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第62話 信頼の盾
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爆煙が晴れ、オルビークの姿を再び捉えられるようになる。
だが、その光景はあまり喜ばしいものではなかった。
「ぐっ……」
床に仰向けに倒れたオルビークの服はところどころが破け、柔肌が露わになっている。
だがもちろん、その肌の一部は光弾によって焦げ、治療がなければ、戦闘に復帰することは難しいだろう。
動けないオルビークを守るように、彼女の前にアンデッドたちが立ち塞がる。
その面子は軍の中心メンバーたちだ。
さすがにA~S級のモンスターは、聖巨人の光弾攻撃による混乱においても、大きな負傷はしていないようだった。
「さっきは見事に不意を突かれたよ。でももう通用しない。さて、お礼をしなくちゃね」
飄々とした言葉とは裏腹に、仲間がダメージを負ったことに対して、怒りの感情を迸らせている『地獄射手』が聖巨人を見上げる形で睨みつける。
その手には短刀。
闇を生じさせて、矢に変換する攻撃方法は、聖巨人に無力化されてしまうため、物理攻撃に切り替えたようだ。
『地獄射手』は隣に並ぶ『地獄暴食』に合図を出す。
すると、『地獄射手』は『地獄暴食』の大きな右の手の平に乗り、『地獄暴食』は全力で投げつける形で『地獄射手』を聖巨人へとぶん投げた。
高速で聖巨人の懐に潜り込んだ『地獄射手』は闇の短刀を振るい、聖巨人の鉄の胴体を抉る。
「ゴォォォォォォ……!」
聖巨人が低い呻き声を上げる。
どうやら痛覚は存在しているようだ。
一瞬、ぐらついたところを『地獄射手』は見逃さない。間隔を空けずに短刀による連撃を繰り返す。
みるみるうちに聖巨人の傷は増え、呻き声も大きくなっていく。
「今だ、召喚主! さっさとこいつの相手をできるモンスターを召喚してくれ!」
『地獄射手』の言葉通り、俺は再び魔法記述具を顕現させる。
だが、万年筆を握った瞬間、
「残念だよねえ、させるわけがないよねえ、学習できないのかねえ!!」
俺の顔面の真横、息を感じられるほど近くに、エイドス・ヴェルガの顔があった。
とっさに飛び退いたのと同時、ヴェルガの周囲にオルビークが扱っていたのと同種の火炎球が出現し、その全てが俺の身に襲い掛かった。
邪神剣がすんでのところでその全てを斬り捨てるが、集中が途切れたことによって、魔法記述具は空中に霧散してしまう。
「クソッ!」
俺が悪態をついてヴェルガを睨むと、彼は涼しい顔をして指をパチンと鳴らした。
すると、傷ついた聖巨人の身体がみるみるうちに再生していく。
その一部始終を見ていた『地獄射手』の顔がひきつった。
「……そ、そんな巨体を一瞬で回復させる治癒魔術を使えるなんてね。さすがは高位の魔術師といったところか」
『地獄射手』がそういうのも無理はない。
ギルダム大峡谷で彼らが重傷を負った時、レーナたちが数時間かけてやっと、彼らの傷は癒えたのだから。
治癒魔術とは本来、一瞬で回復できるような便利なものではないのだ。
しかし、眼前に立ちはだかるヴェルガは、『天使翼』とほぼ同じレベルの高速で、傷を回復させることができる治癒魔術を使用した。
それが示す事実は、聖巨人を倒すには治癒を許さない高火力の一撃を浴びせる必要があるということ。
今いるモンスターたちの中に、その条件を満たすものはいない。
やはり、俺が聖巨人を一撃で屠れる、新しいモンスターを召喚するしか勝ち筋はなかった。
だが、どうする?
文字召喚を行う僅かな時間。
それさえも、王国八人の魔術師が一人、エイドス・ヴェルガが相手では稼ぐことができない。
反撃できなければ、俺たちは死ぬのみだ。
必死で頭を回転させるが、妙案は出てこない。
冷汗が流れる。こんなところで死ぬわけにはいかない。
何か、何か策は――。
そうやって苦悩する俺の前に、不意にたくさんの影が並んだ。
俺には、その意味が一瞬わからなかった。
でも、すぐに気付く。
事態を察した『地獄射手』が聖巨人から距離を取って、影たちのもとまで戻ってくる。
そうして俺は、俺の目の前に立ち並んだたくさんの影たち――俺の召喚したモンスターたちと視線を合わせた。
「お前ら……」
彼らが何をしようとしているのかはわかった。
端的に、彼らは盾になろうというのだ。自らの身を差し出して。
「止めないでくれよ、召喚主。時間さえ稼げれば、召喚主がなんとかしてくれると信じているからこそ、ぼくたちはこの行動を選択しようと思う」
『地獄射手』は俺と正面から目を合わせてそう言った。
彼らの目には覚悟があった。決意があった。
危険な役目だ。本当なら止めたい。
しかし、制止の言葉は口から出てこない。
俺だって、それが最善の選択だというのなら、望んでこの身を差し出すだろうと思ったからだ。
だから、彼らにかけるべき言葉はただ一つ。
俺は魔法記述具を顕現させ、真剣な表情で命令を下す。
「ああ、頼んだ――なんとしても持ちこたえろ」
だが、その光景はあまり喜ばしいものではなかった。
「ぐっ……」
床に仰向けに倒れたオルビークの服はところどころが破け、柔肌が露わになっている。
だがもちろん、その肌の一部は光弾によって焦げ、治療がなければ、戦闘に復帰することは難しいだろう。
動けないオルビークを守るように、彼女の前にアンデッドたちが立ち塞がる。
その面子は軍の中心メンバーたちだ。
さすがにA~S級のモンスターは、聖巨人の光弾攻撃による混乱においても、大きな負傷はしていないようだった。
「さっきは見事に不意を突かれたよ。でももう通用しない。さて、お礼をしなくちゃね」
飄々とした言葉とは裏腹に、仲間がダメージを負ったことに対して、怒りの感情を迸らせている『地獄射手』が聖巨人を見上げる形で睨みつける。
その手には短刀。
闇を生じさせて、矢に変換する攻撃方法は、聖巨人に無力化されてしまうため、物理攻撃に切り替えたようだ。
『地獄射手』は隣に並ぶ『地獄暴食』に合図を出す。
すると、『地獄射手』は『地獄暴食』の大きな右の手の平に乗り、『地獄暴食』は全力で投げつける形で『地獄射手』を聖巨人へとぶん投げた。
高速で聖巨人の懐に潜り込んだ『地獄射手』は闇の短刀を振るい、聖巨人の鉄の胴体を抉る。
「ゴォォォォォォ……!」
聖巨人が低い呻き声を上げる。
どうやら痛覚は存在しているようだ。
一瞬、ぐらついたところを『地獄射手』は見逃さない。間隔を空けずに短刀による連撃を繰り返す。
みるみるうちに聖巨人の傷は増え、呻き声も大きくなっていく。
「今だ、召喚主! さっさとこいつの相手をできるモンスターを召喚してくれ!」
『地獄射手』の言葉通り、俺は再び魔法記述具を顕現させる。
だが、万年筆を握った瞬間、
「残念だよねえ、させるわけがないよねえ、学習できないのかねえ!!」
俺の顔面の真横、息を感じられるほど近くに、エイドス・ヴェルガの顔があった。
とっさに飛び退いたのと同時、ヴェルガの周囲にオルビークが扱っていたのと同種の火炎球が出現し、その全てが俺の身に襲い掛かった。
邪神剣がすんでのところでその全てを斬り捨てるが、集中が途切れたことによって、魔法記述具は空中に霧散してしまう。
「クソッ!」
俺が悪態をついてヴェルガを睨むと、彼は涼しい顔をして指をパチンと鳴らした。
すると、傷ついた聖巨人の身体がみるみるうちに再生していく。
その一部始終を見ていた『地獄射手』の顔がひきつった。
「……そ、そんな巨体を一瞬で回復させる治癒魔術を使えるなんてね。さすがは高位の魔術師といったところか」
『地獄射手』がそういうのも無理はない。
ギルダム大峡谷で彼らが重傷を負った時、レーナたちが数時間かけてやっと、彼らの傷は癒えたのだから。
治癒魔術とは本来、一瞬で回復できるような便利なものではないのだ。
しかし、眼前に立ちはだかるヴェルガは、『天使翼』とほぼ同じレベルの高速で、傷を回復させることができる治癒魔術を使用した。
それが示す事実は、聖巨人を倒すには治癒を許さない高火力の一撃を浴びせる必要があるということ。
今いるモンスターたちの中に、その条件を満たすものはいない。
やはり、俺が聖巨人を一撃で屠れる、新しいモンスターを召喚するしか勝ち筋はなかった。
だが、どうする?
文字召喚を行う僅かな時間。
それさえも、王国八人の魔術師が一人、エイドス・ヴェルガが相手では稼ぐことができない。
反撃できなければ、俺たちは死ぬのみだ。
必死で頭を回転させるが、妙案は出てこない。
冷汗が流れる。こんなところで死ぬわけにはいかない。
何か、何か策は――。
そうやって苦悩する俺の前に、不意にたくさんの影が並んだ。
俺には、その意味が一瞬わからなかった。
でも、すぐに気付く。
事態を察した『地獄射手』が聖巨人から距離を取って、影たちのもとまで戻ってくる。
そうして俺は、俺の目の前に立ち並んだたくさんの影たち――俺の召喚したモンスターたちと視線を合わせた。
「お前ら……」
彼らが何をしようとしているのかはわかった。
端的に、彼らは盾になろうというのだ。自らの身を差し出して。
「止めないでくれよ、召喚主。時間さえ稼げれば、召喚主がなんとかしてくれると信じているからこそ、ぼくたちはこの行動を選択しようと思う」
『地獄射手』は俺と正面から目を合わせてそう言った。
彼らの目には覚悟があった。決意があった。
危険な役目だ。本当なら止めたい。
しかし、制止の言葉は口から出てこない。
俺だって、それが最善の選択だというのなら、望んでこの身を差し出すだろうと思ったからだ。
だから、彼らにかけるべき言葉はただ一つ。
俺は魔法記述具を顕現させ、真剣な表情で命令を下す。
「ああ、頼んだ――なんとしても持ちこたえろ」
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