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第66話 戦いの果て
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異世界最強の文字召喚術師。
自らをそう呼んだことには、皮肉が多分に含まれている。
俺が本当に最強の文字召喚術師ならば、こんなに酷い惨状を引き起こすことはなかっただろう。
大部屋の床には俺を信じて盾になり、傷ついた配下たちがいた。
全員、辛うじて息はある。
少しでも空気を吸おうと、腹を大きく上下させ、誰も彼もが生きることに必死だ。
それなのに、そんなにボロボロなのに、彼らは俺に向かって称賛の視線を向けていた。
『地獄射手』は全身を強く打って、思ったように身体を動かせないようだが、右手だけをなんとか持ち上げて、親指を立ててみせた。
『地獄暴食』は下手なウインクをしてみせて、他の奴らもみな様々な仕草で、俺への敬意を示してくれる。
俺はそこで初めて、彼らの期待に応えられたんだと、そう気づいた。
お礼を言わなければいけないのは、敬意を示さないといけないのは、俺の方だ。
彼らがいなければ、戦いに勝つことができなかった。
俺は本当に良い配下たちを持った。
だから、俺は彼らに対して、深々と頭を下げる。
今まで、彼らに頭を下げることを避けていた。
初めは、頭を下げることで、召喚主と認めてもらえなくなるのではないかと思ったから。
ギルダム大峡谷の一件を経てからは、魔王となるのであれば、そんな情けない姿は見せられないと思ったから。
だけど、目的は達成した。
もう、情けない姿を見せてもいいだろう。
深々と頭を下げた体勢のまま、俺は絞り出すように言う。
「ありがとう……っ! ありがとう……っ! みんなッ!!」
その言葉を聞いた誰もが、茶化すことなく、俺を見つめていた。
俺はゆっくりと顔を上げて、全員の顔を見回す。
俺の醜態を目の当たりにしても、彼らから感じる敬意は全く揺るがなかった。
全員が笑みを浮かべ、そして、彼らの視線は大部屋最後の扉へと向けられる。
「シュウトさまっ!」
戦闘の邪魔にならないよう、大部屋の入り口で事の推移を見守っていたレーナとアリカが駆け寄ってくる。
彼女たちは傷ついたオルビークや召喚モンスターたちの状態を確かめつつ、俺に向かって言う。
「先に行ってください……みなさん、きっと、それを望んでいます」
俺は無言で頷くと、最後の扉へと歩み出す。
その足は震える。
その手は震える。
全身が緊張で強張って、俺の意識はぼんやりと歪んでいく。
ここに辿り着くまでに、敵味方、数えきれないほどの犠牲があった。
血の雨が降った。
俺の心は大きく軋む音を立てた。
強烈な負荷がかかった心をそれでも、どうにか前へと駆り立てられたのは、魔王たる使命感だ。
それも今となっては崩壊が始まり、俺の心は崩れる寸前である。
鉄の扉に手をかける。
最後の扉には、魔術的な施錠は施されていなかった。
もしくは、高強度の施錠をエイドス・ヴェルガが担っていたのかもしれない。
術者が倒れたことで、魔術的な施錠自体が外れたと考えた方が自然だろう。
扉の向こうは小さな小部屋だった。
照明は、小さな燭台がいくつか。だが、それでも部屋の中はとても明るい。
小部屋の中心に据えられた、豪奢な装飾の施された台座。
そこには眩い光を放つ宝玉が一つ。
俺は右手を伸ばして、それをしっかりと掴む。
使い方は、直感で分かった。
宝玉を胸に当て、俺はゆっくりと念じる。
思い出すのは、彼と過ごした時間。短く、それでいて、とても大切な温かい時間の思い出。
手の中で宝玉が熱を持っていく。
温度はどんどんと高まっていき、やがて激しい音と共に、砕けた。
しん、と静まり返った部屋。俺は怖くて、目を開くことができない。
そんな俺を優しく労わるように、声がかけられた。
「……心配をかけましたな、召喚主」
その声は、いつかのままだった。
俺は目を開く。
目の前に顕現した、大事な大事なモンスターの姿が視界に入り、俺の瞳から涙が溢れ出す。
ずっと、ずっと、我慢していた。
取り戻すまでは、泣くまいと決めていた。
血の雨で凍りついていた、冷たい俺の心が、彼を見ただけで温かくなって解け始める。
解けた氷は涙に変わって、次から次へと流れ落ちていく。
「俺が……俺がしたことは……正しかったのか?」
考えないようにしていた事柄が頭の至る所から噴き出して、俺は声を震わせる。
彼を助けるために、召喚宮殿を血に染め、仲間たちを傷つけ、それは果たして正しいことだったのだろうか。
「正しくは……ないでしょうな」
目の前のモンスターは、俺のことをバッサリと切り捨てた。
そうだ、俺はこれを望んでいた。
間違ったことをしているなんて、百も承知だったのだ。
だから、俺は断罪を求めていた。
「ですが、あくまで個人的な感情をもとに意見させて頂くとすれば……」
目の前に現れた八つの腕を持ち、腹に二つの目を持った化け物は、少しだけ言葉を溜めると、
「とても、感謝しております」
優しい声色でそう言った。
耐えていた嗚咽が漏れ出して、俺は声を出して泣き叫ぶ。
やっと取り戻した大切なモンスター――『地獄骸』の身体に身体を預け、俺はひたすら大声で泣いた。
安堵と、悲しみと、罪悪感と、解放感と、後悔と……それら全てが入り混じった感情が、嗚咽に混じってどこまでも響く。
そんな俺の頭をそっと撫で、『地獄骸』は囁くように。
「よく、頑張りましたな……召喚主」
俺の嗚咽はそれから少しの間ずっと、召喚宮殿の地下を満たし続けていた。
自らをそう呼んだことには、皮肉が多分に含まれている。
俺が本当に最強の文字召喚術師ならば、こんなに酷い惨状を引き起こすことはなかっただろう。
大部屋の床には俺を信じて盾になり、傷ついた配下たちがいた。
全員、辛うじて息はある。
少しでも空気を吸おうと、腹を大きく上下させ、誰も彼もが生きることに必死だ。
それなのに、そんなにボロボロなのに、彼らは俺に向かって称賛の視線を向けていた。
『地獄射手』は全身を強く打って、思ったように身体を動かせないようだが、右手だけをなんとか持ち上げて、親指を立ててみせた。
『地獄暴食』は下手なウインクをしてみせて、他の奴らもみな様々な仕草で、俺への敬意を示してくれる。
俺はそこで初めて、彼らの期待に応えられたんだと、そう気づいた。
お礼を言わなければいけないのは、敬意を示さないといけないのは、俺の方だ。
彼らがいなければ、戦いに勝つことができなかった。
俺は本当に良い配下たちを持った。
だから、俺は彼らに対して、深々と頭を下げる。
今まで、彼らに頭を下げることを避けていた。
初めは、頭を下げることで、召喚主と認めてもらえなくなるのではないかと思ったから。
ギルダム大峡谷の一件を経てからは、魔王となるのであれば、そんな情けない姿は見せられないと思ったから。
だけど、目的は達成した。
もう、情けない姿を見せてもいいだろう。
深々と頭を下げた体勢のまま、俺は絞り出すように言う。
「ありがとう……っ! ありがとう……っ! みんなッ!!」
その言葉を聞いた誰もが、茶化すことなく、俺を見つめていた。
俺はゆっくりと顔を上げて、全員の顔を見回す。
俺の醜態を目の当たりにしても、彼らから感じる敬意は全く揺るがなかった。
全員が笑みを浮かべ、そして、彼らの視線は大部屋最後の扉へと向けられる。
「シュウトさまっ!」
戦闘の邪魔にならないよう、大部屋の入り口で事の推移を見守っていたレーナとアリカが駆け寄ってくる。
彼女たちは傷ついたオルビークや召喚モンスターたちの状態を確かめつつ、俺に向かって言う。
「先に行ってください……みなさん、きっと、それを望んでいます」
俺は無言で頷くと、最後の扉へと歩み出す。
その足は震える。
その手は震える。
全身が緊張で強張って、俺の意識はぼんやりと歪んでいく。
ここに辿り着くまでに、敵味方、数えきれないほどの犠牲があった。
血の雨が降った。
俺の心は大きく軋む音を立てた。
強烈な負荷がかかった心をそれでも、どうにか前へと駆り立てられたのは、魔王たる使命感だ。
それも今となっては崩壊が始まり、俺の心は崩れる寸前である。
鉄の扉に手をかける。
最後の扉には、魔術的な施錠は施されていなかった。
もしくは、高強度の施錠をエイドス・ヴェルガが担っていたのかもしれない。
術者が倒れたことで、魔術的な施錠自体が外れたと考えた方が自然だろう。
扉の向こうは小さな小部屋だった。
照明は、小さな燭台がいくつか。だが、それでも部屋の中はとても明るい。
小部屋の中心に据えられた、豪奢な装飾の施された台座。
そこには眩い光を放つ宝玉が一つ。
俺は右手を伸ばして、それをしっかりと掴む。
使い方は、直感で分かった。
宝玉を胸に当て、俺はゆっくりと念じる。
思い出すのは、彼と過ごした時間。短く、それでいて、とても大切な温かい時間の思い出。
手の中で宝玉が熱を持っていく。
温度はどんどんと高まっていき、やがて激しい音と共に、砕けた。
しん、と静まり返った部屋。俺は怖くて、目を開くことができない。
そんな俺を優しく労わるように、声がかけられた。
「……心配をかけましたな、召喚主」
その声は、いつかのままだった。
俺は目を開く。
目の前に顕現した、大事な大事なモンスターの姿が視界に入り、俺の瞳から涙が溢れ出す。
ずっと、ずっと、我慢していた。
取り戻すまでは、泣くまいと決めていた。
血の雨で凍りついていた、冷たい俺の心が、彼を見ただけで温かくなって解け始める。
解けた氷は涙に変わって、次から次へと流れ落ちていく。
「俺が……俺がしたことは……正しかったのか?」
考えないようにしていた事柄が頭の至る所から噴き出して、俺は声を震わせる。
彼を助けるために、召喚宮殿を血に染め、仲間たちを傷つけ、それは果たして正しいことだったのだろうか。
「正しくは……ないでしょうな」
目の前のモンスターは、俺のことをバッサリと切り捨てた。
そうだ、俺はこれを望んでいた。
間違ったことをしているなんて、百も承知だったのだ。
だから、俺は断罪を求めていた。
「ですが、あくまで個人的な感情をもとに意見させて頂くとすれば……」
目の前に現れた八つの腕を持ち、腹に二つの目を持った化け物は、少しだけ言葉を溜めると、
「とても、感謝しております」
優しい声色でそう言った。
耐えていた嗚咽が漏れ出して、俺は声を出して泣き叫ぶ。
やっと取り戻した大切なモンスター――『地獄骸』の身体に身体を預け、俺はひたすら大声で泣いた。
安堵と、悲しみと、罪悪感と、解放感と、後悔と……それら全てが入り混じった感情が、嗚咽に混じってどこまでも響く。
そんな俺の頭をそっと撫で、『地獄骸』は囁くように。
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俺の嗚咽はそれから少しの間ずっと、召喚宮殿の地下を満たし続けていた。
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