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第3話 黒衣の幼女
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「わたしの名前はユリファ。よろしくね」
「いや、今はお前の名前とかいいから! なんで埼玉の大宮と異世界の城下町が繋がってるんだよ! この状況を説明してくれよ!」
動揺を抑えきれず、ユリファと名乗った幼女に対する警戒心も吹き飛んだ竜弥は噛みつくように言う。
それに対し、ユリファは機嫌を損ねたように頬を膨らませた。
「ちょっと! レディーの名前をどうでもいいなんて、デリカシーなさすぎよ!」
「うるせえ、こっちは混乱してるんだよ、ちんちくりん!」
「ち、ちんちくりん!?」
ユリファはショックを受けたようで、愛らしい両目をまん丸にして呆然とする。数秒の間、そうやって固まった後、
「う、うわああああん! バカぁああ!」
目をぎゅっと瞑ったユリファにガシッ! と足を蹴られる。
だが、小さな身体から繰り出される蹴りの威力などたかが知れている。
竜弥はその華奢な足をしっかりと掴むと、蹴りを繰り出した不安定な体勢のままのユリファを左へ右へとゆらゆら揺らす。
「ちょ、ちょっと、やめ!」
「ほら、状況を説明しないと、いつまでもゆらゆらの刑だぞ」
「ほんとに、やめ!」
ユリファはぷにぷにとした頬を屈辱で真紅に染めると、掴まれた足を軸にして、もう片方の足で竜弥の腹に思い切り前蹴りを叩き込んだ。
「ぐあ!?」
いきなりのことで、竜弥は何が起こったのかもわからず、ユリファの細い足を放してしまう。
ようやく自由になったユリファから、今度は渾身の回し蹴りが放たれた。
「ごふっ!?」
ちょうど一撃目が入った箇所に追撃の回し蹴りが炸裂し、竜弥はその場にうずくまる。
ユリファは膝をついて俯く彼の頭頂部を冷ややかに眺めながら、不遜に鼻を鳴らした。
「本当はこんなところで遊んでる暇なんてないの。のんびりしてたら、やられちゃうんだから」
「やられるって……?」
痛みに耐えつつ、苦悶の表情を浮かべた竜弥が問うた時、テラスのすぐ下からこの世の終焉を迎えたような絶叫が届いた。
続いて、何かが地面へと倒れ込む音。
ユリファはテラスから身を乗り出すようにして、その様子を見る。
竜弥は慌てて彼女の横に並ぶと、声のした方に目をやった。
「……この王城だけがこんな風に襲撃されたと思ってたの? 目の前の城下町をスルーして?」
無感情になったユリファの声と共に、竜弥の目に飛び込んできたのは、倒れ込んだ人影と――そこから溢れ出る血溜まり。
その周囲には、洒落たスーツを着込んだ数人の男たちが見下ろすように立っていて、人影の息の根が止まったのを見届けたのと同時に、闇夜に溶け込むように消えた。
「あれは、城下町から王城に助けを求めて来た人ね。町の方も今頃、同じ惨状になってるはずよ」
「な、なんなんだよ……?」
「この世界に転移してきたのは、あなたたちからすれば『異世界』にあたるアールライン、その中に存在するリーセア王国よ。普段は平和な国なんだけどね、転移した瞬間は事情が違った。ほら、聞こえる……でしょ?」
ユリファに言われて耳を澄ます。
すると、何かが聞こえてきた。
竜弥の瞳が恐怖に揺れる。
今まで、自分の置かれた状況を把握するのに必死で気付かなかったのだ。
彼は酷い眩暈を感じて顔をしかめる。
――聞こえる。
一度気付いてしまえば、もう知らないふりはできなかった。
王城の敷地外、町の方からそれは聞こえてきた。
騒音。いや、それらは全て、町の住人たちの悲鳴だった。
悔恨、呪詛、怨嗟、絶叫、断末魔――。
死に瀕した城下町の住人達が助けを請う声。
それが一つの塊となって、竜弥の耳に届いていた。
「いや、今はお前の名前とかいいから! なんで埼玉の大宮と異世界の城下町が繋がってるんだよ! この状況を説明してくれよ!」
動揺を抑えきれず、ユリファと名乗った幼女に対する警戒心も吹き飛んだ竜弥は噛みつくように言う。
それに対し、ユリファは機嫌を損ねたように頬を膨らませた。
「ちょっと! レディーの名前をどうでもいいなんて、デリカシーなさすぎよ!」
「うるせえ、こっちは混乱してるんだよ、ちんちくりん!」
「ち、ちんちくりん!?」
ユリファはショックを受けたようで、愛らしい両目をまん丸にして呆然とする。数秒の間、そうやって固まった後、
「う、うわああああん! バカぁああ!」
目をぎゅっと瞑ったユリファにガシッ! と足を蹴られる。
だが、小さな身体から繰り出される蹴りの威力などたかが知れている。
竜弥はその華奢な足をしっかりと掴むと、蹴りを繰り出した不安定な体勢のままのユリファを左へ右へとゆらゆら揺らす。
「ちょ、ちょっと、やめ!」
「ほら、状況を説明しないと、いつまでもゆらゆらの刑だぞ」
「ほんとに、やめ!」
ユリファはぷにぷにとした頬を屈辱で真紅に染めると、掴まれた足を軸にして、もう片方の足で竜弥の腹に思い切り前蹴りを叩き込んだ。
「ぐあ!?」
いきなりのことで、竜弥は何が起こったのかもわからず、ユリファの細い足を放してしまう。
ようやく自由になったユリファから、今度は渾身の回し蹴りが放たれた。
「ごふっ!?」
ちょうど一撃目が入った箇所に追撃の回し蹴りが炸裂し、竜弥はその場にうずくまる。
ユリファは膝をついて俯く彼の頭頂部を冷ややかに眺めながら、不遜に鼻を鳴らした。
「本当はこんなところで遊んでる暇なんてないの。のんびりしてたら、やられちゃうんだから」
「やられるって……?」
痛みに耐えつつ、苦悶の表情を浮かべた竜弥が問うた時、テラスのすぐ下からこの世の終焉を迎えたような絶叫が届いた。
続いて、何かが地面へと倒れ込む音。
ユリファはテラスから身を乗り出すようにして、その様子を見る。
竜弥は慌てて彼女の横に並ぶと、声のした方に目をやった。
「……この王城だけがこんな風に襲撃されたと思ってたの? 目の前の城下町をスルーして?」
無感情になったユリファの声と共に、竜弥の目に飛び込んできたのは、倒れ込んだ人影と――そこから溢れ出る血溜まり。
その周囲には、洒落たスーツを着込んだ数人の男たちが見下ろすように立っていて、人影の息の根が止まったのを見届けたのと同時に、闇夜に溶け込むように消えた。
「あれは、城下町から王城に助けを求めて来た人ね。町の方も今頃、同じ惨状になってるはずよ」
「な、なんなんだよ……?」
「この世界に転移してきたのは、あなたたちからすれば『異世界』にあたるアールライン、その中に存在するリーセア王国よ。普段は平和な国なんだけどね、転移した瞬間は事情が違った。ほら、聞こえる……でしょ?」
ユリファに言われて耳を澄ます。
すると、何かが聞こえてきた。
竜弥の瞳が恐怖に揺れる。
今まで、自分の置かれた状況を把握するのに必死で気付かなかったのだ。
彼は酷い眩暈を感じて顔をしかめる。
――聞こえる。
一度気付いてしまえば、もう知らないふりはできなかった。
王城の敷地外、町の方からそれは聞こえてきた。
騒音。いや、それらは全て、町の住人たちの悲鳴だった。
悔恨、呪詛、怨嗟、絶叫、断末魔――。
死に瀕した城下町の住人達が助けを請う声。
それが一つの塊となって、竜弥の耳に届いていた。
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