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第44話 進軍開始
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「治療の時間は終わりだ、配下共」
峡谷村の一角、レーナたちが作った医療拠点を訪れた俺は、開口一番そう言った。
「ようやくだね、召喚主」
初めに返事をしたのは、近くの民家の壁によりかかった『地獄射手』だった。
彼は瞳に黒く淀んだ光を宿し、怪しい笑みを浮かべる。
その身体の傷は完全に治っており、暗い闘志を帯びていた。
「親分は絶対に生き返らせないとね~~……頑張るよ」
『地獄暴食』は峡谷村で集められた食糧を片っ端から胃に送り込みながら、親指を立ててみせた。
その表情は一見、陽気に見えるが、声色に柔らかさはない。
静かな殺意が言葉に押し込められていた。
『魔地馬』と『邪神砲』は元の姿を取り戻し、すでに村の入り口の方角を向いて、俺たちを待っている。
『炎精霊』たちは馬車の周囲を飛び回り、オルビークは何食わぬ顔で、一人だけすでに馬車に乗り込んでいた。
レーナたちも無言ではあるが、きちんと旅支度を整え、俺の後ろにつき従っている。
彼女たちの、俺への恐怖と『地獄骸』を失った悲しみの混じった顔を見ると、複雑な気持ちになる。
だから、俺は彼女たちの方をなるべく見ないようにしていた。
無慈悲な魔王に余計な感情はいらない。
ただ、目的だけを見据えて、それ以外の何物にも惑わされてはいけないのだ。
「準備はできた。俺たちはこれより暗黒城を経由して、ギルダム中央村へと引き返す。ギルダム中央村で一泊して態勢を整えたのち、アルギア召喚宮殿への転移ゲートをくぐる」
俺の説明に、その場の誰もが頷いた。
「よし、ではひとまず、暗黒城を目指そう」
魔法石壁を越えると、そこには久しぶりの昼の世界が広がっていた。
『魔地馬』の重力操作により、馬車とその後ろを走って追ってくる『地獄暴食』の体重は極限まで軽くなっている。
戦闘時のように本気を出せば空中を飛ぶこともできなくはないのだが、それでは『魔地馬』の体力がすぐに尽きてしまい、移動時にはあまり多用できなかった。
『グラウンドイーター』の巨体が遠くに見える。
あれ以来、『グラウンドイーター』の身体は強制休眠状態に入ったらしい。
膝を折った状態で沈黙した巨体の腹は確かに上下しているようだ。
しかし、目はつぶっており、俺たちが間近に接近しても、開く様子はない。
元々、『剣豪―三刀―』がいなければ、積極的に人を襲うことはない個体らしいし、放っておいても、あまり大きな問題はないだろう。
すぐに『グラウンドイーター』の巨体さえ、遥か後方に消えていく。
この峡谷を訪れた頃は、まだ何も知らない無垢な子供のようだった。
あんな残酷な光景を知ることもなく、異世界の楽しさだけを求めていた。
しかし、それはまやかしにすぎない。平和に生きていくためには、血を流さざるを得ないときもある。
それが今まさに、この時だ。
行きに下っていた斜面を今度は上っていく。
馬車の中は行きと違って、とても静かだった。
ギルダム大峡谷に別れを告げ、俺たちは走り続ける。
そうして俺たちは、本拠地である暗黒城まで戻ってきた。
「あ、召喚主様。お帰りですか? 見てくださいよ! 暗黒城にまた新しい機能が――」
他の仲間を馬車に残して一人、暗黒城の正門をくぐった俺を出迎えてくれたのは、『失敗した錬金術師』だった。
彼は目を輝かせ、何かを自慢しようとしてくるが、
「――ただちに、俺の配下全員を集めろ。これは命令だ」
彼の嬉々とした言葉を冷たく遮って、俺は要求を告げる。
『失敗した錬金術師』は俺の変貌ぶりに混乱し、それでも何かが起こったことを悟ったようで、すぐさま真顔になって恭しく敬礼する。
「この後、俺たちはギルダム中央村のアンデッドたちと合流する。準備ができ次第、追ってきてもらってもいいか?」
「畏まりました。この地に残っている者は雑兵ばかり。構わずお進みください。この城の勢力は私の名誉にかけて、確実に中央村まで進軍させましょう――それで、いったい何があったので?」
「――『地獄骸』が死んだ」
俺のその一言だけを口にした。
『失敗した錬金術師』は一瞬、言葉を咀嚼するように黙り、それから彼の両目が大きく見開かれる。
「弔い合戦、なのですか?」
「違う。俺たちはそんな無意味なことはしない。これから行うのは、一縷の希望に全てを懸ける行為だ」
その意味をどこまで把握したのか、俺にはわからない。
だが、『失敗した錬金術師』の瞳は怪しく光を見せた。
「なるほど、勝算はあると。さすがは我が召喚主ですね。わかりました、それでは暗黒城のアンデッドたちの管理はお任せください。召喚主が見ている希望、我らも全力で見させてもらいましょう」
頼もしい配下たちに恵まれて、俺は嬉しい。
『失敗した錬金術師』に対して頷きだけ残し、俺は馬車へと戻った。
椅子に深々と腰かけ、俺は『魔地馬』に告げる。
「よし、次は中央村を目指せ。計画開始までもう少しだ」
峡谷村の一角、レーナたちが作った医療拠点を訪れた俺は、開口一番そう言った。
「ようやくだね、召喚主」
初めに返事をしたのは、近くの民家の壁によりかかった『地獄射手』だった。
彼は瞳に黒く淀んだ光を宿し、怪しい笑みを浮かべる。
その身体の傷は完全に治っており、暗い闘志を帯びていた。
「親分は絶対に生き返らせないとね~~……頑張るよ」
『地獄暴食』は峡谷村で集められた食糧を片っ端から胃に送り込みながら、親指を立ててみせた。
その表情は一見、陽気に見えるが、声色に柔らかさはない。
静かな殺意が言葉に押し込められていた。
『魔地馬』と『邪神砲』は元の姿を取り戻し、すでに村の入り口の方角を向いて、俺たちを待っている。
『炎精霊』たちは馬車の周囲を飛び回り、オルビークは何食わぬ顔で、一人だけすでに馬車に乗り込んでいた。
レーナたちも無言ではあるが、きちんと旅支度を整え、俺の後ろにつき従っている。
彼女たちの、俺への恐怖と『地獄骸』を失った悲しみの混じった顔を見ると、複雑な気持ちになる。
だから、俺は彼女たちの方をなるべく見ないようにしていた。
無慈悲な魔王に余計な感情はいらない。
ただ、目的だけを見据えて、それ以外の何物にも惑わされてはいけないのだ。
「準備はできた。俺たちはこれより暗黒城を経由して、ギルダム中央村へと引き返す。ギルダム中央村で一泊して態勢を整えたのち、アルギア召喚宮殿への転移ゲートをくぐる」
俺の説明に、その場の誰もが頷いた。
「よし、ではひとまず、暗黒城を目指そう」
魔法石壁を越えると、そこには久しぶりの昼の世界が広がっていた。
『魔地馬』の重力操作により、馬車とその後ろを走って追ってくる『地獄暴食』の体重は極限まで軽くなっている。
戦闘時のように本気を出せば空中を飛ぶこともできなくはないのだが、それでは『魔地馬』の体力がすぐに尽きてしまい、移動時にはあまり多用できなかった。
『グラウンドイーター』の巨体が遠くに見える。
あれ以来、『グラウンドイーター』の身体は強制休眠状態に入ったらしい。
膝を折った状態で沈黙した巨体の腹は確かに上下しているようだ。
しかし、目はつぶっており、俺たちが間近に接近しても、開く様子はない。
元々、『剣豪―三刀―』がいなければ、積極的に人を襲うことはない個体らしいし、放っておいても、あまり大きな問題はないだろう。
すぐに『グラウンドイーター』の巨体さえ、遥か後方に消えていく。
この峡谷を訪れた頃は、まだ何も知らない無垢な子供のようだった。
あんな残酷な光景を知ることもなく、異世界の楽しさだけを求めていた。
しかし、それはまやかしにすぎない。平和に生きていくためには、血を流さざるを得ないときもある。
それが今まさに、この時だ。
行きに下っていた斜面を今度は上っていく。
馬車の中は行きと違って、とても静かだった。
ギルダム大峡谷に別れを告げ、俺たちは走り続ける。
そうして俺たちは、本拠地である暗黒城まで戻ってきた。
「あ、召喚主様。お帰りですか? 見てくださいよ! 暗黒城にまた新しい機能が――」
他の仲間を馬車に残して一人、暗黒城の正門をくぐった俺を出迎えてくれたのは、『失敗した錬金術師』だった。
彼は目を輝かせ、何かを自慢しようとしてくるが、
「――ただちに、俺の配下全員を集めろ。これは命令だ」
彼の嬉々とした言葉を冷たく遮って、俺は要求を告げる。
『失敗した錬金術師』は俺の変貌ぶりに混乱し、それでも何かが起こったことを悟ったようで、すぐさま真顔になって恭しく敬礼する。
「この後、俺たちはギルダム中央村のアンデッドたちと合流する。準備ができ次第、追ってきてもらってもいいか?」
「畏まりました。この地に残っている者は雑兵ばかり。構わずお進みください。この城の勢力は私の名誉にかけて、確実に中央村まで進軍させましょう――それで、いったい何があったので?」
「――『地獄骸』が死んだ」
俺のその一言だけを口にした。
『失敗した錬金術師』は一瞬、言葉を咀嚼するように黙り、それから彼の両目が大きく見開かれる。
「弔い合戦、なのですか?」
「違う。俺たちはそんな無意味なことはしない。これから行うのは、一縷の希望に全てを懸ける行為だ」
その意味をどこまで把握したのか、俺にはわからない。
だが、『失敗した錬金術師』の瞳は怪しく光を見せた。
「なるほど、勝算はあると。さすがは我が召喚主ですね。わかりました、それでは暗黒城のアンデッドたちの管理はお任せください。召喚主が見ている希望、我らも全力で見させてもらいましょう」
頼もしい配下たちに恵まれて、俺は嬉しい。
『失敗した錬金術師』に対して頷きだけ残し、俺は馬車へと戻った。
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「よし、次は中央村を目指せ。計画開始までもう少しだ」
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