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第59話 冷たい聖域
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「それでは、扉を開錠するぞ」
黄金の巨大扉の前、ちんまりとしたオルビークが小さな手で扉に触れると、見えない金属が引きちぎられるような酷い音が辺りに響いた。
「オルビークって、改めて考えるとやばいよな。召喚宮殿の中枢への扉も開けられるなんて」
「こんなもの、中位以上の魔術師であれば、誰でも開けられるのじゃ。所詮は、同じ文字召喚術師に対する封鎖に過ぎん。でも、それでいいのじゃよ。魔術師がこの場所に足を踏み入れる理由など、普通ならないのじゃからな」
俺と会話をしながら不可視の魔法バリアを破り捨てたオルビークは、とん、と扉を軽く叩いた。
それと呼応して、両開きの扉が弾けるように激しく開く。
「それ、もうちょっと、静かに開けないのか?」
「無理な相談じゃな。本当なら重さで動かすことができない扉を、魔術で無理やりこじ開けておるのじゃから」
そんなやりとりをしてから、俺は黄金扉の先に視線をやる。
扉の先には一本の通路があった。
それは先に進むにつれて、どんどんと天井が低くなっていき、最終的には縦横五メートルの一本道へとなっていく。
橙色に近い煉瓦が使われていた先ほどまでの空間と違って、薄青色に近い石材が壁面を作っており、明かりもほとんどないため、先は見通せない。
文字召喚術師にとって神聖な場所だということだが、どうにも冷たい印象が強かった。
敵の気配はなく、オルビークも反応しないことから、気配消失の魔術が使われている様子もない。
進軍に問題はなさそうだ。
「この先はかなり狭くなっている。縦列で進むぞ」
『炎精霊』を呼び、照明代わりにしながら、俺は前進する。
受ける印象だけではなく、実際に流れる空気が冷たくなった。
足音が反響し、進行方向は闇に包まれて、自分がどの辺を歩いているのかわからなくなる。
「ここは本当に神聖な場所なのか……?」
俺の疑問に、少し後をついてきているアリカが答える。
「ええ。この奥では、高位文字召喚術師たちの研究が行われているんです。どうすれば、顕現待ちは少なくなるのか、同時にコントロールできる数を増やせるのか、使用できる属性を増やせるのか……そんな研究です」
「そういや、レーナも初めて会った時に使用できる属性がどうとか言っていたな……。なんだったっけ?」
俺がそんな質問をすると、アリカは苦笑した。
「あなたみたいな、強力な文字召喚術師がそんな初歩的な質問をする様子は、なんだか見ていておかしいですね。祈りの属性というのは、本来、文字召喚を行う際に必須なものなんです。たとえば、炎の属性を扱える文字召喚術師は『炎精霊』を召喚することができますが、水の属性が使えない場合は、『水精霊』は召喚できません。シュウトさまのアンデッドたちも本来は、闇属性の適性が必要なんです」
「ああ、そんな話だったな。意識したことなかったけど」
「それは異常なことなんですよ、本当は。顕現待ちがなかったり、多数の同時召喚を行える驚きの陰に隠れてしまっていますけれど。普通、平均的な文字召喚術師が扱える属性は一つ、高位の文字召喚術師で二つから三つというところでしょうか」
その説明で、この宮殿に入ってからなんとなく感じていたある違和感が解消される。
それは襲い掛かってくるモンスターの種類についてだ。
鉄なら鉄。獣なら獣。
せっかく二体従えているのに、そのどちらも似たようなモンスターを使役している文字召喚術師が多いな、とずっと思っていたのだ。
鉄と鉄ではなく、炎と水など多種類の攻撃が可能な方が、相手は苦戦するだろう、と。
だが、実際には、彼らにはその組み合わせができなかったのだろう。
鉄なら鉄にまつわるものしか召喚できなかったのだ。
俺がその仮説を口にすると、アリカは頷いた。
「属性というのは、『炎』や『水』のように元素的なものに限りません。『鉄』属性や、『獣』属性というものも存在します。鉄属性で召喚した『鉄』の獣なら、鉄属性の特徴が強く出ますし、鉄の爪を持った『獣』なら獣属性の特徴が強く出ます」
難解だが、なんとなく理解できた。
文字召喚術師には本当にたくさんの制約があるらしい。
「だから、そんな制約を取り払うために、ここでは研究……という名の実験が行われているのですよ。そのための環境を整えるため、この空間の空気は冷たいのです」
その言葉には、なんだか不穏な響きを感じた。
ここで行われている実験、それは果たして、まともなものなのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、俺は急に開けた空間に足を踏み入れた。
燭台による明かりはついており、視界が一気に広がる。
正方形の形の大部屋だった。
壁面にはたくさんの通路の入り口があり、地下のあらゆる方向へ伸びている。
その先が、アリカが言っていた実験場に繋がっているのかもしれない。
だが、今は最深部を目指すことに集中する。
アリカの誘導で、俺たちは数多い通路の一つを進み、やがてさらに下に進む階段を見つけた。
「ここを降りた先が最下層です。もうすぐですね、シュウトさん」
「ああ」
いよいよ、再召喚の宝物に手の届く距離まで来た。
だがそれは、待ち受ける最後の関門が近いことを意味してもいた。
召喚宮殿襲撃、最後の戦いはすぐそこまで迫っている。
黄金の巨大扉の前、ちんまりとしたオルビークが小さな手で扉に触れると、見えない金属が引きちぎられるような酷い音が辺りに響いた。
「オルビークって、改めて考えるとやばいよな。召喚宮殿の中枢への扉も開けられるなんて」
「こんなもの、中位以上の魔術師であれば、誰でも開けられるのじゃ。所詮は、同じ文字召喚術師に対する封鎖に過ぎん。でも、それでいいのじゃよ。魔術師がこの場所に足を踏み入れる理由など、普通ならないのじゃからな」
俺と会話をしながら不可視の魔法バリアを破り捨てたオルビークは、とん、と扉を軽く叩いた。
それと呼応して、両開きの扉が弾けるように激しく開く。
「それ、もうちょっと、静かに開けないのか?」
「無理な相談じゃな。本当なら重さで動かすことができない扉を、魔術で無理やりこじ開けておるのじゃから」
そんなやりとりをしてから、俺は黄金扉の先に視線をやる。
扉の先には一本の通路があった。
それは先に進むにつれて、どんどんと天井が低くなっていき、最終的には縦横五メートルの一本道へとなっていく。
橙色に近い煉瓦が使われていた先ほどまでの空間と違って、薄青色に近い石材が壁面を作っており、明かりもほとんどないため、先は見通せない。
文字召喚術師にとって神聖な場所だということだが、どうにも冷たい印象が強かった。
敵の気配はなく、オルビークも反応しないことから、気配消失の魔術が使われている様子もない。
進軍に問題はなさそうだ。
「この先はかなり狭くなっている。縦列で進むぞ」
『炎精霊』を呼び、照明代わりにしながら、俺は前進する。
受ける印象だけではなく、実際に流れる空気が冷たくなった。
足音が反響し、進行方向は闇に包まれて、自分がどの辺を歩いているのかわからなくなる。
「ここは本当に神聖な場所なのか……?」
俺の疑問に、少し後をついてきているアリカが答える。
「ええ。この奥では、高位文字召喚術師たちの研究が行われているんです。どうすれば、顕現待ちは少なくなるのか、同時にコントロールできる数を増やせるのか、使用できる属性を増やせるのか……そんな研究です」
「そういや、レーナも初めて会った時に使用できる属性がどうとか言っていたな……。なんだったっけ?」
俺がそんな質問をすると、アリカは苦笑した。
「あなたみたいな、強力な文字召喚術師がそんな初歩的な質問をする様子は、なんだか見ていておかしいですね。祈りの属性というのは、本来、文字召喚を行う際に必須なものなんです。たとえば、炎の属性を扱える文字召喚術師は『炎精霊』を召喚することができますが、水の属性が使えない場合は、『水精霊』は召喚できません。シュウトさまのアンデッドたちも本来は、闇属性の適性が必要なんです」
「ああ、そんな話だったな。意識したことなかったけど」
「それは異常なことなんですよ、本当は。顕現待ちがなかったり、多数の同時召喚を行える驚きの陰に隠れてしまっていますけれど。普通、平均的な文字召喚術師が扱える属性は一つ、高位の文字召喚術師で二つから三つというところでしょうか」
その説明で、この宮殿に入ってからなんとなく感じていたある違和感が解消される。
それは襲い掛かってくるモンスターの種類についてだ。
鉄なら鉄。獣なら獣。
せっかく二体従えているのに、そのどちらも似たようなモンスターを使役している文字召喚術師が多いな、とずっと思っていたのだ。
鉄と鉄ではなく、炎と水など多種類の攻撃が可能な方が、相手は苦戦するだろう、と。
だが、実際には、彼らにはその組み合わせができなかったのだろう。
鉄なら鉄にまつわるものしか召喚できなかったのだ。
俺がその仮説を口にすると、アリカは頷いた。
「属性というのは、『炎』や『水』のように元素的なものに限りません。『鉄』属性や、『獣』属性というものも存在します。鉄属性で召喚した『鉄』の獣なら、鉄属性の特徴が強く出ますし、鉄の爪を持った『獣』なら獣属性の特徴が強く出ます」
難解だが、なんとなく理解できた。
文字召喚術師には本当にたくさんの制約があるらしい。
「だから、そんな制約を取り払うために、ここでは研究……という名の実験が行われているのですよ。そのための環境を整えるため、この空間の空気は冷たいのです」
その言葉には、なんだか不穏な響きを感じた。
ここで行われている実験、それは果たして、まともなものなのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、俺は急に開けた空間に足を踏み入れた。
燭台による明かりはついており、視界が一気に広がる。
正方形の形の大部屋だった。
壁面にはたくさんの通路の入り口があり、地下のあらゆる方向へ伸びている。
その先が、アリカが言っていた実験場に繋がっているのかもしれない。
だが、今は最深部を目指すことに集中する。
アリカの誘導で、俺たちは数多い通路の一つを進み、やがてさらに下に進む階段を見つけた。
「ここを降りた先が最下層です。もうすぐですね、シュウトさん」
「ああ」
いよいよ、再召喚の宝物に手の届く距離まで来た。
だがそれは、待ち受ける最後の関門が近いことを意味してもいた。
召喚宮殿襲撃、最後の戦いはすぐそこまで迫っている。
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