上 下
11 / 47
結婚生活

おめでとう

しおりを挟む



 ユーリお兄様が訪ねてきたのは、ちょうどゼイルドが用事で出掛けているときだった。

「クラウス様!?どうしてここに…!」

 ユーリお兄様、と言おうとしてやめた。もう一度引き離されてしまったら怖いからだ。

「…シャルロット」

 え、と言葉が詰まる。

「本当はな、イルタナー伯爵婦人と言わなければならないんだろうが。…俺には無理だ、お前の呼び名を今さら変えるなんて」

 少し切なそうに見えたのは気のせいか。

「…えっと…」
「また、ユーリと呼んでくれないか?」
「……ユーリ…お兄様…」

 相変わらず優しそうな瞳に、心が落ち着いた。


 応接間に通したとき、ナカバ以外は迷惑そうな顔をした。当主のいない時に家に上げることがおかしいからだろう。

「…妊娠したと聞いた。おめでとうと、直接言いたくて」

 ふわりと笑ったユーリに、ナカバが捲し立てるように言った。

「ユーリ様、お聞き下さい!シャルロット様が、旦那様に離縁しろなどと言っているのです!」
「ナカバ!!」

 まさかユーリお兄様に知られるなんて予想外だった。ナカバに口止めするのを忘れていた。

「なに?」
「仮面夫婦だったのだと仰るのです!ですが普段のお二人の様子から、そんなはずはないのです!旦那様、どうかシャルロット様を説得…」

 ナカバが言い切る必要なく、ユーリは低い声で問いかけてきた。

「どういうことだ?仮面夫婦とは、なんなんだ」

 シャルロットは思った。どうせユーリに思いを寄せたところで、何も変わらない。今まで通り妹で、ユーリは兄で。こんなに優しくされて期待するくらいなら、優しくされない方がいい。
 自分から離れてくれた方が、いい。

「…あら、ユーリお兄様。仮面夫婦の言葉の意味を聞いているんですの?まさかお知りにならないわけではないでしょう?」

 性格の悪さに、上っ面だけのいい子の私に、失望して。優しくしないで。

 祝いの言葉なんて、述べないで。

「シャルロット、どういうことだ?何言ってるんだ、お前は幸せなんだろ?」

 私から、離れて。

「私は今まさに、不幸のどん底ですわよ。大嫌いな男と夫婦になって、望んでもいない子供が出来て、心の底から慕っている方に祝福されるのですから!」

 言っていて涙が出てきた。本当に、どうしてこんなことになったんだろう。
 私はただ、幸せな家庭を作りたかった。
 けれど、ゼイルドとは理解し合えなかった。それは仕方ないし、性格の不一致とも言う。
 それでも、幸せになりたかった。

「シャルロット様!?」

 誰も知らない、私だけの気持ち。

 ずっと前から想っていた貴方。

「…シャルロット…」

 さぁ、愛想をつかして。出ていって。

 二度と、会いに来ないで。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ちびヨメは氷血の辺境伯に溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:42,624pt お気に入り:4,699

悪妻なので離縁を所望したのに、旦那様が離してくれません。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:4,417

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:65,520pt お気に入り:2,039

第八皇子は人質王子を幸福にしたい

BL / 連載中 24h.ポイント:3,017pt お気に入り:1,030

旦那様、離婚しましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:2,825

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:2,912

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:3,621

2番目の1番【完】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:7,465

処理中です...