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第70話 看板を抜くこと、それこそ彼らの存在意義(レゾンデートル)

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 看板を抜く。

 言葉にすれば簡単だが、その圧倒的な数の前に俺は絶望していた。

「レーナのやつ、どうやってこんな量を……」

 見渡す限りの広大な草原には数十を超える看板を撤去した今でも、膨大な数の看板が観光客の目印としてその存在を主張していた。

「レーナさまと下級モンスターである『雑魚死後』のみでは到底不可能でしょうな。他のモンスターも手伝っているのでしょう。レーナさまはお助けしたくなるオーラをお持ちですから」

『地獄骸』の正確な分析に俺は頷かざるを得なかった。

 あいつが涙目で困っていたら、手を貸すモンスターもいるだろう……。だが、それこそが罠なのだ。

そうして、俺の配下たちはレーナのおバカスパイラルに巻き込まれ、そのせいで暗黒城観光地化計画が着実に進みつつある。

「あとで配下のモンスターたちには、今後レーナに不用意に手を貸さないようきつく言っておかないとな……」

 俺はげんなりとしていると、『地獄骸』は一つ提案してくる。

「召喚主の御能力にて、看板を抜くことに特化したモンスターを召喚してはいかがでしょう?」

「それは考えた……だが、冷静になってくれ。自分の存在意義が看板を抜くことなんていうモンスターは可哀想すぎないか……?」

 俺は真面目な顔で『地獄骸』に問う。

「しかし、このままでは明らかに人手が足りません。文字召喚されたモンスターはそこに記述されたことが己の全て。ですから、看板抜き専用モンスターとはいえ、己の存在意義に疑問を持つことはないかと」

 そう言われてしまえば、拒否する理由もない。
 なんとなく可哀想だが、ここは力になってもらおう。

「うーん……仕方ない。なら、ここで文字召喚を行う」

 俺は草原のど真ん中で集中するように目をつむり、魔法筆記具と羊皮紙を手元に呼び出す。
 そして、いつものようにモンスター設定を書き込んだ。

「それじゃあ、行くぞ……!」

 俺が文字列を指でなぞると、羊皮紙が光り出し、その光の中から数体の小柄な二足歩行モンスターが出現する。

俺は左腕に表示されたクリエイトゲージをちらりと確認するが、ほぼフルメーターの状態を維持していた。つまり、それほどコストの低いモンスターだということだ。


『看板ゴブリン』D級

 レーナの看板を抜くために生まれた邪精霊。小鬼の形を取っており、その両手の強い握力は看板を容易く引き抜くことが可能である。看板を抜く時にだけ移動高速化を行うことができ、レーナの設置した看板はあっという間に抜き取られるであろう。


「すまんな、看板ゴブリンたち……こんな文字召喚の仕方をしてしまって……」

 と、俺は悲哀に満ちた目で目の前の小鬼たちを見つめる。が、本人たちのテンションは俺が思っていたものとは違った。

「いえーーーーい!! 見ろ、大量の看板が抜けるぜ!」

「大量の看板がオレたちを待っている!」

「召喚主さま、今すぐにでも抜き始めていいっスか!!」

 謎のやる気に満ちていた。
 いや、もちろんありがたいんだけど、その看板抜き欲に若干ビビる。

「お、おう……行ってきてくれると助かる。何かしらのお礼を暗黒城に戻ってからしてやるからな」

「おっしゃあーーー! じゃあ、手分けしていくぞ! お前らー!」

「おおおおおーーー!!!」

 謎の高揚テンションと共に、ものすごい速さで全方向に散らばり、看板を抜き出した『看板ゴブリン』たち。

 彼らは看板を抜くことに命を懸けている。

 ……なんかこれからは深く考えないで文字召喚してもいいんじゃね?

 と、内心思う俺だった。
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