クリエイタースキルを使って、異世界最強の文字召喚術師になります。

月海水

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第9話 新しい同居人

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 いいかい、コツを教えよう。

 両手は三角を作るようにぴたりと指を伸ばして組み合わせる。
 膝はきちんと折り畳み、正座の姿勢で律儀さをアピールするんだ。

 そして、頭を下げる。

 普通の下げ方じゃない。

 地面にぐりぐりと! 額が地面にぐりぐりとめり込むほど擦りつけ、こう言うんだ。

「すいませんでしたーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 これが俗にいう日本人の謝罪の最高峰、土下座である。

 暗黒城の五階、豪奢な王座が置かれた広間で、俺は完璧な土下座を披露していた。

『地獄骸』やその他配下のアンデッドが王座の前で綺麗に土下座した俺を見て、非常に微妙そうな顔で見下ろしてくる。

 だが、奴らのことに今は構っていられない。

 俺が土下座をしている相手。
 それはもちろん、レーナの師匠と配下の牛の方々である。

 五分ほど前、俺の眼前で信じられないことが起こった。
 
 例の天使翼の薙ぎ払い攻撃の件である。

 天に背いた存在を焼き尽くすという天空の槍の一撃は、見事にレーナの師匠たちを駆逐した。

 全員が瀕死、辛うじて息があるのが不思議なくらいだったのだが、実はあの暴走天使翼の主目的が守護にあるという点が幸いした。

 天使翼は超高速の治癒魔法と蘇生魔法の使用も可能だったのだ。

 悲惨な現場に駆けつけた俺とレーナは、お互いにがくがくと顔を見合わせながら、天使翼に命令を出すことによって、なんとか彼女たちの負傷を回復させることができたのだった。

「……なぜ、あなたが謝罪するのです?」

 俺の全力謝罪に対して、長い黒髪をかき分けたレーナの師匠と牛たちは不思議そうな顔をする。

 なぜ、俺の凡ミスで殺されかけたというのに、こんな反応なのか。

 その答えは実に簡単である。

 ……実は天使翼の攻撃は一瞬だったので、彼女たちは自分たちの身体の状況を理解することができず、その間に高速治癒魔法で治されたため、何が起こったのか全くわかっていないのだ。

 レーナは冷汗を流しながら、そっぽを向いて無視を決め込んでいる。
 
 事実が判明すれば、一緒に怒られることは明白だからだ。

 とりあえず、謝罪は完了した。

 俺は土下座の体勢から顔を上げる。

「まあこれは、俺のせめてもの償いの気持ちということで……」

 本当のことを話したら、すぐにでも敵対されかねない。この事実は墓場まで持っていこう。

「よくわからないですが……まあ、いいです。先制攻撃を仕掛けてくることもなく、こうして対話に応じてくれているということは、あなたたちに敵対の意思はないということですよね?」

 その言葉を聞いて、俺とレーナ、それに現場で起こったことを見ていた120体のアンデッドが全員きまずそうにさっと顔を背けた。

 すいません、思いっきり先制攻撃しました。
 
 あなたたちを壊滅まで追い込みました。

「む? なぜ、顔を背けるのです? もしや、何か企んでいるんじゃないでしょうね!」

 レーナの師匠はバッと右腕を前に突き出す。

 すると、後ろにいた凶暴そうな牛たちが一斉に臨戦態勢を取る。

「あああっ! 違います! そういうんじゃないです!」

 俺は慌てて、彼女を制止した。

 彼女側もあくまで牽制のつもりだったようで、素直に構えを解いてくれる。

「ええと、とりあえず、お名前教えてもらってもいいですか? レーナのお師匠、って呼ぶのは変な感じなので。俺はシュウトっていいます。一応、この暗黒城の主……ってことになるのかな?」

「私はアルギアの召喚宮殿、第三位文字召喚術師。アリカ・リンリーです」

 アリカは一応、得体の知れない奴相手にも礼儀を尽くすタイプのようで、律儀に軽く頭を下げた。さらさらの黒髪が揺れて、思わず目を奪われる。

「あっ、またお師匠様のことを嫌らしい目で見てる!」

 さすがこういうとこだけ鋭いレーナ。

 凝視したのは一瞬だけだというのに、俺の視線に気づいてうるさく注意してくる。

「なっ! シュウトさん、今、私のことを嫌らしい目で見たんですかっ!?」

 レーナが余計なことを言うから、アリカはびくりと身体を震わせて、自分の身体を両腕で抱くようにした。

 胸元の辺りに手を置くと、胸がないことが強調されてなんとも……。

「お師匠さま! シュウトさまの嫌らしさが増してます!」

「嫌らしさ増してるんですかっ!?」

 ……この師匠にして、この弟子ありか。

 見た目はクールなのに、どうやら内面はそうでもないようだ。

 というか、なんともうるさいコンビだった。

 てか、どう考えても、仲良いでしょ、きみたち……。

「本題に戻ってもいいですか? アリカさん、初めに言っておきますが、俺はレーナを騙したりはしていないし、そもそも傀儡にしたつもりもありません。おバカなレーナがおバカなことを言って、自称俺の弟子になっただけです」

「自称ってなんですかー! わたしはもう、正真正銘シュウトさまの弟子ですよー! 立派な傀儡です! えっへん!」

 なぜか誇らしそうに場をこじらせようとするレーナ。俺はおバカな娘の両肩をがしっと掴むと、

「頼むからお前は黙ってろ……!」

 真面目な顔で訴える。
 それを見たアリカは口に手を当て、

「そんな主従プレイまで行う仲になっているなんて……」

 と真っ青な顔で言った。

「頼むから脱線しないでくれ……」

 俺は暴走する二人をなんとか押さえ込んで、話の続きを再開する。

「で、レーナが言うには、アリカさんはレーナのことを嫌いなんだそうですが、それは事実ですか?」

「へ? そんなわけないですよ! レーナはとても可愛い可愛い私の弟子です! 本当に可愛い……」

 とろけるような、少し危ない笑顔でそう言ったアリカの表情に嘘はなさそうだ。
 
 なんだか愛が溢れすぎている気がしないでもないが、レーナの話とはさっそく食い違っている。

「だってさ、レーナ」

「え~~!? 嘘ですよ! だって、お師匠さまはいくらわたしが頼んでも、文字召喚の技術を教えてくれないんですから!」

 頬をぷくぅっと膨らませて、レーナは抗議をした。

 すると、アリカも反論する。

「そ、それはレーナがいつも危なっかしいからですよ。可愛いレーナにそんな危険なことはさせられません!」

 なんとなく話は見えてきた。両者の言い分を聞けばすぐにわかることだ。

「つまり、レーナは召喚技術を教えてくれないから嫌われてると思って、アリカさんは可愛いレーナに危険なことをさせたくないから、召喚技術を教えたくないと。そういうことですか?」

「はい……そうなりますね」

 アリカは頷く。どうやら話の解決は簡単そうだ。

「ええっ!? つまり、お師匠さまはわたしのこと、おっちょこちょいだと思ってたんですか!?」

 アリカの発言にショックを受けたようで、レーナはガーンと目を丸くしていた。

「おっちょこちょいというか……端的に言って、愛らしいバカだと思っていますね」

 そこに辛辣な追撃。

 へこみ切ったレーナは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
 
 自分の本物の師匠からもバカって言われるなんて……どれだけバカなんだよ、レーナ。

「ということで、誤解も解けたことだし、そろそろ帰ったらどうだ。レーナ」

「い、いやです! わたし、結構この場所気に入りましたし、お師匠さまと二人の家に戻るのは嫌ですーーー!」

 あーあー、そういうこと言わない。
 
 愛弟子に全力で拒否され、今度はアリカが涙目になっている。

「と言われても……」

「シュントさま、わたしをこの城に置いてください! お願いします~~!」

 必死に俺の身体に縋ってくるレーナを無下にするのもなんだか忍びない。
 
 どうしたもんかと考えていると、アリカが何かを思いついたように笑顔になった。

「そうだ、妙案を思いつきました!」

「ほう、なんでしょう?」

 嫌な予感しかしないが、一応聞いてみることにする。
 すると。

「私もシュウトさんの弟子になれば解決ですよね!」

「は?」

 何言ってんだ、この人……。引くわ……。

「レーナは私の弟子。私はシュウトさんの弟子。ということは、レーナもシュウトさんの弟子。完璧ですね!」

 意味わからない超理論を繰り出したアリカさんは一人で納得している。
 俺は彼女の意見を正そうとするが、

「それならしょうがないですね。それでいいです」

 その前に、レーナがなぜか首を縦に振っていた。

「え、ちょっと待って」

「やったー! これでやっと、正式にシュウトさまの弟子ですー!」

「私の可愛いレーナは守れました! 私も満足です!」

「…………」

 目の前のバカ文字召喚術師とアホ文字召喚術師を前にして、俺は言葉を失う。
 
 どうすればいいかわからなすぎて、俺はぐるりと首を真横に回して、そこにずっと待機していた『地獄骸』に問う。

「なあ、これどうすればいい?」

「我にはどう進言して良いかも解りませぬな」

「だよね」

 どうやら俺の日常にまた一人、変な人が追加されたようだった。
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