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本編
14日目--- 2
しおりを挟む椅子に座る煌夜と湯島先輩、ベッドに掛けた咲良。三人の間で、長い沈黙が続いた。
どうしよう、何て言おう。そう考えて、考え抜いて、とりあえずお菓子でも出そうと袋に手を掛けた時だ。
「お久しぶりです、弘樹先輩」
意外にもそう言って笑ったのは、煌夜の方だった。
「そうだな」
「なんで先輩がここに?」
「中西の見舞いに。俺の兄が、中西の主治医で」
それを聞いた煌夜が少し驚いた顔をしつつも、咲良に問いかける。
「そうなのか?」
「あ、うん。ずっと前に、先生から聞いたから…」
「ふーん」
俺は聞いてないぞ、と煌夜が咲良を睨む。その視線がいたたまれなくて、ゆっくりと視線を反らした。
「咲良と弘樹先輩、仲良かったっけ」
「あ、それは…」
「中学の時、中西と委員会が同じで一番仲が良かったんだ」
あれ、そうだっけ?なんて考えながら、一応頷く。
「そういえば煌夜、中西と同じ高校なのか?煌夜もウチの学校来なかったよな」
「あー…そうっすね」
めんどくさそうに煌夜が答える。
「…幼馴染みって仲いいのな。俺にはいないからよく分かんないけど、高校に入っても仲がいいっていいな」
「あ、それは…」
付き合っているから、というのは語弊がある。煌夜なら付き合っていなくても見舞いに来てくれただろう。
とその時、湯島先生が中途半端に開いていた扉から入ってきた。
「あれ、弘樹?なんでいるんだ?」
「兄さん」
「なんだ、咲良ちゃんと仲よかったのか。咲良ちゃん、点滴ー…」
先生が言いかけて、机の上の袋を見る。
「…咲良ちゃん?」
しまった、なんて思いながら先生から目を反らす。
「き、昨日の夜は食べましたよ?」
「朝と昼は残ってただろう」
「でも、半分は食べたもん…」
拗ねたように言う咲良に、先生が仕方ないといった風でため息をついた。
「…なんで点滴、看護師の人じゃなくて兄さんなの?」
最もな疑問を弘樹が問いかける。
「湯島先生の方が上手だし、痛くないからお願いしてるんです。前に看護師の人に何度もやり直しさせられたことあって…」
あの時を思い返せばゾッとする。針を射した後も、グリグリとされたのを覚えている。とにかく痛かった。
「ふーん…」
「咲良、あんま先生困らせんなよ」
「はーい」
素直に返事する咲良を見て、先生が笑いながら呟く。
「まるで彼氏っていうよりも保護者だな」
あはは、と咲良が笑おうとしたときだ。
「え、彼氏?」
弘樹がポツリと言った。
「彼氏って?」
「あ。俺と咲良、付き合ってるんスよ」
「…え、お前が?中西と付き合ってんの?それって、恋人として?」
「まぁ、そうですね」
「な、なんで…」
まぁ、中学の時は煌夜も小早川先輩にお熱だったのは周知の事実で、それはかわることないだろうと言われていたのたが。
多分、その後に続いた言葉は決して悪気があった訳ではないだろう。が。
「お前、小早川が好きなんじゃなかったのか!?」
そのひとことで、どれだけ煌夜を傷付けたのか、きっと先輩には分からないだろう。そしてそれと同時に、咲良のことも傷付けたのだ。
「…俺が好きなのは咲良ですよ。咲良も俺のこと、好きだよな?」
「っ…うん、もちろん」
空気を読んだのか、それまで黙っていた先生が声を発する。
「ほら、弘樹。お前はさっさと帰れ。咲良ちゃん、点滴するよ」
「あ、はい」
その時、先生が咲良に耳打ちする。
「ごめんな、我が弟ながら…勉強はできるくせに、空気読んだり、相手のことを考えたり出来ない子なんだ。悪い子じゃないから許してあげて」
「…いえ、気にしてないです」
そう、私は気にしないけれど。けれど、煌夜は。
そう思うと、少しだけ胸が傷んだ。
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