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第27話 強行突破
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迷惑な光を撒き散らしながら瞑想状態に入っていたアリカが、唐突にぱちりと目を開いた。
「見えましたっ! って、なんですかこの状況?」
背後から迫っているのは、多数の巨岩。
俺たちの乗った荷車はそれをジグザグに避けながら、倒れる寸前のバランスをなんとか維持して峡谷を走り抜けていた。
「お前がキラキラに輝くから、敵の攻撃が激化してるんだよ!」
「あー……」
「まあ、それはいい。それで、どこに村があるかわかったのか?」
「はい。どうやら峡谷はこの先、直進と緩やかなカーブの道に分かれるみたいです。そして、直進するとその先は行き止まり……に見せかけて、その突き当たり部分が魔法による開閉式の石壁となっています」
「よし、でかした! 敵の攻撃に耐えた甲斐があったってもんだ! 聞こえてたな、『魔地馬』!」
俺の呼びかけに、『魔地馬』はいななきで答える。
敵の、岩を投げつけてくる攻撃は正直パターンさえ覚えてしまえば避けるのは難しくない。
このまま、攻撃をかいくぐり続ければ、村まで辿り着けるだろう……。
と、思ったのが良くなかった。
こういうのってフラグになるからね。
不意に、それまで連続で続いていた投岩攻撃が止まった。
「……あれ、もしかして、逃げ切ったのか?」
「やった~! わたしたちの勝ちですよ、シュウトさま!」
横でレーナが小躍りしているが、果たして本当にそうだろうか、と俺が言い知れぬ不安を感じていると。
突如、頭上から風を切る轟音が聞こえてきた。今までとは桁違いの音量。
全身に一瞬で鳥肌がたった。
「『魔地馬』ッ! 全力で右に旋回だッ!」
俺の必死な叫びを聞いて、『魔地馬』は強引にコースを右へと逸らした。
馬車が横転寸前まで傾き、なんとか進行方向を変えた瞬間。
さっきまで俺たちがいたコース上に、天空から巨大な腕が振り下ろされた。
鼓膜が裂けそうになるほどの強烈な衝撃音がして、聴覚が一時的に麻痺する。
耳鳴りがする中、俺が見たものは、粉砕された荒地の破片が舞う中に存在する、大きな爪の生えた手。
それは人間のものではない。爬虫類のように鱗に覆われており、その腕の幅は馬車の三倍はある。
例えるならば、それはファンタジーの創作物で目にする竜の前脚のようなもの。
いや、本当に竜かもしれない。
脚の形状から四足で歩行していることまではわかるが、まだ本体は闇の中だ。
馬車の車輪が悲鳴を上げる。先ほどから想定していない衝撃が多数加わっていて、限界が近いのだろう。
もう少しだけもってくれ、と俺は祈るように念じた。
レーナとアリカはお互いを抱き合って、ガタガタと震えている。
『地獄骸』は反撃できない今の状況に苛立っているようだ。
馬車が分かれ道に差しかかる。高速で直進ルートに侵入した。
一気に道の横幅が狭くなったが、それでもまだ十分広い。化け物の足音が峡谷の底に響き、俺の腹の奥を揺らす。
「くそっ! 突き当たりはまだか!?」
「召喚主、見えましたぞ! あれが村の入り口です」
闇の中、正面に目を凝らした『地獄骸』がそう言って指をさす。
俺もじっと見つめると、正面にうっすらと石の壁が見えた。このままの速度でいけば、一分もかからないうちに到着できる。
「よし、これでなんとか――って、あの石壁どうやって開けるんだ!?」
「普段なら、魔法を用いた符号などを使用して、村の中と連絡を取らなければならないでしょうな」
「そんな時間はないぞ!?」
「もちろん。ですが、召喚主。こういう時には簡単な方法があります。我ら、アンデッドが最も得意とする考え方ですよ」
「……それって、乱暴なやつ?」
なんとなく察して訊ねてみると、『地獄骸』は満足げに首肯してみせた。
「さすがは召喚主。我の考えに気付いてくれるようになりましたな」
「……今回は仕方がない、か。緊急事態だしな。じゃあ――行くぞッ!」
俺は右手を目の前にかざす。
すると、魔法の光と共に魔法具一式が顕現した。
俺はすぐさま万年筆を握り込むと、空中に浮かんだ羊皮紙に文字を書き込んでいく。
それは、一瞬の創作。
今回、必要な能力はただ一つ。
圧倒的な、火力。
それこそがこの瞬間に求められる最大の条件。
「顕現せよッ! 『鉄壁粉砕の邪神砲』ッ!」
『鉄壁粉砕の邪神砲』S級
かつて、邪神が人間の国を攻めた際に用いた、命を持つ攻城兵器。
砲台の形をしているが、手足が生えており、自分の考えで動き回る。
自らを破壊しようと近づいてきた敵は、その剛腕で薙ぎ払い、敵の城壁は神さえ貫く砲弾で粉砕する。
『鉄壁粉砕の邪神砲』は馬車の屋根上に顕現した。
ちょうど馬車と同じくらいのサイズ。
『邪神砲』はその四肢でがっしりと屋根にしがみつく。
「よっしゃーーーッ! ぶっ放すぜ、兄貴!」
たぶん、兄貴とは俺のことだろう。なかなかフランクなモンスターである。
S級ともなると、召喚主にただ従う者ばかりではないようだ。
そう考えると、『地獄骸』は本当に忠誠を誓ってくれていてありがたい。
だが、この場では『邪神砲』のノリは最適だった。
この状況で長々と忠誠を誓われてもしょうがないのだ。
だから、俺は窓から見上げて、叫ぶように命令する。
「やっちまえ! 『邪神砲』!」
「イエッサーーーッ!」
『邪神砲』は砲撃準備に入り、その鉄の身体が熱を帯びていくのが、見ているだけでわかった。
その間も、馬車は突き当たりの石壁にどんどん接近していく。
背後からは化け物が迫る足音と衝撃。
正直、もう意味がわからないほどめちゃくちゃな状況だ。
石壁が迫る。
準備はまだ終わらないのかと焦れ始めた時、『邪神砲』がノリノリで叫んだ。
「準備完了! 行けるぜ、兄貴!」
「よしッ! ぶっ放せ、『邪神砲』ッ!! 強行突破だーーーッ!!!」
俺の合図と共に『邪神砲』の砲口から、魔力を帯びた砲弾が強烈な衝撃波をともなって発射された。
「きゃあああああああ!!」
あまりの爆音にレーナたちは耳を塞ぐ。
砲弾は目で追えないほどのスピードで石壁へと直進し。
村を隠していた石壁は、一瞬のうちに粉砕された。
空いたのは、馬車が通れるくらいの穴。奥には空洞が続いている。
俺たちの乗った馬車はその穴の中に猛スピードで滑り込んだ。脇目も振らずに走り続ける。
すると、さっきまでしていた化け物の足音がしなくなった。
「……さすがに、ここまでは入って来られなかったか」
安全圏まで逃げた後、馬車を止めて、俺は振り返る。すると、穴の向こう側には、追いかけるのを諦めた何者かの気配があった。
『炎精霊』を向かわせて、正体を確認することも考えた。
だが、これ以上刺激して、石壁を破壊されでもしたら困る。
だから、俺たちはそのまま、化け物を放置して先に進むことにした。
この空洞の向こうに、村があるはずだ。
まずは、そこで態勢を整えよう。
「見えましたっ! って、なんですかこの状況?」
背後から迫っているのは、多数の巨岩。
俺たちの乗った荷車はそれをジグザグに避けながら、倒れる寸前のバランスをなんとか維持して峡谷を走り抜けていた。
「お前がキラキラに輝くから、敵の攻撃が激化してるんだよ!」
「あー……」
「まあ、それはいい。それで、どこに村があるかわかったのか?」
「はい。どうやら峡谷はこの先、直進と緩やかなカーブの道に分かれるみたいです。そして、直進するとその先は行き止まり……に見せかけて、その突き当たり部分が魔法による開閉式の石壁となっています」
「よし、でかした! 敵の攻撃に耐えた甲斐があったってもんだ! 聞こえてたな、『魔地馬』!」
俺の呼びかけに、『魔地馬』はいななきで答える。
敵の、岩を投げつけてくる攻撃は正直パターンさえ覚えてしまえば避けるのは難しくない。
このまま、攻撃をかいくぐり続ければ、村まで辿り着けるだろう……。
と、思ったのが良くなかった。
こういうのってフラグになるからね。
不意に、それまで連続で続いていた投岩攻撃が止まった。
「……あれ、もしかして、逃げ切ったのか?」
「やった~! わたしたちの勝ちですよ、シュウトさま!」
横でレーナが小躍りしているが、果たして本当にそうだろうか、と俺が言い知れぬ不安を感じていると。
突如、頭上から風を切る轟音が聞こえてきた。今までとは桁違いの音量。
全身に一瞬で鳥肌がたった。
「『魔地馬』ッ! 全力で右に旋回だッ!」
俺の必死な叫びを聞いて、『魔地馬』は強引にコースを右へと逸らした。
馬車が横転寸前まで傾き、なんとか進行方向を変えた瞬間。
さっきまで俺たちがいたコース上に、天空から巨大な腕が振り下ろされた。
鼓膜が裂けそうになるほどの強烈な衝撃音がして、聴覚が一時的に麻痺する。
耳鳴りがする中、俺が見たものは、粉砕された荒地の破片が舞う中に存在する、大きな爪の生えた手。
それは人間のものではない。爬虫類のように鱗に覆われており、その腕の幅は馬車の三倍はある。
例えるならば、それはファンタジーの創作物で目にする竜の前脚のようなもの。
いや、本当に竜かもしれない。
脚の形状から四足で歩行していることまではわかるが、まだ本体は闇の中だ。
馬車の車輪が悲鳴を上げる。先ほどから想定していない衝撃が多数加わっていて、限界が近いのだろう。
もう少しだけもってくれ、と俺は祈るように念じた。
レーナとアリカはお互いを抱き合って、ガタガタと震えている。
『地獄骸』は反撃できない今の状況に苛立っているようだ。
馬車が分かれ道に差しかかる。高速で直進ルートに侵入した。
一気に道の横幅が狭くなったが、それでもまだ十分広い。化け物の足音が峡谷の底に響き、俺の腹の奥を揺らす。
「くそっ! 突き当たりはまだか!?」
「召喚主、見えましたぞ! あれが村の入り口です」
闇の中、正面に目を凝らした『地獄骸』がそう言って指をさす。
俺もじっと見つめると、正面にうっすらと石の壁が見えた。このままの速度でいけば、一分もかからないうちに到着できる。
「よし、これでなんとか――って、あの石壁どうやって開けるんだ!?」
「普段なら、魔法を用いた符号などを使用して、村の中と連絡を取らなければならないでしょうな」
「そんな時間はないぞ!?」
「もちろん。ですが、召喚主。こういう時には簡単な方法があります。我ら、アンデッドが最も得意とする考え方ですよ」
「……それって、乱暴なやつ?」
なんとなく察して訊ねてみると、『地獄骸』は満足げに首肯してみせた。
「さすがは召喚主。我の考えに気付いてくれるようになりましたな」
「……今回は仕方がない、か。緊急事態だしな。じゃあ――行くぞッ!」
俺は右手を目の前にかざす。
すると、魔法の光と共に魔法具一式が顕現した。
俺はすぐさま万年筆を握り込むと、空中に浮かんだ羊皮紙に文字を書き込んでいく。
それは、一瞬の創作。
今回、必要な能力はただ一つ。
圧倒的な、火力。
それこそがこの瞬間に求められる最大の条件。
「顕現せよッ! 『鉄壁粉砕の邪神砲』ッ!」
『鉄壁粉砕の邪神砲』S級
かつて、邪神が人間の国を攻めた際に用いた、命を持つ攻城兵器。
砲台の形をしているが、手足が生えており、自分の考えで動き回る。
自らを破壊しようと近づいてきた敵は、その剛腕で薙ぎ払い、敵の城壁は神さえ貫く砲弾で粉砕する。
『鉄壁粉砕の邪神砲』は馬車の屋根上に顕現した。
ちょうど馬車と同じくらいのサイズ。
『邪神砲』はその四肢でがっしりと屋根にしがみつく。
「よっしゃーーーッ! ぶっ放すぜ、兄貴!」
たぶん、兄貴とは俺のことだろう。なかなかフランクなモンスターである。
S級ともなると、召喚主にただ従う者ばかりではないようだ。
そう考えると、『地獄骸』は本当に忠誠を誓ってくれていてありがたい。
だが、この場では『邪神砲』のノリは最適だった。
この状況で長々と忠誠を誓われてもしょうがないのだ。
だから、俺は窓から見上げて、叫ぶように命令する。
「やっちまえ! 『邪神砲』!」
「イエッサーーーッ!」
『邪神砲』は砲撃準備に入り、その鉄の身体が熱を帯びていくのが、見ているだけでわかった。
その間も、馬車は突き当たりの石壁にどんどん接近していく。
背後からは化け物が迫る足音と衝撃。
正直、もう意味がわからないほどめちゃくちゃな状況だ。
石壁が迫る。
準備はまだ終わらないのかと焦れ始めた時、『邪神砲』がノリノリで叫んだ。
「準備完了! 行けるぜ、兄貴!」
「よしッ! ぶっ放せ、『邪神砲』ッ!! 強行突破だーーーッ!!!」
俺の合図と共に『邪神砲』の砲口から、魔力を帯びた砲弾が強烈な衝撃波をともなって発射された。
「きゃあああああああ!!」
あまりの爆音にレーナたちは耳を塞ぐ。
砲弾は目で追えないほどのスピードで石壁へと直進し。
村を隠していた石壁は、一瞬のうちに粉砕された。
空いたのは、馬車が通れるくらいの穴。奥には空洞が続いている。
俺たちの乗った馬車はその穴の中に猛スピードで滑り込んだ。脇目も振らずに走り続ける。
すると、さっきまでしていた化け物の足音がしなくなった。
「……さすがに、ここまでは入って来られなかったか」
安全圏まで逃げた後、馬車を止めて、俺は振り返る。すると、穴の向こう側には、追いかけるのを諦めた何者かの気配があった。
『炎精霊』を向かわせて、正体を確認することも考えた。
だが、これ以上刺激して、石壁を破壊されでもしたら困る。
だから、俺たちはそのまま、化け物を放置して先に進むことにした。
この空洞の向こうに、村があるはずだ。
まずは、そこで態勢を整えよう。
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