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結婚生活
おめでとう
しおりを挟むユーリお兄様が訪ねてきたのは、ちょうどゼイルドが用事で出掛けているときだった。
「クラウス様!?どうしてここに…!」
ユーリお兄様、と言おうとしてやめた。もう一度引き離されてしまったら怖いからだ。
「…シャルロット」
え、と言葉が詰まる。
「本当はな、イルタナー伯爵婦人と言わなければならないんだろうが。…俺には無理だ、お前の呼び名を今さら変えるなんて」
少し切なそうに見えたのは気のせいか。
「…えっと…」
「また、ユーリと呼んでくれないか?」
「……ユーリ…お兄様…」
相変わらず優しそうな瞳に、心が落ち着いた。
応接間に通したとき、ナカバ以外は迷惑そうな顔をした。当主のいない時に家に上げることがおかしいからだろう。
「…妊娠したと聞いた。おめでとうと、直接言いたくて」
ふわりと笑ったユーリに、ナカバが捲し立てるように言った。
「ユーリ様、お聞き下さい!シャルロット様が、旦那様に離縁しろなどと言っているのです!」
「ナカバ!!」
まさかユーリお兄様に知られるなんて予想外だった。ナカバに口止めするのを忘れていた。
「なに?」
「仮面夫婦だったのだと仰るのです!ですが普段のお二人の様子から、そんなはずはないのです!旦那様、どうかシャルロット様を説得…」
ナカバが言い切る必要なく、ユーリは低い声で問いかけてきた。
「どういうことだ?仮面夫婦とは、なんなんだ」
シャルロットは思った。どうせユーリに思いを寄せたところで、何も変わらない。今まで通り妹で、ユーリは兄で。こんなに優しくされて期待するくらいなら、優しくされない方がいい。
自分から離れてくれた方が、いい。
「…あら、ユーリお兄様。仮面夫婦の言葉の意味を聞いているんですの?まさかお知りにならないわけではないでしょう?」
性格の悪さに、上っ面だけのいい子の私に、失望して。優しくしないで。
祝いの言葉なんて、述べないで。
「シャルロット、どういうことだ?何言ってるんだ、お前は幸せなんだろ?」
私から、離れて。
「私は今まさに、不幸のどん底ですわよ。大嫌いな男と夫婦になって、望んでもいない子供が出来て、心の底から慕っている方に祝福されるのですから!」
言っていて涙が出てきた。本当に、どうしてこんなことになったんだろう。
私はただ、幸せな家庭を作りたかった。
けれど、ゼイルドとは理解し合えなかった。それは仕方ないし、性格の不一致とも言う。
それでも、幸せになりたかった。
「シャルロット様!?」
誰も知らない、私だけの気持ち。
ずっと前から想っていた貴方。
「…シャルロット…」
さぁ、愛想をつかして。出ていって。
二度と、会いに来ないで。
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