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本編
21日目
しおりを挟むメールを読むなり病室に乗り込んできた母親は、泣きながら咲良に訴えた。
「どういうことなの!こんな状態で外出なんて、許せるわけがないじゃない!」
来るとは思っていたけれど、こんなに早く来るとは思わなかった。
「お母さん。病院よ?静かにして」
反抗的な態度を取るつもりも取った気もない。言ったことは当たり前のことだ。隣も向かいも病室なのに、こんな大きな声で騒がれていたら迷惑だろう。それに何よりも、咲良自身がまともに話し合う気はなかった。
「ねぇ、もっと良くなってからでいいじゃない?ね?」
「結局お母さんは、私がどこかへ行こうとするのが気に入らないだけじゃない。昔からそうでしょ、もっと良くなってからって。それを言われて待っていても、良くなるどころか二十歳まで生きられないって…私はお母さんの言いなり通りに生きる人形じゃないのよ」
「煌夜くんでしょう!?貴女が、そんな風に私に言うなんてっ…!別れなさい、あんな子がいたら、貴女に害よ!私が言ってあげるわ!」
「そんなことしたら、私はお母さんを絶対に許さない」
「咲良!」
「煌夜が毎日来てくれるから、大嫌いな点滴も注射も薬も、ちゃんとしてる。煌夜と別れろって言うなら、もう入院なんてしないし薬も飲まない」
「いい加減にして!私は貴女のためを思って、」
「本当に私のことを思ってくれるなら、私の望んでいることをさせて。もう私は高校生なんだから、自分のことは自分で出来るの」
酷いことを言うと思う。それでも、たった少し生き永らえるために煌夜から離れて治療なんて有り得ない。
「ねぇ、お母さん。ダメって言われてもどうせ行くの。私の主治医はお母さんじゃない、湯島先生よ。先生がいいって言ってるんだから、いいじゃない」
「駄目よ!もし何かあったら…!」
「そう言って!!」
いつも、そうだ。何かあったら駄目だからと、行きたいところもやりたいことも我慢して、丈夫に生まれなかった自分が悪いのだと歯を食い縛っていた。
「小学校の宿泊行事も、中学の修学旅行も、高校の行事もマトモに出られない!私の身体のことは私が一番良く分かっているのに!無理だとか、お母さんが勝手に決めないで!」
普通の女子高生みたいにバイトだってしてみたかったし、学校帰りにみんなで寄り道したりしてみたかった。けれどお母さんはいつもそれを許してくれない。
周りが話しているような大人みたいな真似だってしてみたいし、煌夜とお泊まりだって行きたい。
「私の身体なの!!!」
一頻り言い終わって、母の方を見る。
真っ白な顔をして、その後フラフラとどこかへ行ってしまった。何か言いたげだったけど、言わずに口をパクパクさせていた。
足音が消えた辺りで、咲良は泣いた。言いたくても言えなかったこと、傷付くと分かっていながら躊躇しなかったこと。それをしてしまったことへの後悔だった。
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