チキンライスは恋の味

谷地

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「ごめんね、待たせちゃった」「それは全然構わないんですけど…」

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「ごめんね、待たせちゃった」
「それは全然構わないんですけど…」

僕の仕事が終わるまで近くのカフェで待っていてくれた中野くんは、不思議そうに僕を見ていた。

僕の頭も彼がいないお店で働いたおかげかだいぶ冷静になっている。

そう、冷静だったはずなのに彼の顔を見ているとまた胸がドキドキして苦しい。

ただでさえ、僕を一途に応援してくれた彼への好感度は高かった。
そこに、トキメキが加わってしまったのだ、好きが爆発するのなんて一瞬に決まっている。


「もしかして、この間の男がまた絡んできましたか?」
「えっ、違うよ?どうして?」
「それ以外、いっちーが僕にお願いすることなんてないじゃないですか」
「…あるよ」
「なんですか?」

そっと、前髪をかきわけて眼鏡に手をかける。

ゆっくりと外すと、僕を心配そうに見つめる瞳と目が合う。

ずっと、この瞳に会いたかった。

「好き…」

本当は告白するつもりなんてなかった。
だけど、こうやって素顔の彼を見たら止められなかった。

「…」



無言の時間が続いた。



もしかして告白が嫌だったのかもしれない。中野くんがピクリとも動かなくなって辛くなる。
でも、当たって砕けろ、だ。

どんな結果になろうとも僕は答えが欲しい。


「…中野くん、あのね僕…」
「………っ」


話し出した僕の声で意識が戻ったのか、
中野くんが一拍おいて、みるみるうちに真っ赤に変わった。口に当てた手さえも真っ赤だ。


「…好きなの、中野くんが」
「うっ…、可愛い」


これは押せばいけるかも。


こてんと、首を傾げて中野くんを下から見上げると、彼は更に小声で呻いた。
その仕草と声が何故だかひどく愛おしく感じる。

「中野くん、好き」
「あぁぁぁ…そんな顔卑怯です」
「どんな顔?」
「可愛い顔…」


手に持った眼鏡をくるくる回して彼へ問いかけた。
中野くんは落ち着かないのか、眼鏡をずっと追いかけるように見つめている。


「中野くん…僕のこと、好き?」
「……僕はいっちーのファンだから当然です…」
「じゃあ付き合って?」
「破壊力やばい…」
「ね、だめ…?僕のこと嫌い?」
「そんなわけないです!いっちーのこと嫌いなんてあり得ないです!!」

大声で否定してくれたことにずるい僕が安心する。

彼が僕を嫌いじゃないことなんて、僕が1番知っていた。
恋ってやっぱり人をおかしくさせる。

このまま押し切っちゃえばこっちのものだよ、と誰かがまた僕の耳元で囁いた。


「じゃあ、好き?」
「もちろんです!」
「じゃあ、付き合って?」
「はい!…って」

…押せばいけちゃった。

ちょっと無理矢理だったかもしれないけど、中野くんが悪いと思う。
真っ赤な顔で僕を煽るから。


「ふふふ、今日からよろしくね?」
「…ほんとに、ほんとにいいんですか?」


「………中野くん、ほんとは嫌なの?メイドじゃない僕は嫌?」
「嫌じゃないです!…メイドじゃなくてもいっちーのこと、好きです。

多分、太一さんが思っているよりずっと僕は好きです。だってずっと見てきたんです。太一って名前も太一さんが教えてくれる前から知っていたし、正直言うと貴方のことで知らないことがないくらい好きです。でも、あの、ほんとに僕が天使と付き合ってもいんですか…?」

「うん…ちょっと気になることを言われた気がするけど…僕を貰って?」
「その言い方は…ずるいです。まるで全部貰えるって勘違いしちゃう…」
「勘違いじゃないよ、僕を全部あげる」

「うぅ…ほんとずるい」






「ね、中野くん?僕のことこれからも推してくれる?」
「もちろんです…でも嫉妬しても怒らないで下さい」

僕が手に入ったら僕を所有したがるなんて、どれだけ僕を喜ばせたら気が済むんだろう。

きっと僕も中野くんもちょっとずつどこかがおかしい。

今だって、真っ赤な顔のまま僕を抱きしめる彼に満足している僕がいる。
彼も、天使だと僕を崇めながらも僕を抱きしめる腕は欲望の色が隠れていない。


僕の手から彼の眼鏡が地面へ落ちたのが先か、僕と彼が恋の底に落ちたのが先か、それはもう僕たちには分からなかった。



狂った恋はチキンライスの味がした
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