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本編
13日目~咲良side~
しおりを挟む長く感じた点滴がようやく終わり、咲良はホッと息をつく。
自分の荷物の中から財布を取り、ソロリと部屋を抜け出す。
(アイス食べよっと)
昔から点滴は慣れない。変な液体が自分のなかに入ってくるのかと思うと、どうしようもなく気持ち悪い。
「咲良ちゃん」
アイスとお菓子がごちゃごちゃと入った袋を手に、売店を出たときだ。
まるで見越していたかのように、湯島先生が仁王立ちで売店の前にいた。
「ひいっ!?」
驚いている隙に買い物袋を捕られ、中を点検される。
「な、なんで先生っ…」
「君が考えそうなことは分かる。誰がこんなにお菓子食べていいって言ったっけ?」
「…でも、食べたらダメとは言ってないです…」
精一杯の反論だが、湯島の言いたいことが分かる。
「ご飯マトモに食べないなら、ダメに決まっているだろう」
そうなのだ。咲良は点滴同様、病院食が未だに嫌いなのだ。なんというか、とにかく、こんなこと言うべきではないと思っているけど…不味い。
「…美味しくない」
出来るだけ言葉を選んで言うものの、湯島の地味な怒りがヒシヒシと伝わってくる。
「うん。で?」
一蹴されてしまった。
「た、食べたくない」
「じゃあずっと入院しておく?」
「それはやだ」
「全く、子供だな」
その言葉にムッとして言い返す。
「子供じゃないですぅ!」
「子供だろう」
ハッと笑いながら湯島先生が歩き出す。
「昔から全く変わらない」
まぁ、確かに先生からしたら私はずっと子供のままなんだろうけれどね。
「アイス返して」
「ったく…」
はぁ、とため息をついて、湯島先生がこちらを見る。
「…今日の夕飯は絶対に全部食べるか?」
「食べるから!」
「絶対だぞ?」
「絶対!!」
ふと、考える。
(…今日の夜の献立、なんだっけ…)
そんな湯島先生と咲良の会話を見ていた人がいた。
「…兄さん、と……中西…?」
中西、と咲良の名字を呼んだのは、道行く人が見惚れるような顔の整った男…湯島弘樹だった。
その日の夜。
湯島先生が、咲良の病室でにこりと笑って立っていた。
「先生の意地悪っ!」
その日の献立はよりにもよって、咲良の嫌いなメニューがズラリと並んでいた。トマトと蒸し鶏のサラダ、グリーンピースの混ぜご飯、野菜とトマトの煮込み。トマトもグリーンピースも、咲良か嫌いだと知ってたくせに交換条件を突き付けた湯島先生が憎らしい。
「食べたくない」
「なら、咲良ちゃんのお母さんに財布と携帯没収してもらうしかないな」
「なんで携帯!?」
「だってウチの売店は携帯からでも買えるだろ?」
「…食べる」
どんなに嫌いなものでも、煌夜との連絡手段が途切れるくらいなら、無理して食べた方がいい。
その日の夕飯は、今までで一番時間のかかった食事だった。
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