な、女狐。ゼイルドから見たゼイルドの母親は、そんな女だった。
 まとわりつくような声でゼイルドに触れ、気に入らなければ叩く。
 もう十数年も前の話だが。

 シャルロットに求婚したのは、レイドル家と姻戚関係があれば便利だと思ったからだ。初めは姉のルーラに求婚する予定だったが、ルーラとシャルロットではあまりに違いすぎた。言ってしまえば悪いが、ルーラは平凡な顔立ちだった。とてもあのレイドル家の長女だとは思えないほど、平凡だった。纏う空気も、平凡過ぎた。
 それに比べて、シャルロットは美しかった。顔も仕草も、笑顔も。シャルロットの母も、平民の出だがたいそう美しかったと聞いた。
 ゼイルドにとって、女は子供を産ませる道具でしかなかった。それ以上の価値なんて見出だせなかった。
 けれどシャルロットは違った。
 ゼイルドを不安にさせ、シャルロットの一言で一喜一憂してしまう。
 それがシャルロットを愛しているのだと、気付くまでに何ヵ月かかったことか。
 シャルロットに想い人がいるのは知っていた。だから、キツく当たってしまう。俺の妻でありながら、他の男を想う。
 一度、寝言で『ユーリお兄様』と呟くのが聞こえた。その日俺は一日中不機嫌で、シャルロットは一日中ご機嫌だった。
 それが夢のおかげかと思うたび、胸の中が真っ黒に染まっていった。

「…シャルロット…」

 愛していると言えれば、どれだけ楽なのだろう。けれど言えないのは、拒絶されるのが怖いからだ。
 女なんて嫌いだったのに。

「…ユーリ…か…」

 いっそ、開き直ってみようか。どれだけ嫌われていても離さず、他の男のところへなんて行かせない。そうすればシャルロットは自分を見るかもしれない。
 もしもシャルロットが嘘でも、一言、愛していると言ってくれれば。これ以上ないほど優しくして、望むものなら何でも買ってやるのに。

(気付けよ、俺の気持ち…)

 彼女を、本当に大切にしたいのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...