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第68話 新たな問題
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シンと静まり返った空気に満ちているのは、暗黒城の最上階、王座の間。
配下モンスターは一人もいない。ただ俺だけが王座に深々と座り、沈黙を貫いている。
そして、しばらく黙っていた俺は――
「はぁぁぁぁぁ…………」
――肩を落とし、深い深いため息をついた。
アルギア召喚宮殿を襲撃し、無事に『地獄骸』を再召喚した次の日のことだ。
ため息の原因はいくつもある。
いくつもありすぎて、俺の口から漏れるため息は止まることを知らない。
俺はテンションの低い表情で無駄に高性能な王座の両方の手もたれのボタンをいくつか操作する。すると、遥か遠くの映像が眼前に大きく投影された。
ちなみに『邪神剣』とはお互いの了承があれば分離できるため、今は俺の左手から離れている。戦闘になった時に呼べば、再び現れるだろう。
投影されたのは、ルフェリア王国アルギア召喚宮殿前の映像だ。
そこには宮殿に押し掛ける大量の野次馬と飛び交う大量の号外新聞。
手元を操作して映像を号外新聞の一面が映るように拡大してみれば、「ついに魔王復活か!? アルギア召喚宮殿襲撃事件!!」という見出しがデカデカと躍っている。
至る所に血が飛び散る非常に凄惨な現場とは裏腹に、負傷者が極端に少ないという謎の事件として王国が調査に乗り出したようだ。
傷つけた文字召喚術師たちは出来る限り、治療しながら逃げ帰ってきたとはいえ、その痕跡や被害を受けた召喚術師たちの記憶まで消す余裕はなかった。
となれば、こういう結果を招くことは容易に想像できる。
「はぁぁぁぁ……これは王国とも敵対することになるだろうなぁ……」
冷静になった今となってはもう少し隠密に侵入するとか、もっと騒ぎにならない特性を持ったモンスターを召喚するとか、再召喚アイテムを効率的かつ穏便に手に入れる方法があった気がするが、今更後悔した所で遅すぎた。
と、俺がそんな風にため息をついていると、バン! と両開きの大扉が激しく開かれ、一つの影が王の間に駆け込んでくる。
それは今回の騒動の原因となった側近。
「どうした、『地獄骸』」
俺が少し高い場所にある王座から見下ろすと、『地獄骸』は目を輝かせて、手に持ったものを見せつけてきた。
「ご覧ください! 召喚主の活躍が書かれた新聞が王都に出回っておりましたぞ! これで名実ともに召喚主が魔王であると民衆にも伝わりましたな!」
「……あー、もうそれ見せないで。頭痛くなる」
『地獄骸』は誇らしげに八本の手全てに忌まわしき号外新聞を持ち、ひらひらと元気よく見せてくる。再び召喚出来たことは素直に喜ばしいが、実際、王都の反応には困っているのだ。
「それで……頼んでいた仕事はちゃんと果たしたか?」
俺がそう問うと、『地獄骸』は顔を引き締めて頷く。
「はっ。召喚主のご命令通り、ギルダム中央村に存在する転移ゲートの破壊は問題なく完了致しました。これはその際にこっそりと王都側から持ってきた戦利品でございます」
と、『地獄骸』はまた号外新聞を見せてこようとしたので、俺は「見せんでいい」と手でそれを制した。
「転移ゲートさえ破壊してしまえば、しばらくは王国からいきなり大量の兵が押し寄せたりすることにはならなそうだな。時間稼ぎにしかならないとは思うが……」
「ギルダム独立自治区を囲むように巨大な防衛壁を作るべきでしょうな。ルフェリア王国にせよ、アルガリンガン帝国にせよ、我らの領地の脅威となるものは未だ大量に存在します」
「仕方がない。どのみち、最強の独立自治区を作る上で避けては通れない道だ。当面は独立自治区の戦力と防衛力の向上を目標に動いていこう」
俺の言葉を聞いた『地獄骸』が「そういえば」と何か思い出したように呟いた。
「防衛力といえば、さっき城の正門でレーナさまが下級モンスター数匹と共に、何かを作っているようでしたな」
レーナの名前が出た時点で、俺の表情がさらに苦くなる。
「えー、なにそれ。絶対良くないこと起こるやつじゃん。あいつ、上機嫌だった?」
「上機嫌でしたな」
「なんか面倒が起こると思わない?」
「思いますな」
『地獄骸』とのやりとりで、俺はさらにため息を重ねる。
「召喚主よ。こういう時こそ、王座の機能を活かすべきですぞ。その戦略考案魔法具は付近の特定人物を検索することも可能です」
「そうだな。やってみるか。検索――『レーナ』」
俺があのバカ娘の名前を口に出すと、流れ続けていた王都の映像の代わりに、暗黒城の入り口にいるらしいレーナが映し出される。
確かに『雑魚死後』たちと一緒に正門に何かを掲げている――と、その正体に気づいて、俺はバッと前のめりになった。
のほほんとした笑顔でレーナが暗黒城正門の上に掲げたのは、骨で作られた大看板。
そしてそこには、『歓迎! 話題の魔王さま、ここにいます!』とでかでかと彫ってあった。立派な看板を掲げたレーナと『雑魚死後』たちはふーっと額の汗を拭い、満面の笑みを浮かべて、
「これでよし!」
「これでよしじゃねええええええええ!!!!!」
あいつのおバカぶりを舐めていた。この時期にあんな挑発的な看板を立てたら、敵襲を歓迎しているようにしか見えない。
俺はその光景を見るなりすぐに、おバカ娘のところへと全速で走っていくのだった。
配下モンスターは一人もいない。ただ俺だけが王座に深々と座り、沈黙を貫いている。
そして、しばらく黙っていた俺は――
「はぁぁぁぁぁ…………」
――肩を落とし、深い深いため息をついた。
アルギア召喚宮殿を襲撃し、無事に『地獄骸』を再召喚した次の日のことだ。
ため息の原因はいくつもある。
いくつもありすぎて、俺の口から漏れるため息は止まることを知らない。
俺はテンションの低い表情で無駄に高性能な王座の両方の手もたれのボタンをいくつか操作する。すると、遥か遠くの映像が眼前に大きく投影された。
ちなみに『邪神剣』とはお互いの了承があれば分離できるため、今は俺の左手から離れている。戦闘になった時に呼べば、再び現れるだろう。
投影されたのは、ルフェリア王国アルギア召喚宮殿前の映像だ。
そこには宮殿に押し掛ける大量の野次馬と飛び交う大量の号外新聞。
手元を操作して映像を号外新聞の一面が映るように拡大してみれば、「ついに魔王復活か!? アルギア召喚宮殿襲撃事件!!」という見出しがデカデカと躍っている。
至る所に血が飛び散る非常に凄惨な現場とは裏腹に、負傷者が極端に少ないという謎の事件として王国が調査に乗り出したようだ。
傷つけた文字召喚術師たちは出来る限り、治療しながら逃げ帰ってきたとはいえ、その痕跡や被害を受けた召喚術師たちの記憶まで消す余裕はなかった。
となれば、こういう結果を招くことは容易に想像できる。
「はぁぁぁぁ……これは王国とも敵対することになるだろうなぁ……」
冷静になった今となってはもう少し隠密に侵入するとか、もっと騒ぎにならない特性を持ったモンスターを召喚するとか、再召喚アイテムを効率的かつ穏便に手に入れる方法があった気がするが、今更後悔した所で遅すぎた。
と、俺がそんな風にため息をついていると、バン! と両開きの大扉が激しく開かれ、一つの影が王の間に駆け込んでくる。
それは今回の騒動の原因となった側近。
「どうした、『地獄骸』」
俺が少し高い場所にある王座から見下ろすと、『地獄骸』は目を輝かせて、手に持ったものを見せつけてきた。
「ご覧ください! 召喚主の活躍が書かれた新聞が王都に出回っておりましたぞ! これで名実ともに召喚主が魔王であると民衆にも伝わりましたな!」
「……あー、もうそれ見せないで。頭痛くなる」
『地獄骸』は誇らしげに八本の手全てに忌まわしき号外新聞を持ち、ひらひらと元気よく見せてくる。再び召喚出来たことは素直に喜ばしいが、実際、王都の反応には困っているのだ。
「それで……頼んでいた仕事はちゃんと果たしたか?」
俺がそう問うと、『地獄骸』は顔を引き締めて頷く。
「はっ。召喚主のご命令通り、ギルダム中央村に存在する転移ゲートの破壊は問題なく完了致しました。これはその際にこっそりと王都側から持ってきた戦利品でございます」
と、『地獄骸』はまた号外新聞を見せてこようとしたので、俺は「見せんでいい」と手でそれを制した。
「転移ゲートさえ破壊してしまえば、しばらくは王国からいきなり大量の兵が押し寄せたりすることにはならなそうだな。時間稼ぎにしかならないとは思うが……」
「ギルダム独立自治区を囲むように巨大な防衛壁を作るべきでしょうな。ルフェリア王国にせよ、アルガリンガン帝国にせよ、我らの領地の脅威となるものは未だ大量に存在します」
「仕方がない。どのみち、最強の独立自治区を作る上で避けては通れない道だ。当面は独立自治区の戦力と防衛力の向上を目標に動いていこう」
俺の言葉を聞いた『地獄骸』が「そういえば」と何か思い出したように呟いた。
「防衛力といえば、さっき城の正門でレーナさまが下級モンスター数匹と共に、何かを作っているようでしたな」
レーナの名前が出た時点で、俺の表情がさらに苦くなる。
「えー、なにそれ。絶対良くないこと起こるやつじゃん。あいつ、上機嫌だった?」
「上機嫌でしたな」
「なんか面倒が起こると思わない?」
「思いますな」
『地獄骸』とのやりとりで、俺はさらにため息を重ねる。
「召喚主よ。こういう時こそ、王座の機能を活かすべきですぞ。その戦略考案魔法具は付近の特定人物を検索することも可能です」
「そうだな。やってみるか。検索――『レーナ』」
俺があのバカ娘の名前を口に出すと、流れ続けていた王都の映像の代わりに、暗黒城の入り口にいるらしいレーナが映し出される。
確かに『雑魚死後』たちと一緒に正門に何かを掲げている――と、その正体に気づいて、俺はバッと前のめりになった。
のほほんとした笑顔でレーナが暗黒城正門の上に掲げたのは、骨で作られた大看板。
そしてそこには、『歓迎! 話題の魔王さま、ここにいます!』とでかでかと彫ってあった。立派な看板を掲げたレーナと『雑魚死後』たちはふーっと額の汗を拭い、満面の笑みを浮かべて、
「これでよし!」
「これでよしじゃねええええええええ!!!!!」
あいつのおバカぶりを舐めていた。この時期にあんな挑発的な看板を立てたら、敵襲を歓迎しているようにしか見えない。
俺はその光景を見るなりすぐに、おバカ娘のところへと全速で走っていくのだった。
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