28 / 86
第28話 峡谷の隠れ村
しおりを挟む
『地獄骸』の言っていた通り、魔法開閉式の石壁の先にあった空洞を進んだ俺たちは、数分後、村を見つけた。
うん、だけど、もうわかってたよね。
石壁を粉砕した際の爆音を聞きつけてやってきた村人たちは、禍々しい邪神の砲台を屋根につけ、精霊を使った火炎の灯火を周囲に展開させ、重力操作を行う馬が曳いてきた馬車を見て、こう言った。
「あ、あれは……魔王の乗り物だ……っ!」
半ば恒例行事になってきているのが不服。
だが、今回は実際に石壁粉砕してるし、何も言い訳できない。
ともかく誤解を解こうと思い、『地獄骸』を連れ立って、馬車を降りると。
「うわあー! アンデッドだ! アンデッドを引き連れた魔王が降りてきたぞ!」
その場の全員が恐怖に染まった顔で、俺を遠巻きに見てくる。
崖をくり抜いて作られた村だという事は知っていたが、天井から光が入らないわりには、村の中は明るかった。
どうやら、村中に火を使った燭台が設置されているらしい。村人たちの動作や表情もしっかりとわかるし、これなら外よりも全然快適だ。
「あのー、すいません。ギルダム中央村からやってきたシュウトと申します。向こうの村長から、一応、連絡が届いていると思うんですけど……」
俺、もう学習してます。
どうせ、また魔王扱いされるってわかっていたし、同じやりとりをするのもだるいので、今回は通信魔法具を使って、ギルダム村の村長からこちらの村長に一報入れてもらっていたのだ。
「……あっ、そういえば、『見た目が魔王っぽくて、兵力も魔王に近いから、実質、魔王みたいな奴がくる』ってメッセージが届いていました。それがあなたってことですね。驚いた、思った以上に魔王でしたので」
実質、魔王にされてるじゃん、俺。
今度会ったら、あの村長とは一度、きちんと話さなくては……!
ともかく、前のような押し問答からの実力行使、みたいな流れは避けられたようだ。村人が村の中枢に案内してくれるという。
俺は『地獄骸』やレーナたちと共に、村人の後についていく。
「そういえば、この村の名前ってなんですか? 会話するうえで、中央村と混ざってしまいそうなんですが」
俺が案内役の村人にそう訊ねると、
「うーん、ここは名前とかないんですよ。元々、外部から隠れるように作られた村でしたし。もし名前が必要であれば、峡谷村とでも呼んで頂ければいいかと」
確かにこの村は普通の村ではないようだ。
外部から身を隠すには良い場所だが、そもそも身を隠す必要さえなければ、この立地に村を作る意味はほとんどない。
ということは、ここの村人たちはわけあり、というわけだ。
「それじゃ、長を呼んできますので、少しここでお待ちください」
俺たちを広場まで案内すると、村人はそう言ってどこかに行ってしまった。
「それにしても、すごいですね。私も噂には聞いていたんですが、本当にこんな村があるなんて」
アリカは興味深そうに周囲のものを眺める。俺たちが通された広場は無数の篝火に囲まれていて、明るいには明るいのだが、なんだか儀式を行う前のような怪しい雰囲気がただよっていた。
近くには階段があり、そこを上っていくと、本物の祭壇のようなものもある。
しばらく、うろうろと辺りを歩き回って見物していたアリカだが、彼女はあるものを見つけて立ち止まった。そして、一人納得したように大きく頷く。
「なるほど……」と珍しく真面目な顔をしているアリカに俺は尋ねる。
「なんか、見つかったのか?」
「ええ。見てください、シュウトさま」
そうして彼女が指差したのは、近くの壁面。
少し近づいて見てみると、透明に近い石のようなものがせり出していた。
「これは?」
「これは魔力の多い土地で生成される、極めて硬度の高い鉱石です。実は、王国はギルダム自治区の資金が妙に潤沢なことに長年、疑問を抱いていました。けれど、これを見ると、その真相は明らかですね。この隠れ村から純度の高い鉱石が売りに出されていたんでしょう」
「意外とギルダム自治区もやられっ放しじゃなかったんだな。こうやって、こっそりと裏で敵に対抗するための力をつけていたってことか」
「そうなりますね。元々、王国側の人間である私からすると、複雑な事実ですが……」
アリカは表情を曇らせて、口を閉ざした。
俺はそんな彼女に、前から思っていた問いを投げかける。
「なあ、お前たちは王国に戻ってもいいんだぞ? 別に王国の人間になったからって、暗黒城に遊びに来ちゃいけない理由なんてない。王国に戻ったからって、今までの関係が壊れるわけじゃないんだから」
それはずっと、俺が思っていたことだった。
レーナやアリカが暗黒城に転がり込んできた時期は、俺もこっちの世界にきたばかりで混乱していたが、落ち着いて考えると、レーナやアリカの行動は明らかにおかしい。
王国には家族や友人がいるはずだ。
なのに、誰にも告げずに、一度王国に帰って準備することもせずに、そのまま暗黒城に居座るなんて普通じゃない。
まるで、逃げる場所を探していたような……。
俺がそんなことを考えていた時だった。
「――おぬしたちか! 魔法石壁をダメダメにしてくれた迷惑な奴らは!」
その声は、頭上から。
いや、正確には近くの階段の上。
祀られた祭壇の前に、声の主と思われる小さな少女が腕を組んで立っていた。
頬をぷくっと膨らませ、なんだかお怒りのようだ。
「えっと……誰?」
状況が飲み込めず、俺が呟くと、少女は言い放つ。
「わらわはこの村の長、レアナ・オルビークじゃ!」
うん、だけど、もうわかってたよね。
石壁を粉砕した際の爆音を聞きつけてやってきた村人たちは、禍々しい邪神の砲台を屋根につけ、精霊を使った火炎の灯火を周囲に展開させ、重力操作を行う馬が曳いてきた馬車を見て、こう言った。
「あ、あれは……魔王の乗り物だ……っ!」
半ば恒例行事になってきているのが不服。
だが、今回は実際に石壁粉砕してるし、何も言い訳できない。
ともかく誤解を解こうと思い、『地獄骸』を連れ立って、馬車を降りると。
「うわあー! アンデッドだ! アンデッドを引き連れた魔王が降りてきたぞ!」
その場の全員が恐怖に染まった顔で、俺を遠巻きに見てくる。
崖をくり抜いて作られた村だという事は知っていたが、天井から光が入らないわりには、村の中は明るかった。
どうやら、村中に火を使った燭台が設置されているらしい。村人たちの動作や表情もしっかりとわかるし、これなら外よりも全然快適だ。
「あのー、すいません。ギルダム中央村からやってきたシュウトと申します。向こうの村長から、一応、連絡が届いていると思うんですけど……」
俺、もう学習してます。
どうせ、また魔王扱いされるってわかっていたし、同じやりとりをするのもだるいので、今回は通信魔法具を使って、ギルダム村の村長からこちらの村長に一報入れてもらっていたのだ。
「……あっ、そういえば、『見た目が魔王っぽくて、兵力も魔王に近いから、実質、魔王みたいな奴がくる』ってメッセージが届いていました。それがあなたってことですね。驚いた、思った以上に魔王でしたので」
実質、魔王にされてるじゃん、俺。
今度会ったら、あの村長とは一度、きちんと話さなくては……!
ともかく、前のような押し問答からの実力行使、みたいな流れは避けられたようだ。村人が村の中枢に案内してくれるという。
俺は『地獄骸』やレーナたちと共に、村人の後についていく。
「そういえば、この村の名前ってなんですか? 会話するうえで、中央村と混ざってしまいそうなんですが」
俺が案内役の村人にそう訊ねると、
「うーん、ここは名前とかないんですよ。元々、外部から隠れるように作られた村でしたし。もし名前が必要であれば、峡谷村とでも呼んで頂ければいいかと」
確かにこの村は普通の村ではないようだ。
外部から身を隠すには良い場所だが、そもそも身を隠す必要さえなければ、この立地に村を作る意味はほとんどない。
ということは、ここの村人たちはわけあり、というわけだ。
「それじゃ、長を呼んできますので、少しここでお待ちください」
俺たちを広場まで案内すると、村人はそう言ってどこかに行ってしまった。
「それにしても、すごいですね。私も噂には聞いていたんですが、本当にこんな村があるなんて」
アリカは興味深そうに周囲のものを眺める。俺たちが通された広場は無数の篝火に囲まれていて、明るいには明るいのだが、なんだか儀式を行う前のような怪しい雰囲気がただよっていた。
近くには階段があり、そこを上っていくと、本物の祭壇のようなものもある。
しばらく、うろうろと辺りを歩き回って見物していたアリカだが、彼女はあるものを見つけて立ち止まった。そして、一人納得したように大きく頷く。
「なるほど……」と珍しく真面目な顔をしているアリカに俺は尋ねる。
「なんか、見つかったのか?」
「ええ。見てください、シュウトさま」
そうして彼女が指差したのは、近くの壁面。
少し近づいて見てみると、透明に近い石のようなものがせり出していた。
「これは?」
「これは魔力の多い土地で生成される、極めて硬度の高い鉱石です。実は、王国はギルダム自治区の資金が妙に潤沢なことに長年、疑問を抱いていました。けれど、これを見ると、その真相は明らかですね。この隠れ村から純度の高い鉱石が売りに出されていたんでしょう」
「意外とギルダム自治区もやられっ放しじゃなかったんだな。こうやって、こっそりと裏で敵に対抗するための力をつけていたってことか」
「そうなりますね。元々、王国側の人間である私からすると、複雑な事実ですが……」
アリカは表情を曇らせて、口を閉ざした。
俺はそんな彼女に、前から思っていた問いを投げかける。
「なあ、お前たちは王国に戻ってもいいんだぞ? 別に王国の人間になったからって、暗黒城に遊びに来ちゃいけない理由なんてない。王国に戻ったからって、今までの関係が壊れるわけじゃないんだから」
それはずっと、俺が思っていたことだった。
レーナやアリカが暗黒城に転がり込んできた時期は、俺もこっちの世界にきたばかりで混乱していたが、落ち着いて考えると、レーナやアリカの行動は明らかにおかしい。
王国には家族や友人がいるはずだ。
なのに、誰にも告げずに、一度王国に帰って準備することもせずに、そのまま暗黒城に居座るなんて普通じゃない。
まるで、逃げる場所を探していたような……。
俺がそんなことを考えていた時だった。
「――おぬしたちか! 魔法石壁をダメダメにしてくれた迷惑な奴らは!」
その声は、頭上から。
いや、正確には近くの階段の上。
祀られた祭壇の前に、声の主と思われる小さな少女が腕を組んで立っていた。
頬をぷくっと膨らませ、なんだかお怒りのようだ。
「えっと……誰?」
状況が飲み込めず、俺が呟くと、少女は言い放つ。
「わらわはこの村の長、レアナ・オルビークじゃ!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,590
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる