英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

文字の大きさ
12 / 52
夢魔討伐編

第12話

しおりを挟む
 城壁の外で魔人族の目を引き付けていると大きな爆発音が立て続けに響く。
 それを聞いて最も早く行動したのはフォルテムだった。

「全軍、突撃準備!!」

 軍の大部分を後方に待機させていたが、それすらも突撃の準備をさせてフォルテムは部隊の中央へと移る。そして、私の名を呼んだ。

「リボルヴィア!!」

「了解っと!」

 皮袋を投げ捨てフォルテムの元へと走る。
 私がフォルテムの元に辿り着く頃には固く閉ざされていた城壁の門が開きかけていた。魔人族は何が起こっているのか未だに把握しておらず、戸惑っている。好機だ。

「私が前にいなくて大丈夫か? 一番前は強い奴の方が良いだろう?」

「問題ねぇよ。前にはジョクラトルを配置してる」

「え?」

 その言葉を聞いて一気に心配になる。
 ジョクラトル、悪い奴ではないが鬱陶しい少年だ。剣術も中の下。一番激しく敵とぶつかり合う前衛が務まるとは思えないが……。

偽剣ぎけんがあっても難しいと思うが……」

「偽剣? 何だそりゃ」

 独り言にフォルテムが反応する。
 偽剣とは、フォルテムの持っている魔剣の劣化品のことだ。毎回魔剣の劣化品と言うのも長いので簡潔に偽剣と私が勝手に言っている。

「あの偽の魔剣のことだ。姫君から聞いた。あれは魔剣を元に造られた劣化品だとな。だから勝手に偽剣と呼んでいるだけだ」

「へぇ、なるほど。偽剣ねぇ。あれ自体が珍しいから名称なんてものはなかったが、良いじゃねぇか。俺もそう呼ばせて貰おう」

 勝手に偽剣という呼び名が広まった。まぁ、別に良いんだけど。

「それは兎も角、良いのか。ジョクラトルで」

「ふん、問題ねぇよ。偽剣もあるんだ。そう簡単には死なねぇよ。雑魚は簡単に蹴散らしてくれるはずだ」

「だが、それ以上の敵が出てきたらやられるぞ。間違いなく」

「それで良いんだよ。強い奴が釣れるなら、こっちの狙い通りだ」

 そう口にしてフォルテムがほくそ笑む。
 なるほど、そういうことか。

「つまり――ジョクラトルは餌か」

「その通り。精々派手に立ち回って貰おうぜ」

 派手な技を繰り出すジョクラトルが前衛で、そこに直ぐに辿り着ける距離には強部隊がいる。
 つまり、ジョクラトルに釣られて出て来た敵を討ち取っていくという作戦か。納得した。

「フォルテム」

「何だ?」

「ジョクラトルを囮にすることは理解した。理解した――が」

 そう口にしつつ、私は後ろを振り返る。

「何故、ここに姫君がいるんだ?」

「…………」

 そこにはさも当然と言った様子でラウルスティアがいた。背中には矢の入った矢筒、手には弓がある。
 フォルテムが目元を抑える。

「いつの間にかいたんだよ。危険だって言っても帰らねぇ。どうにかしてくれ」

 どうにかしてくれって。私がどうにかできる訳ないだろう。付き合い何て数週間程度だぞ。仲は良いとは思うけど。

「姫君」

「はい、何でしょうかリボルヴィア殿?」

「何故こんな所にいるのだ? 私たちは今から交戦するんだ。離れていた方が良い。戦いが終われば、呼ぶ。それまでは護衛と共に隠れているんだ」

「それはできません」

 フォルテムが言わないのならばと警告するが、キッパリと断られる。
 ふざけているようならば怒ることも必要だと思っていたが、ラウルスティアはふざけている様子ない。
 笑顔から一転して硬い表情を作る。

「兄は戦場で生きたまま引き摺られて死にました。父は無理やり首を引き千切られ、母は男共に慰みものにされた後、嬲られ、弟は黒い矢で射抜かれ、私の腕の中で死にました。それもこれも全ては魔人族のせい。。どうか、連れて行って貰えないでしょうか? そうでなければ、私は一生あの夜から抜け出せなくなる」

 怒りがあった。憎悪があった。そして、決意があった。
 まだ、彼女は国を失った失意から抜け出せていないのだ。
 街をただ取り戻すだけではだめだ。全てを奪った魔人族を、そしてその首魁の死を見届けて。そこでようやくラウルスティアは動き出すことができる。
 これは無理だと悟る。

「それに、万が一の場合はこれで私も戦います。こんなこともあろうかと矢に猛毒を塗って来たんです。0.1gで大型怪物が動けなくなるような代物ですよ!」

「分かった。フォルテムの傍を離れるなよ」

「あら、リボルヴィア殿は守ってくれないのですか?」

「私の剣は守る剣じゃないからな。敵を殺すことしかできない」

 フォルテムが小さく舌打ちをする。
 そんなに危険な場所に連れて行くのが嫌なら無理やり拘束しておけばいいのに……それをすると不敬罪か。

「門が開いたぞォ!!」

 門が開いた瞬間、ジョクラトルの偽剣の炎が上がったのが目に入る。
 戦士の雄叫びが空気を震わす。
 門から中へと一気に雪崩れ込んだ戦士たちと魔人族の剣戟の音が上がり始める。

 ジョクラトルの偽剣の力もあってか、進む速度は落ちていない。
 魔人族がその体で壁を作ろうとも偽剣の力で突破される。
 良い流れだ。
 戦力差のある相手と戦う場合、時間を掛けるのは悪手。最速で敵の頭を奪るのが正しい。

「さぁ、皆僕に付いて来い!! こっちだ!!」

「んな訳ねぇだろ。こっちだこの馬鹿!」

 ジョクラトルが先頭で剣を掲げ、間違った方向へと導こうとしている。
 周囲にいるのはフォルテムと同じく歴戦の戦士たちなので、鼓舞の意味はない。何より間違った方向へ行こうとしているので全員が冷たい視線を向けている。
 だが、フォルテムの作戦通りちゃんと囮としては機能している。
 偽剣の炎が目立つのだろう。
 魔人族は真っ先にジョクラトルを狙おうとする。しかし、ジョクラトルを意識しすぎて横っ腹を開けすぎている。その隙を他の部隊が横から食い破り、ジョクラトルを守る。
 結果として進軍は止まることなく、進み続けることができていた。

「この慮外者共め!! 正々堂々と戦うこともできぬ卑怯者がッ。この俺が歌姫に変わり成敗してくれるわッ!!」

 ジョクラトルの進む先に一人と魔人族が姿を現す。
 手には戦斧を持ち、慌てて出てきたのか鎧も身に着けていない。それどころか半裸の状態だ。

「ッ何が、正々堂々だ――聞いたかニクスの民たちよ!」

 男の言葉を聞いて真っ先にラウルスティアが反応する。

「今、彼奴が卑怯と我らを罵ったぞ! 闇に乗じて来たのは誰だ。真っ向から闘おうとしなかったのは誰だ。戦士ですらない者まで巻き込んで戦ったのは誰だ!!」

 戦士たちが発する熱気が高まる。
 何を考えているのか、怒りに満ちた表情を見れば簡単に予想できた。

「言うまでもない。目の前の奴等だ。戦士たちよ。答えよ。そんな奴等を何と呼ぶ!!」

「「「「「卑怯者だ!!!!」」」」」

「そうだ。その通りだ。己を棚に上げて我らを卑怯と罵る。そんな厚顔無恥共に情けを掛ける必要はない。戦士たちよ! 本当の戦いというものを真の卑怯者に見せてやれ!! お前たちは強者に刃を向けたのだと鋼を以てその身に刻んでやれ!!」

 より一層大きくなった戦士たちの雄叫びが大気を震わせる。
 ラウルスティアの鼓舞に力を漲らせた戦士たちが魔人族を蹴散らす。

「鼓舞までできるようになっているとは、姫君には驚かされる」

「怒りのままに叫んだだけです」

 ラウルスティアが謙遜する。
 怒りを抑えようとしているのか、鼻息は荒い。

「俺はそんなことやって欲しくなかったがな。急に台に飛び乗った時は何をするのかと思った」

「うぐッ」

「それは確かに私も思った。矢で射られていたら、もうそこで私たちは終わっていたぞ」

「うぅっリボルヴィア殿まで……」

 私とフォルテムの指摘にラウルスティアが項垂れる。
 確かに鼓舞は良かった。だが、一人目立つようなことはしないで欲しい。
 ラウルスティアは象徴なのだ。
 弓兵がいなかったから良かったものの、狙われて死んだらこの戦いそのものに決着が付いてしまう。

「リボルヴィア……俺たちはこれから港を占拠する」

「港? 城ではないのか?」

 目的地が城ではなく、港と聞いて首を傾げる。

「あぁ、俺たちの戦力では敵の大将には勝てないからな。だから、最初から港を占拠して船を奪取、バリスタによる街の破壊。もしくは船を使えなくすることだけを考えていた。殺せなくてもあいつらの妨害をするためにな」

「考えていた、ということは今は違うんだな」

「あぁ、欲をかかせて貰う」

 一呼吸置いてフォルテムが口を開く。

「城にいる敵の大将をお前が討ち取って来て欲しい」

「問題ない。了解した」

 少数で敵大将を討ち取って来い。
 その要望に私は笑みを浮かべて返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...