あと1年、彼の隣に

伊月 慧

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本編

6日目~智樹side~

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 彼女の作ったケーキを食べるのは、あれが2度目だった。
 アイツばっかりいい思いをしているのが許せなくて、幸せそうな咲良ちゃんの顔が苦くて、咲良ちゃんが断れないことを分かっていながら提案した。
 別に菓子は好きじゃないけれど、咲良ちゃんの作ったモノが食べたかった。

 それが原因で、煌夜とまた話すことになるなんて思わなかったけれど。


「…クソ…」
 チャイムの音が鳴り響く校舎で、人々慌ただしく各々の教室へと入っていく中、智樹は違った。
 勝手に複製した合鍵を使い、屋上へと足を運ぶ。
 そこに当たり前のようにいるのは、智樹に鍵をくれた友人の佐伯 隆太だ。
「またサボり?」
「お前もだろ、隆太」
 ハハッと笑うこの男は学校中から嫌厭され、教師からも見放されている所謂ヤンキーだ。
 ちなみに、この男も煌夜の友人だったりするが…俺には関係ないことだ。
「…さっきさぁ」
「んー、なにー」
 堂々とタバコを吸う隆太に、何気なく先ほどのことを口にする。
「さっきさ、煌夜に絡まれた」
「ふー…………ん…?…え、なんで」
「…昨日さ、久しぶりに咲良ちゃんに会ってさ。ちょっと話したわけ」
「はぁ?…お前、まさかまだあの女のこと好きなワケ?」
「………」
「…俺はあの女、嫌い。なんだかんだ綺麗事並べてるけどさぁ、結局は煌夜とお前の仲、引き裂いたじゃん」
「…別に…咲良ちゃんは悪くないし」
「それ煌夜も言ってた。それ。…みんなから守られてますって感じがイラつく。なんでも思い通りで幸せみたい」
「おい、隆太」
「…吸う?」
 隆太がポケットからタバコを取り出し、差し出してきた。
 失恋した時、俺はこれを受け取った。
 あれが最初で、きっと最後だ。
「吸わねー。お前もそろそろやめろ」
「…やめねーよ」
「いつまでやってんだよ」
「さぁな」
 正直、別に咲良ちゃんが原因でギスギスしたんじゃない。俺たちは『似すぎていた』んだ。自分の言われたくないことも、言って欲しいことも。
 それ故に、相手の嫌がる言葉をピンポイントで突けた。だから元々喧嘩も多かったし、…それがひどくなっただけだ。
 それに、咲良ちゃんが悪いのではないことは俺がよく知っている。
 咲良ちゃんは初めに言った。煌夜が好きだから、と。それでも良いと攻めたのは俺だ。強いて言うならば、失って初めて気付いたとか言い出した煌夜が悪いのだ。
(あーあ、結局…俺ってまだ、咲良ちゃんのこと、好きなんだよなぁ…)
 いつまでも、泥沼状態。
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