モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧

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 久々にアスラーナと二人で買い物に行こうという話になり、本当に久しぶりの事なのでレミーアは意外と楽しみにしており、約束の一時間前にはそこについてしまった。
 だがずっと待ち合わせ場所にいるのも何なので、近くの店を少し見て回ろうと足を踏み出したときだ。
「………?」
 視線を感じる気がして、レミーアはくるりと背後を振り返る。
 だがそこにいるのはただの街の人たち。噴水の前にある屋台のパン屋のおばさんだったり、おいかけっこをして楽しむ少年たちであったり、ベンチに腰掛ける男女のカップルであったり。極々普通の街の人、だ。
(気のせいかしら。…嫌ね、地位を手に入れるとその分自意識過剰になるなんて)
 自分を叱咤して歩くことを再開するレミーアだったが、それは決して自意識過剰等ではない。
 その場にいた全ての人は皆、アスラーナと買い物に行くと知ったアゼルが派遣し、護衛兼ーー本当にアスラーナと二人なのかを探る、雇われた者たちだったのだから。
 もちろんレミーアはそんなことをする由もないのだが、三十分ほど早く着いたアスラーナは直ぐ様それを見抜き、馬鹿じゃないのかと盛大にため息をついたという。




「見て、レミーア。とても綺麗」
 文具店で、アスラーナが持ってきた真珠のついたペンはレミーアも好みのものだった。
「お揃いで買わない?」
「そうね、そうしましょう」
 普通の貴族令嬢ならばこんな風に自分で出歩いたりしないのだろう。家に商人を呼んで気に入った商品を買うのだろうが。
「自らの足で街に来た方が街の情勢も知れるものね。それに品数も多いし」
「そうね。特にレミーアは将来王妃になるんだから」
「ア、アスラーナ、まだ気が早いわ。それに……もしアゼル様にいつ捨てられても仕方ないもの。私は何も持っていないから…」
「…貴女まさか、まだアゼル様が貴女を捨てる可能性があると考えているの…!?」
「え、だって私は…」
「あのね、捨てられるくらいなら今日だって、」
「今日?」
 沈黙の後、盛大にため息をついたアスラーナがゆっくりと背後にいる人間たちをキッと睨む。
 アスラーナからすれば、親友をこんなに不安にさせておいて姑息な真似を、と思っているのだろう。
「…貴女、アゼル様に愛されているわよ」
「そ、それは言ってくださったけど、お母様が言っていたわ。殿方の心は気紛れだからって…」
「ーーそうね、確かに殿方の心は気紛れね」
 アスラーナにはどうしても納得がいかなかった。レミーアはこんなにも悩んでいるというのに、あの男は護衛兼見張りをつけて安心しているのかと考えた瞬間ーーフツフツと怒りが沸いてきたのだ。
「ねぇ、レミーア。パーっと気の晴れるところにいかない?」
「え?」
「とっても素敵なところ。私もお兄様と喧嘩したときや納得いかないときはそこに行くの」
「え、アスラーナ?」
「行きましょうそうしましょう」
 少しくらい心配をかけて、あの男を焦らしてみよう。というアスラーナの考えは後に面倒なことを引き連れるだけなのだが、この時の二人にはそれを知る由もなかった。
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