クリエイタースキルを使って、異世界最強の文字召喚術師になります。

月海水

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第40話 絶望だけが満ちる

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 遥か昔から、アルガリンガン帝国を支え続けた古の剣豪。

 二本の魔刀を携え、目の前に立ちはだかる敵を滅することだけを行動原理として、生き長らえてきた召喚モンスター。

 そんな彼が、ついに地へと伏した。

 破壊された銀色の鎧の破片が周囲に飛び散って、それは上空に位置する火炎球の光で美しく照らされる。

 空中に浮遊していた二本の魔刀は力を失い、二、三度『グラウンドイーター』の背中で弾んでから、ついには動かなくなった。

『剣豪―三刀―』はうつ伏せに倒れ、最期までその顔を見せることはない。

 そもそも、銀色の鎧に中身なんてものが存在するのかもわからなかった。

 銀色鎧の背中には、『地獄骸』の攻撃による大きな穴が空いていたが、その中に詰まったものを確認する前に、銀色鎧は白色の炎に包まれて、徐々に透明になっていく。

「消えていく……?」

「これが我ら召喚モンスターの最期です。後に屍が残ることはなし。この世界に存在していたという痕跡は何一つ残らず、元の無へと還る……」

 傍らに『地獄骸』が立ち、剣を交えた好敵手の最期を切ない表情で見つめていた。

『剣豪―三刀―』が倒れたのと同時、『グラウンドイーター』の背中に刻まれた魔法陣も消えていた。

 それにより『グラウンドイーター』は暴走を停止し、再び足を折って項垂れている。

 峡谷に静寂が戻り、俺たちは『剣豪―三刀―』が光の塵へと回帰する最後の瞬間を見届けようと沈黙していた。

 今度こそ、終わったのだ。
 双方が血を流す凄惨な戦闘は終了し、これでやっと平穏が訪れる。


 ――平穏が訪れる、はずだったのだ。


「暗黒城に戻ったら、食事に致しましょう。我らは平気ですが、召喚主たちはもうかなりの時間、物を食べていないはずです」

『地獄骸』がそう笑って、俺は「そうだな」と笑い返す。

 そうだ、俺はこの異世界で命の奪い合いがしたいんじゃない。
 こうやって、仲間たちと笑っていたいんだ。



 それは、『剣豪―三刀―』が消滅する寸前のことだった。
 何か周囲に気配のようなものを俺は感じ、ふと崖の上を見ようとして――。

 凄まじい勢いで投げつけられた大剣が、目の前の『剣豪―三刀―』の身体を突き刺した。

 衝撃で激しく揺れた『剣豪―三刀―』の身体は、そのまま光の粒となって、空気中に霧散する。

「…………は?」

 混乱して、状況が全く把握できない。

 大剣がさらに三本、猛スピードで投げつけられてきた。

 その目標は『剣豪―三刀―』ではない。

 その狙いは――八つの腕を持ち、アンデッドを束ねる上級モンスター。

「…………避けろ。避けろッ!!!!! 『地獄むく――」

 そうして、目の前で完成した光景は悪夢だった。

 三本の大剣はそれぞれ違う角度から、『地獄骸』の身体を貫通し、『グラウンドイーター』の背中へと突き刺さっていた。

『地獄骸』の骨は粉状に破砕され、ぼろぼろと身体が崩れ落ちていく。

 彼はそんな身体でも、俺を振り返って、

「逃げるのです……! 召喚主……ッ!!」

 俺のことを心配する。

 バカな奴だ。

 今は俺の心配より、自分の身体の心配をするべきなのに。

 なのに……『地獄骸』は笑うのだ。

 そんな優しい笑みはこの場所に相応しくないのに。

「召喚主……私は……あなたにお仕え出来て……よか……」

 無数の大剣が飛来した。それは俺の眼前で、『地獄骸』の身体を無惨なまでに破壊していく。

 頭蓋骨は二つに割れ、肋骨は散らばり、脚の骨は砕け散った。

『剣豪―三刀―』と同じく、全ての骨を白色の光が包む。

「やめろ……やめろぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!」

 俺は両目から涙をだらだらと流し、崖の上を見上げる。

 そこにいたのは、俺たちを見下ろすように立つ無数のフードを被った人影たちだった。

 その横にはモンスターの姿。人影一人につき、二体の召喚モンスターらしき存在を連れていた。

「なんてことだ……『地獄骸』……さまッ!! 今、お助けします……!」

 満身創痍の肉体で『地獄射手』が血だまりの中から立ち上がった。

 足はふらつき、目も虚ろ。しかし、それでも主のもとへと、ゆっくり近づいていく。

 無数の魔法弾が『地獄射手』を襲った。魔力を凝縮して作られた魔法弾は『地獄射手』に当たると炸裂し、彼を激しく後方に吹き飛ばす。

 彼が吹き飛んだ先に、『グラウンドイーター』の背中はなかった。そのまま、『地獄射手』は峡谷の底へと落下する。

 それを助けようと『魔地馬』が空へと駆け出そうとするが、魔法弾で狙い撃ちに合い、激しく血をまき散らしながら、その場に横転する。

『地獄射手』は底まで転落し、新しい血だまりを作った。

「せめて……最期は安らかに逝かせてあげてくれよぉ~~……お願いだぁ~~~……」

 視線を戻すと、バラバラに砕けた『地獄骸』の身体を守るように、『地獄暴食』がうずくまっていた。鼻をすすりながら、『地獄暴食』は嗚咽を上げる。

 だが、敵の容赦はない。降り注いだ槍の雨が厚い贅肉を貫通し、しばらくして『地獄暴食』は動かなくなった。

 なんだ、この光景は……。

 なんなんだ、この光景は……!

「俺が望んだのはこんな光景じゃないッ!! なんなんだよ、お前らッ!! なんでこんなことするんだッ!!」

 俺は崖の上に向かって叫ぶが、フードの人影は一人として口を開かない。
 すると、背後から何かが迫ってくる気配がした。

「この期に及んでまだ何か……!」

 俺が怒りの形相で振り返ると、そこにいたのはレーナとアリカだった。

 傍らには翼の生えた獣。どうやら召喚したモンスターに乗って、ここまで追いついてきたようだった。

 レーナは目の前の光景を目撃し、そして、フードの人影たちを見て、呟く。

「あれは……アルギア召喚宮殿の、文字召喚術師さまたち……?」

「…………え」

 アルギア召喚宮殿。レーナとアリカの生まれ育った場所。
 
 そこの文字召喚術師たちが、俺の仲間をこんな風にしたというのか……?

 彼女の言葉は、俺の頭を激しく混乱させた。
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