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第67話 騒動の結末

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「久しぶりに戻ってきたな……」

 草原の丘の上に立つ、俺たちの城。

 暗黒城を前にして、俺は安堵のため息を吐く。

「本当に懐かしいですな。私はギルダム大峡谷以降、帰っておりませんから」

 俺の背後には、『地獄骸』が控えており、暗黒城を見上げて、同じく息を漏らしていた。

 蘇った『地獄骸』は今までの記憶も全て維持していた。

 同じ姿の別個体というわけではなく、正真正銘、この異世界に来てから共に過ごした『地獄骸』である。

「それにしても、かなり疲れたな……やっぱ、召喚宮殿もただでは返してくれなかったし」

「とりあえず、シュウトさまがあれだけ暴走して、死者が出なかったのはよかったです……」

 隣には、心底疲労しきった様子のレーナとアリカがいた。

 彼女たちには今回、かなりの負担をかけた。

 これから時間をかけて労わなければならない。

 再召喚を終えた後、俺たちはすぐさまアルギア召喚宮殿から脱出を試みた。

 道中、倒れて動けなくなっていた文字召喚術師を治療しながらだ。

『地獄骸』の前でひとしきり泣いた俺は、ようやく普通の人間の心を取り戻せたのだと思う。

 もしくは、他のことを考える余裕ができたのか。

 だから、血だまりに伏した召喚術師たちを見過ごしておくことはできなかった。

 復讐を望む修羅は、その本懐を遂げた時点で、修羅ではなくなる。

 俺はレーナたちと協力して、事の後始末をすることに決めた。

 だがもちろん、残存戦力というものは存在し、これ以上、相手を傷つけることを嫌った俺たちは、派手に逃げ回りながら治療するという荒業に出たのだった。

 敵の残存戦力は、俺たちが色々な場所を逃げ回るにつれて、仲間たちの傷が癒えていくので、首を傾げていた。

 そして、そんなこんなを終えた俺たちは、やっと暗黒城へと帰ってきたのだった。

「だけど、このままだらだらとしているわけにもいかないんだよな」

「そうですね。アルギア召喚宮殿との戦闘は、本当なら必要ないものでしたから。私たちの当面の脅威は帝国です」

 頭を抱えるアリカが暗黒城の扉を開けてくれる。

 俺たちはゆっくりと城内へ入っていく。

「帝国の侵略計画か。物騒な問題が次から次へと湧いて出るのう」

 そう言ったオルビークに対し、俺は問う。

「そういや、オルビークは帰らなくていいのか? 峡谷村をずっと空けておくのも心配だろ?」

「村の運営については、遠隔通信の魔法を使えば指示が出せるからの。もうしばらくここにいることにするのじゃ。お主の語る『最強の独立自治区』の中には、わらわたち峡谷村の民も含まれる。シュウトの活躍をここで見させてもらうとするよ」

「『最強の独立自治区』か。俺は今回、たぶん一度、人の道を踏み外した。これから、また道を踏み外すことなく、それを実現することができるんだろうか……」

「大丈夫ですよ、シュウトさま」

 ため息を吐く俺に向かって、レーナは優しい笑顔を浮かべた。

「また道を踏み外しても、わたしたちがいます。だから、大丈夫ですよ」

「そうだよな……俺はもっと、レーナたちを頼らないとな」

 俺やレーナたち、120体を超えるアンデッドたちは五階の王座の間までやってきていた。

 俺は一度目を閉じ、決心したように歩み出す。

 その先にあるのは、豪奢な王座。
 
 以前はそこに座ることを躊躇った。
 
 無理やり座らせられた時も、ここに自ら座る姿を想像できなかった。

 だが、俺は今、自分の意志でその王座へと座る。

 アルギア召喚宮殿の一件を終えて、俺は俺につき従ってくる者たちの王になると決めた。

 復讐が終わり、再召喚が終わっても、その気持ちは変わらない。

 ――今ここに、俺は真の魔王となるのだ。

 俺は静かに王座へと座った。

 配下たちは全員静まり返っていて、それでも、俺がこの王座についたことに高揚しているのがわかる。

 みんなが俺の言葉を待っている。

 ここからが始まりだ。

 最高の独立自治区、そんな理想の地が成立するその日まで、俺は立派な魔王でいよう。




「――始めるぞ、お前たち。俺たちの最強の力を、この世界に示してやろう」
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