英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

文字の大きさ
7 / 52
夢魔討伐編

第7話

しおりを挟む
 ハルピュイアの討伐後――フォルテムは言葉の通り私の待遇を良くしてくれた。
 しっかりとした一人用の天幕に、木材と獣の皮で作られた簡易的な寝台、若干凍った甘味。そして、口うるさい者たちへの対処。
 うん、充実している。
 特急で作ってくれたからか隙間風が酷いけど、彼等も故郷を追われ、それを取り戻すための戦いの真っ最中。これ以上贅沢は言えない。
 ちなみに、私以外で個人的な天幕を用意されているのは一部の特権階級の者や王族だけだったりする。私への批判が凄いことになっていそうだ。
 静かにフォルテムに黙祷を捧げる。

 天幕の中で細剣レイピアの手入れをする。
 綺麗に怪物の血肉を落としておかなければ切れ味は落ち、戦いの際で万が一が起こるかもしれない。
 ベリスやブリュド大陸に生息する怪物とは違い、ここ氷結大陸では寒さを凌ぐために脂肪の厚い怪物が多かった。昨日のハルピュイアの女王種もそうだ。
 いつも以上に念入りに手入れをしておかないと直ぐに切れ味が落ちてしまいそうだ。

「……戦いが長引いている時に切れ味が落ちてくるかもしれないな。予備の剣を持っていた方が良いか?」

 そんなことを考える。
 思い出せば、他の戦士やフォルテムも腰には本来使用するものとは別の剣や手斧などを持っていたな。
 しかし、そんなことをしたら私の速さを殺すことにならないだろうか。う~ん、悩みどころだな。取り敢えず、武器だけは見てみよう。
 結局ジョクラトルが持っている剣についても聞けなかったが、その際に聞くことができるかもしれない。何なら、あの珍しい剣のようなものが見つかるかもしれない。
 良いものがないかフォルテムに聞いて見ようと考える。

 フォルテムと言えば、結局姫君との関係を喋ってはくれなかったな。
 話を逸らすためか私が三日で解放された理由やハルピュイアの討伐に急遽駆り出された本当の理由を聞かされたが、私にとっては既に過ぎたこと。
 疑いを持たれていたことは不満だったが、そこは謝ってくれたし、他の者たちへの対処もしてくれている。もう怒りはない。
 だけど――。

「もう少し揶揄いたかったな」

 遊ぶ、とまではいかないが、只人族の姫君との関係を突けば面白いぐらいに反応があるのだ。
 あの反応を見るためにももう一度話題に出したいぐらいだ。
 だが、それを警戒してかフォルテムは私から距離を取っている。ちくしょうめ。

「リボルヴィア! ここにいるかい!?」

「…………」

 外から聞こえて来た声にげんなりとした表情を作る。
 聞き間違えるはずがない、ジョクラトルの声だ。

「こんな場所に一人で可哀想に。クソッフォルテムの奴め。俺と君を引き離すためにこんな手段に出る何て。だけど、もう大丈夫だ。こんな寂しい所に一人でいる必要はない。僕の天幕に来たら良い。大丈夫、問題は全て僕が片付ける」

 お前そのものが問題だ馬鹿野郎。
 思わずため息が出る。
 彼の頭の中で私はどういう立場なのだろうか。悲劇に見舞われたヒロインか?だとしたら残念だな。私は叔母曰く魔王らしいぞ。

「聞こえているかいリボルヴィア? まさか、縛られているのかい? クソッフォルテムの野郎許せない!」

 そんな訳ないだろ。
 馬鹿馬鹿しい妄想に頭が痛くなる。だが、このままではいけない。あのジョクラトルのことだ。助けるためとか言って天幕の中に侵入してくることは十分考えられる。
 個人の天幕と言っても、一人用の天幕。立っている時も腰を曲げなければ頭をぶつけるような大きさの天幕だ。
 そこに妄想少年と閉じ込められるなんて真っ平御免だ。
 手入れしていた細剣を装備して入口とは逆の方向から脱出する。そして、ジョクラトルに気付かれない様にそっとその場を離れる。
 案の定、ジョクラトルは助けるためと言って天幕の中に入り、私の姿がないことに驚いていた。

「全く、フォルテムに文句を言っておかなくては」

 私が一番近づいて欲しくない人が天幕に来たぞ。そうフォルテムに伝えに行こうとフォルテムの天幕に足を向ける。
 彼もまた個人の天幕を持っている者の一人だ。(貰ったのは最近だったらしい)
 場所は以前教えて貰った。

「確か、こっちだったかな――!?」

「きゃ!?」

 のんびりとしながら歩いていたこともあってか、天幕の影から飛び出して来た人物とぶつかる。
 戦いの場ではないからこその油断。
 脆弱な森人の肉体では人一人の体当たりに耐え切れず、押し倒される。

「――ったいな!」

「ご、ごめんなさいってあなたは――」

「ん?」

 いきなりぶつかって来た人物を見上げ、驚く。
 私にぶつかって来たのは、只人族の姫君だった。
 息がかかるほどの近い距離。思わず、互いに視線を絡め合わせ――って何を考えているんだ私は。

「取り合えず、どいてくれるか?」

「え、あ、申し訳ございませんっ」

 立ち上がり、外套に付いた雪と土を払う。

「そんなに慌てて何処へ行くのだ? 只人族の姫君」

「わ、私はその……」

「姫ぇ!!」

 まるで何かから逃げるかのように落ち着きの無い姫君を見て、問いかける。
 言い淀む姫君だったが、遠くからフォルテムの怒声が聞こえてきたことでビクリと体を震わせた。
 なるほど。本当に逃げているようだ。

「フォルテムから逃げているのか?」

「うぅ……だって、無理やり会議に参加させようとするんだもん。私には他にやることがあるのに……」

「やること?」

「えぇ、剣の修業をするの」

 そう口にして姫君は手に持っていた剣を見せて来る。
 これ、姫君の腕で振り回すのは無理じゃないか。かなり重量があるぞ。

「姫ぇ!! 何処にいる!?」

「不味い、ちょっと通して!」

 近づいてくるフォルテムの声。
 慌てて姫君が剣を抱えて隣を通り過ぎていく。私はそれを見届け、少し考える。

「フォルテムには悪いけど、こっちの方が気になるな」

 あの姫君がどういった理由で剣の修業をしようとしているのかが気になり、剣を抱えて岩陰へと消えた姫君を追う。
 切り立った崖の上に造られたこの隠れ場所に人目を避けられる場所は少ない。一体何処に行ったのか。
 足跡を辿ると壁に張り付いて通らなければならないほど細い足場へと足跡が続いている。嘘でしょ。あの姫君中々アグレッシブだな。
 見た所、足場は下へと続くようになっている。もしかしたらここは強襲を受けた際の逃げ道なのかもしれない。
 軽く足場を蹴る。数秒の浮遊感を味わい、下に降りると案の定、姫君がいた。
 上から人が降って来るとは思っていなかったのか、ポカンと間抜けな表情をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...