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第45話 アンデッド軍集結
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その村の雰囲気はかつてのものと違っていた。
村の中心の広場、そこには暗黒城と中央村に配置されていた120体を超えたアンデッドが集まっており、そしてひれ伏していた。
彼らの前に立つは、この場所に集まった召喚モンスターの王。
憤怒に身を任せ、全てを呪った俺のことを、アンデッドたちは畏怖と服従の念を持って見つめていた。
彼らはきっと知っていた。
己たちの王は対話を求め、平和主義を貫き、帝国から暴力を受けた時さえも、相手を殺そうとはしなかった。
魔王という地位に就くことを拒否し、みんなと楽しく笑いあっていた王。
そんな人間が、目の前の修羅になってしまったのは、あまりにも傷つきすぎたせいだと。
俺自身、自覚はある。
今の俺は正常じゃない。
でも、眼前であんな仕打ちを受けて、正気を保っていられる方が正常ではないはずだ。
「俺たちの大切な同胞『地獄の骸と腕』はギルダム大峡谷において、王国のアルギア召喚宮殿、そこの文字召喚術師たちに殺された」
俺の言葉に、全てのアンデッドが悲痛な表情を浮かべる。
『地獄骸』はこの場の全員に慕われていたアンデッドのリーダーだった。
彼のために戦うことを拒否する者はいない。
「この怒り、この憎しみ、この悲しみの行き場を欲する者たちよ。今は待て。怒りに支配され、周囲に当たり散らすことは許さない。全ての破壊欲は、全ての征服欲は、全ての復讐心は、アルギア召喚宮殿に着くまで取っておけ」
アンデッドたちの雄叫びが響く。その声は遥か彼方、ギルダム大峡谷まで届くかと思われた。
死した『地獄骸』に聞こえるように、俺も全力で叫ぶ。
待っていろ。必ず再召喚を遂げてみせる。
アンデッドたちが全員集結し、準備を始めたその日の夜。
出発は明日の朝で、宿屋に部屋を借りた俺がそろそろ休もうかと思っていると。
部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」と俺が言うと、鍵をかけていない扉はゆっくりと開いた。
異世界ものの物語ではこういう時、ヒロインがやってきそうなものだが……あいにく、扉を開いた先にいたのは、中央村の村長である。
俺の力ない苦笑いの理由がわからず、首を傾げた村長は「失礼」と穏やかな声で告げ、室内に入ってくる。
手頃な椅子を引き寄せて座ると、村長はベッドに座る俺の方へと向き直った。
「本当にいいのかね?」
「……何が、ですか?」
「アルギア召喚宮殿を攻めるということだよ」
「村長さんには、俺が悪に見えますかね……?」
「お前さんが仲間を助けたい気持ちは痛いほどにわかる。だが、もし本当にあの召喚モンスターたちの王になるつもりであれば、仲間一人の犠牲と召喚モンスター全員の危険、どちらを優先するかは明白じゃ」
村長は純粋に心配してくれているのだ。
彼の憂うような瞳を見れば、それはよくわかる。
村長はその名の通り、村の長である。
人々の上に立つものとして、何か思う所があるのだろう。
「確かに。俺にはきっと、王になる資格はないんです。俺は戦いに勝ちたいんじゃない。大事な仲間と一緒にいたいだけ。俺の気持ちはもしかしたら、王というよりも親のような気分なのかもしれませんね」
「親……?」
「彼らは元々、俺が作り出した存在です。しかも、あのアンデッドたちは俺が寝る間も惜しんで作った最愛の存在。だから、誰にも欠けてほしくはないんです。彼らの――創造者として」
「創造者、か。うむ、お前さんの言う事も少しは理解できる気がするよ」
村長は真剣な顔で俺を見つめた。
そして、彼は言う。
「無事に戻ってこい。お前さんのいう最強の独立自治区を完成させるためには、お前さんの力が必要なんだ。まさか、理想を打ち立てるだけ立てて、野垂れ死ぬようなことはないだろう?」
俺は苦笑して、それから首を大きく縦に振った。
「もちろんです。俺は帰ってきますよ、絶対に。欠けた仲間を取り戻して」
「なら、いいのじゃ」
村長は満足げに頷いて立ち上がると、「邪魔したな」と言葉を残して、部屋を後にした。
俺は一人考える。頭は未だ熱い。
胸の中には憎悪の炎がたぎっている。
だが、己を忘れてしまうことだけはダメだ。
俺はもうこの世界に、帰ってくるべき場所を作ることができたようだ。
なら、きちんと戻ってこなければ。
誰かを悲しませることは嫌だ。
それは召喚モンスターであっても、村人たちであっても、同じこと。
峡谷ではカッとなって、レーナたちを傷つけた。
本来はそんなこともあってはならない。
だが、頭では分かっていても、胸の憎悪が俺を俺じゃなくしてしまう。
外は暗く、室内の照明によって自分の顔が窓に映る。
それをぼうっと見ながら、そんなことを考えていると、部屋の扉が再びノックされた。
村長が忘れ物でもしたかと思って「どうぞ」と、さっきと同じように返事をする。
扉が開く様子が窓に映る。
そうして入ってきた人物を見て、俺は慌てて振り返った。
村長ではなかった。
扉を開けてもじもじと顔を覗かせたのは――ピンク色のパジャマを着て、寝る準備を終えたレーナだったのだ。
村の中心の広場、そこには暗黒城と中央村に配置されていた120体を超えたアンデッドが集まっており、そしてひれ伏していた。
彼らの前に立つは、この場所に集まった召喚モンスターの王。
憤怒に身を任せ、全てを呪った俺のことを、アンデッドたちは畏怖と服従の念を持って見つめていた。
彼らはきっと知っていた。
己たちの王は対話を求め、平和主義を貫き、帝国から暴力を受けた時さえも、相手を殺そうとはしなかった。
魔王という地位に就くことを拒否し、みんなと楽しく笑いあっていた王。
そんな人間が、目の前の修羅になってしまったのは、あまりにも傷つきすぎたせいだと。
俺自身、自覚はある。
今の俺は正常じゃない。
でも、眼前であんな仕打ちを受けて、正気を保っていられる方が正常ではないはずだ。
「俺たちの大切な同胞『地獄の骸と腕』はギルダム大峡谷において、王国のアルギア召喚宮殿、そこの文字召喚術師たちに殺された」
俺の言葉に、全てのアンデッドが悲痛な表情を浮かべる。
『地獄骸』はこの場の全員に慕われていたアンデッドのリーダーだった。
彼のために戦うことを拒否する者はいない。
「この怒り、この憎しみ、この悲しみの行き場を欲する者たちよ。今は待て。怒りに支配され、周囲に当たり散らすことは許さない。全ての破壊欲は、全ての征服欲は、全ての復讐心は、アルギア召喚宮殿に着くまで取っておけ」
アンデッドたちの雄叫びが響く。その声は遥か彼方、ギルダム大峡谷まで届くかと思われた。
死した『地獄骸』に聞こえるように、俺も全力で叫ぶ。
待っていろ。必ず再召喚を遂げてみせる。
アンデッドたちが全員集結し、準備を始めたその日の夜。
出発は明日の朝で、宿屋に部屋を借りた俺がそろそろ休もうかと思っていると。
部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」と俺が言うと、鍵をかけていない扉はゆっくりと開いた。
異世界ものの物語ではこういう時、ヒロインがやってきそうなものだが……あいにく、扉を開いた先にいたのは、中央村の村長である。
俺の力ない苦笑いの理由がわからず、首を傾げた村長は「失礼」と穏やかな声で告げ、室内に入ってくる。
手頃な椅子を引き寄せて座ると、村長はベッドに座る俺の方へと向き直った。
「本当にいいのかね?」
「……何が、ですか?」
「アルギア召喚宮殿を攻めるということだよ」
「村長さんには、俺が悪に見えますかね……?」
「お前さんが仲間を助けたい気持ちは痛いほどにわかる。だが、もし本当にあの召喚モンスターたちの王になるつもりであれば、仲間一人の犠牲と召喚モンスター全員の危険、どちらを優先するかは明白じゃ」
村長は純粋に心配してくれているのだ。
彼の憂うような瞳を見れば、それはよくわかる。
村長はその名の通り、村の長である。
人々の上に立つものとして、何か思う所があるのだろう。
「確かに。俺にはきっと、王になる資格はないんです。俺は戦いに勝ちたいんじゃない。大事な仲間と一緒にいたいだけ。俺の気持ちはもしかしたら、王というよりも親のような気分なのかもしれませんね」
「親……?」
「彼らは元々、俺が作り出した存在です。しかも、あのアンデッドたちは俺が寝る間も惜しんで作った最愛の存在。だから、誰にも欠けてほしくはないんです。彼らの――創造者として」
「創造者、か。うむ、お前さんの言う事も少しは理解できる気がするよ」
村長は真剣な顔で俺を見つめた。
そして、彼は言う。
「無事に戻ってこい。お前さんのいう最強の独立自治区を完成させるためには、お前さんの力が必要なんだ。まさか、理想を打ち立てるだけ立てて、野垂れ死ぬようなことはないだろう?」
俺は苦笑して、それから首を大きく縦に振った。
「もちろんです。俺は帰ってきますよ、絶対に。欠けた仲間を取り戻して」
「なら、いいのじゃ」
村長は満足げに頷いて立ち上がると、「邪魔したな」と言葉を残して、部屋を後にした。
俺は一人考える。頭は未だ熱い。
胸の中には憎悪の炎がたぎっている。
だが、己を忘れてしまうことだけはダメだ。
俺はもうこの世界に、帰ってくるべき場所を作ることができたようだ。
なら、きちんと戻ってこなければ。
誰かを悲しませることは嫌だ。
それは召喚モンスターであっても、村人たちであっても、同じこと。
峡谷ではカッとなって、レーナたちを傷つけた。
本来はそんなこともあってはならない。
だが、頭では分かっていても、胸の憎悪が俺を俺じゃなくしてしまう。
外は暗く、室内の照明によって自分の顔が窓に映る。
それをぼうっと見ながら、そんなことを考えていると、部屋の扉が再びノックされた。
村長が忘れ物でもしたかと思って「どうぞ」と、さっきと同じように返事をする。
扉が開く様子が窓に映る。
そうして入ってきた人物を見て、俺は慌てて振り返った。
村長ではなかった。
扉を開けてもじもじと顔を覗かせたのは――ピンク色のパジャマを着て、寝る準備を終えたレーナだったのだ。
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