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夢魔討伐編
第16話
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倒れたリボルヴィアにメトゥスが歩み寄る。
止めを刺すつもりだと確信した私は矢を番え、弓を引いた。
「彼女から離れて!!」
メトゥス目掛けて矢を放つ。
それを鬱陶しいと言うように払いのけ、そこで初めてメトゥスは私と言う存在を認識した。
「何だ貴様……あぁ、元王女か。家族は元気か?」
「私の家族を奪ったのは貴様だろう。侵略者」
腹の底からどす黒い感情が溢れ出て、思わず声が低くなる。
「ククッ確かにそうだったな。忘れていたわ。それで? ここに何をしに来た?」
「そんなの決まっている。貴様を倒しに来たんだ」
「お前如きが私をか。宮廷でぬくぬくと育って来た甘ちゃんが、実力差も分からずに言うじゃないか」
その言葉に私は何も言い返せない。
殺したい。目の前の怨敵を。
だが、矢を放った瞬間に私は殺されるだろう。
憎悪に燃える心を落ち着かせる。
相手は蒼級の剣士で私は剣士でも戦士でもない。戦えば一瞬で殺されるだけだ。この敵を殺せる可能性があるのはこの場に一人だけ。
矢を引き絞りつつ、チラリとリボルヴィアを見る。
胸元は僅かに上下している。死んでいる訳ではない。少し、安心する。
「どうやってここに来た。私の歌で全員が夢を見ているはずだろ?」
「あの悪趣味な夢は貴様の仕業か。あんなの真正面から打ち破ったよ」
「何だと?」
私の言葉にメトゥスの目が僅かに細くなる。
あれにはかなりの自信があったのだろう。それを戦士でもない私が打ち破ってきたことが信じられないようだ。
「小娘如きに打ち破られるものではないのだがな。まして守られることしかできないお姫様には到底不可能だ」
「簡単とは思わなかったわ」
簡単ではなかったが、不可能ではなかった。
心にくるものがあったが、新たな決意を抱くこともできた。
「少しだけ、感謝をする」
「はぁ?」
唐突な感謝の言葉にメトゥスが困惑した表情を作る。
当然だ。敵対中の相手から感謝の言葉を突然投げられたら私だって困惑する。
だけど、説明何てしてやらない。偽りでも生きていた家族に会えたことは嬉しかったが、目の前の魔人族は怨敵に変わりないのだ。
「意味が分からない奴だ。頭でも可笑しくなったのか?」
「勝手に解釈していろ。私のけじめはもう終わったからな。後は貴様を倒すだけだ」
「ふん、できるはずがないだろう。あの森人と一緒ならばまだ可能性はあっただろうが、お前一人では到底不可能だ」
「デカい口はあんまり叩かない方が良い。恥を掻くことになるわ。到底不可能だと思っていた小娘が貴様の悪夢を打ち破ったのよ。何故、貴様を倒すことも不可能ではないと考えない?」
「あら、面白い」
メトゥスが笑みを浮かべ、消えた。
「グッ!!?」
腹部に蹴りを入れられ、地面を転がる。
喉に何かが詰まるのを感じ、口から吐き出してみればそれは血だった。
「調子にのり過ぎていると自覚したか? 夢を打ち破ったからなんだ。まだ私にはこれまで積み上げていた武術がある。女を捨て、剣士として、ひたすらに積み上げて来た技をお前如きが破れると?」
無理だ。
さっき倒すことも不可能ではないと口にしたけど嘘に決まっている。ただの挑発だ。
ギラリと光る刃を突き付けられる。
「ふん、強がりも言えなくなったか。だが、良いのか。口を閉じてしまって? お前の魂胆は分かっている。あの森人が目を覚ますまでの時間を稼ごうとしているのだろう?」
バレた。
体を硬直させる私を見てメトゥスはニヤリと笑みを浮かべる。
「腹芸もまだまだだな。命のかかった芝居は初めてか?」
「…………」
「良いことを教えてやるよ世間知らずのお姫様。森人族は打たれ弱いんだ。だから、当分は目を覚ますことはない」
「それは初めて知ったわ」
リボルヴィア、そんな弱点を隠していたのか。
力がないとは聞いていたが、打たれ弱いとは聞いていなかった。
「ククッ良い勉強になっただろう? では、お代を頂こうか。そうだな。お前の骨で払って貰おう」
そう口にしてメトゥスは戸惑いなく私の腕を足で踏み、骨をへし折った。
絶叫が広場に響く。
「ッッッ~~」
痛い、痛い、痛い、痛い!
これが骨が折れる感覚。傷を負う感覚。
こんな痛みを戦士たちは味わっていたのか。
頭が可笑しくなってしまいそうだ。でも――。
「へぇ、まだ私を睨み付ける元気があるのか。なら、残りの代金も払って貰おう」
腕に続き、足、脇腹と折れる骨を折って来るメトゥス。
耐える。耐えるしかない。一矢報いるまで私は気を失えないッ。
「よく耐えるな。お姫様。まさか、森人が立ち上がってくると思っているのか? あの深手で?」
「さぁ……そうかもしれない、わよ」
「希望的観測だな。私は森人も相手をしたことがあるんだ。その時も一太刀入れたら死亡したよ」
「でも……その人は、リボルヴィアじゃない」
「同じ脆弱な森人族だよ。大森林の奥でひっそりと過ごし、魔術を極めていれば良いのに外に出て来た分相応にも剣を持つだなんて。剣士を舐めるからこうなるんだ」
「私たちを舐め過ぎですよ。その油断が命取りになる。そうですよね、リボルヴィア?」
「あぁ、よく時間を稼いでくれた」
「あ?」
メトゥスが後ろを振り返る。
やっぱり、そうだった。ちゃんと立ってくれた。
彼女は打たれ弱いと言うことは教えてくれなかったけど、別のことを私に教えてくれていた。
貴族たちとの交渉で国中を走り回っている道中、リボルヴィアは私を庇って傷を負った。その時に彼女は尋常じゃない回復能力を見せてくれたのだ。
「ふん、立ち上がったからどうなのだ。この状況を見ろ。お前が動けばこの女の首が飛ぶぞ」
「彼女を甘く見過ぎだ。あなたの足元に転がっているのは小動物じゃない。竜だと思った方が良い」
「下らん。竜だとしても私の敵じゃないんだよ」
また、油断だ。
油断が命取りになると言ったばかりなのに。でも、しょうがないのかも知れない。
だって、メトゥスはリボルヴィアにも、私にもまだ牙を立てられたことがないのだから、危険だと言う認識すらできていない。
それが誘導されたものだとも分からずに。
矢の先端を折り、メトゥスの脹脛に突き刺す。
突然のことに驚いたメトゥスが私を斬りつけようとするが、視線が外れた瞬間にリボルヴィアが地を蹴り、私からメトゥスを引き剥がす。
「遅いですよ。リボルヴィア」
「すまないな。だが、後は任せろ」
頼れる友人の笑顔を見て、安堵の息を吐く。
今度こそあの怨敵を殺してくれるだろう。
安心して私は意識を手放した。
祝福を受けているのか。
最初に口にしたのはデレディオスだったか。
その前にも似たようなことを言っていた気がするが。何だったか。確か、輝力の流れに淀みを無くす修行をしている最中だったか。
修行、といっても規則正しい生活の調整を受けているだけなのだが。
異様に流れに淀みがなくなるのが早い。誰かの後押しでも受けているのか。
そう言っていた気がする。
気にはしなかった。私を後押ししてくれる何て母様かデレディオスだけだ。母様は生きていないし、デレディオスに心当たりがないのなら他の誰でもないだろう。
だから、気にしなかった。
でも、闘人族の里で祝福というものについて考えさせられることになった。
二段目――闘人族の蒼級戦士が集う段を切り抜ける時、私は何度も死にかけた。肉体の一部をごっそり抉られたこともある。
当然ながら、そんな傷を受けて私が無事で済むはずがない。
意識を失い、倒れそうになった。
そして、戦いの際中に敵を待つ何てことは闘人族はしない。
デレディオスの弟子だからと倒れていても全身全霊で殺しに来た。
血を流し、肉を抉られた半死人が、闘人族に囲まれる。普通に考えればそいつは死ぬと考えるだろう。私だって考える。
だけど、死ななかった。
意識が朦朧としていた私は分からなかったが、それを見ていた闘人族の長――ウァーレンスが後から語ってくれた。
――お前は失った箇所を自ら復元させたのだ、と。
輝術を使った様子はなかった。私の意識は殆ど飛んでいた。にも関わらず、肉体が勝手に元に戻った。私の体には傷が付かないのが当然とでも言うように。
私の戦人流『闘人鎧』を見てウァーレンスは続けて語った。
――お前がそれを使用する際の輝術の流れは闘人鎧によく似ている。しかし、似ているだけで完全に違うモノだ、と。
淀みを無くし、完全なる個を確立し、外の世界と自分を切り離す。外から起こる現象はあくまで外の世界での出来事。切り離された自ら影響を与えることはない絶対の守り。それが闘人鎧。
私は最初から外と完全に切り離すことができていたようだった。
何が違うのか、と思ったのだが、続けて説明されてようやく分かる。
闘人鎧とは違い、外側の現象に一切の影響がないのではなく、私は内側――私自身――に対して影響を受けないということだ。
私の中に流れる輝力は最初から形を持っていた。可笑しな言い方だろうが、私の肉体が元に戻ることを考えるとそう言うしかない。
リボルヴィアという人間の形を模っているのは私の中にある輝力で、肉体が欠損すると私を模る輝力を元に肉体が戻るのだ。
つまり、私は生涯病気や呪い、怪我などとは無縁になるということ。
デレディオスの教え方が間違っていたのか。それとも私がやり方を間違えたのか。
何方も違う。私と言う存在の外から誰かが手を加えたのだ。それしか考えられない。
それが悪いことなのか、良いことなのかはまだ分からない。人様の体を勝手に弄るなとは言ってやりたいが、別段困ったことにはなっていない。
まぁ、遠回りにはなったが、祝福と言うものについては未だに分からないことが多々あれど、戦いにおいて死ぬことがなくなったというのは大きなアドバンテージということだ。
「お前ぇえええ!!」
「シッ――」
振るわれる二刀を躱し、細剣を突き付ける。
メトゥスはいなすことはできず、その体に深い傷を負っていく。
「何故、何故当たる!? お前の動き、先程とはまるで違うッ。一体何をした!!」
「学んだのさ。あなたの剣技をね。傷を負ってまで学べて良かった」
直線的だった剣筋が、直前で変わり防御の陣を潜り抜けてメトゥスの肉体に突き刺さる。
手首の返しによる剣の軌道変更。これがメトゥスの剣技を何度も受けて学んだことだ。
戦いながらでは学ぶことはできなかった。そんな余裕はなかった。何故刃が通ると思った箇所に来ないのか、そこだけ考え、観察しなければ分からなかった。
「ふざけるな。こんな短期間でッ。さっきまで私が優勢だったのにッ」
「あぁ、そうだ。さっきまであなたが優勢だった。だけど、ラウルスティアも言っただろう。私たちを舐め過ぎた。油断していたから、そうなっているんだよ」
「クソガキがッ調子にのるんじゃない。私は夢魔のメトゥス・ディーバだ!! この程度の剣技で私の上をいったと思うな! 同じ剣技を身に着けたからなんだ。それでようやく互角だろうッ。これからが本当の――?」
ぐらりと、メトゥスの体が傾く。
「だから、言っただろう。私たちを舐め過ぎだ」
「ッこの矢じり、毒か!?」
ようやくメトゥスが気付く。
剣技が鈍った原因を、突然刃が当たらなくなり、細剣をその身に受けるようになったのかを。
私の剣技が上達したから、だけではない。
最後の最後にラウルスティアが一矢報い、突き付けた矢じり。それに塗られた毒がメトゥスの体を鈍化させていた。
「終わりだ。メトゥス・ディーバ」
「ッ~~クソガキが、クソガキ共がッ!!」
ラウルスティアを確実に殺すことができていたなら、まだこんなに簡単に膝を付くことはなかっただろう。
もしかしたら、勝者はまた違っていたかもしれない。
細剣を構える。
魔人が吠える。
直後に勝敗は決定した。
止めを刺すつもりだと確信した私は矢を番え、弓を引いた。
「彼女から離れて!!」
メトゥス目掛けて矢を放つ。
それを鬱陶しいと言うように払いのけ、そこで初めてメトゥスは私と言う存在を認識した。
「何だ貴様……あぁ、元王女か。家族は元気か?」
「私の家族を奪ったのは貴様だろう。侵略者」
腹の底からどす黒い感情が溢れ出て、思わず声が低くなる。
「ククッ確かにそうだったな。忘れていたわ。それで? ここに何をしに来た?」
「そんなの決まっている。貴様を倒しに来たんだ」
「お前如きが私をか。宮廷でぬくぬくと育って来た甘ちゃんが、実力差も分からずに言うじゃないか」
その言葉に私は何も言い返せない。
殺したい。目の前の怨敵を。
だが、矢を放った瞬間に私は殺されるだろう。
憎悪に燃える心を落ち着かせる。
相手は蒼級の剣士で私は剣士でも戦士でもない。戦えば一瞬で殺されるだけだ。この敵を殺せる可能性があるのはこの場に一人だけ。
矢を引き絞りつつ、チラリとリボルヴィアを見る。
胸元は僅かに上下している。死んでいる訳ではない。少し、安心する。
「どうやってここに来た。私の歌で全員が夢を見ているはずだろ?」
「あの悪趣味な夢は貴様の仕業か。あんなの真正面から打ち破ったよ」
「何だと?」
私の言葉にメトゥスの目が僅かに細くなる。
あれにはかなりの自信があったのだろう。それを戦士でもない私が打ち破ってきたことが信じられないようだ。
「小娘如きに打ち破られるものではないのだがな。まして守られることしかできないお姫様には到底不可能だ」
「簡単とは思わなかったわ」
簡単ではなかったが、不可能ではなかった。
心にくるものがあったが、新たな決意を抱くこともできた。
「少しだけ、感謝をする」
「はぁ?」
唐突な感謝の言葉にメトゥスが困惑した表情を作る。
当然だ。敵対中の相手から感謝の言葉を突然投げられたら私だって困惑する。
だけど、説明何てしてやらない。偽りでも生きていた家族に会えたことは嬉しかったが、目の前の魔人族は怨敵に変わりないのだ。
「意味が分からない奴だ。頭でも可笑しくなったのか?」
「勝手に解釈していろ。私のけじめはもう終わったからな。後は貴様を倒すだけだ」
「ふん、できるはずがないだろう。あの森人と一緒ならばまだ可能性はあっただろうが、お前一人では到底不可能だ」
「デカい口はあんまり叩かない方が良い。恥を掻くことになるわ。到底不可能だと思っていた小娘が貴様の悪夢を打ち破ったのよ。何故、貴様を倒すことも不可能ではないと考えない?」
「あら、面白い」
メトゥスが笑みを浮かべ、消えた。
「グッ!!?」
腹部に蹴りを入れられ、地面を転がる。
喉に何かが詰まるのを感じ、口から吐き出してみればそれは血だった。
「調子にのり過ぎていると自覚したか? 夢を打ち破ったからなんだ。まだ私にはこれまで積み上げていた武術がある。女を捨て、剣士として、ひたすらに積み上げて来た技をお前如きが破れると?」
無理だ。
さっき倒すことも不可能ではないと口にしたけど嘘に決まっている。ただの挑発だ。
ギラリと光る刃を突き付けられる。
「ふん、強がりも言えなくなったか。だが、良いのか。口を閉じてしまって? お前の魂胆は分かっている。あの森人が目を覚ますまでの時間を稼ごうとしているのだろう?」
バレた。
体を硬直させる私を見てメトゥスはニヤリと笑みを浮かべる。
「腹芸もまだまだだな。命のかかった芝居は初めてか?」
「…………」
「良いことを教えてやるよ世間知らずのお姫様。森人族は打たれ弱いんだ。だから、当分は目を覚ますことはない」
「それは初めて知ったわ」
リボルヴィア、そんな弱点を隠していたのか。
力がないとは聞いていたが、打たれ弱いとは聞いていなかった。
「ククッ良い勉強になっただろう? では、お代を頂こうか。そうだな。お前の骨で払って貰おう」
そう口にしてメトゥスは戸惑いなく私の腕を足で踏み、骨をへし折った。
絶叫が広場に響く。
「ッッッ~~」
痛い、痛い、痛い、痛い!
これが骨が折れる感覚。傷を負う感覚。
こんな痛みを戦士たちは味わっていたのか。
頭が可笑しくなってしまいそうだ。でも――。
「へぇ、まだ私を睨み付ける元気があるのか。なら、残りの代金も払って貰おう」
腕に続き、足、脇腹と折れる骨を折って来るメトゥス。
耐える。耐えるしかない。一矢報いるまで私は気を失えないッ。
「よく耐えるな。お姫様。まさか、森人が立ち上がってくると思っているのか? あの深手で?」
「さぁ……そうかもしれない、わよ」
「希望的観測だな。私は森人も相手をしたことがあるんだ。その時も一太刀入れたら死亡したよ」
「でも……その人は、リボルヴィアじゃない」
「同じ脆弱な森人族だよ。大森林の奥でひっそりと過ごし、魔術を極めていれば良いのに外に出て来た分相応にも剣を持つだなんて。剣士を舐めるからこうなるんだ」
「私たちを舐め過ぎですよ。その油断が命取りになる。そうですよね、リボルヴィア?」
「あぁ、よく時間を稼いでくれた」
「あ?」
メトゥスが後ろを振り返る。
やっぱり、そうだった。ちゃんと立ってくれた。
彼女は打たれ弱いと言うことは教えてくれなかったけど、別のことを私に教えてくれていた。
貴族たちとの交渉で国中を走り回っている道中、リボルヴィアは私を庇って傷を負った。その時に彼女は尋常じゃない回復能力を見せてくれたのだ。
「ふん、立ち上がったからどうなのだ。この状況を見ろ。お前が動けばこの女の首が飛ぶぞ」
「彼女を甘く見過ぎだ。あなたの足元に転がっているのは小動物じゃない。竜だと思った方が良い」
「下らん。竜だとしても私の敵じゃないんだよ」
また、油断だ。
油断が命取りになると言ったばかりなのに。でも、しょうがないのかも知れない。
だって、メトゥスはリボルヴィアにも、私にもまだ牙を立てられたことがないのだから、危険だと言う認識すらできていない。
それが誘導されたものだとも分からずに。
矢の先端を折り、メトゥスの脹脛に突き刺す。
突然のことに驚いたメトゥスが私を斬りつけようとするが、視線が外れた瞬間にリボルヴィアが地を蹴り、私からメトゥスを引き剥がす。
「遅いですよ。リボルヴィア」
「すまないな。だが、後は任せろ」
頼れる友人の笑顔を見て、安堵の息を吐く。
今度こそあの怨敵を殺してくれるだろう。
安心して私は意識を手放した。
祝福を受けているのか。
最初に口にしたのはデレディオスだったか。
その前にも似たようなことを言っていた気がするが。何だったか。確か、輝力の流れに淀みを無くす修行をしている最中だったか。
修行、といっても規則正しい生活の調整を受けているだけなのだが。
異様に流れに淀みがなくなるのが早い。誰かの後押しでも受けているのか。
そう言っていた気がする。
気にはしなかった。私を後押ししてくれる何て母様かデレディオスだけだ。母様は生きていないし、デレディオスに心当たりがないのなら他の誰でもないだろう。
だから、気にしなかった。
でも、闘人族の里で祝福というものについて考えさせられることになった。
二段目――闘人族の蒼級戦士が集う段を切り抜ける時、私は何度も死にかけた。肉体の一部をごっそり抉られたこともある。
当然ながら、そんな傷を受けて私が無事で済むはずがない。
意識を失い、倒れそうになった。
そして、戦いの際中に敵を待つ何てことは闘人族はしない。
デレディオスの弟子だからと倒れていても全身全霊で殺しに来た。
血を流し、肉を抉られた半死人が、闘人族に囲まれる。普通に考えればそいつは死ぬと考えるだろう。私だって考える。
だけど、死ななかった。
意識が朦朧としていた私は分からなかったが、それを見ていた闘人族の長――ウァーレンスが後から語ってくれた。
――お前は失った箇所を自ら復元させたのだ、と。
輝術を使った様子はなかった。私の意識は殆ど飛んでいた。にも関わらず、肉体が勝手に元に戻った。私の体には傷が付かないのが当然とでも言うように。
私の戦人流『闘人鎧』を見てウァーレンスは続けて語った。
――お前がそれを使用する際の輝術の流れは闘人鎧によく似ている。しかし、似ているだけで完全に違うモノだ、と。
淀みを無くし、完全なる個を確立し、外の世界と自分を切り離す。外から起こる現象はあくまで外の世界での出来事。切り離された自ら影響を与えることはない絶対の守り。それが闘人鎧。
私は最初から外と完全に切り離すことができていたようだった。
何が違うのか、と思ったのだが、続けて説明されてようやく分かる。
闘人鎧とは違い、外側の現象に一切の影響がないのではなく、私は内側――私自身――に対して影響を受けないということだ。
私の中に流れる輝力は最初から形を持っていた。可笑しな言い方だろうが、私の肉体が元に戻ることを考えるとそう言うしかない。
リボルヴィアという人間の形を模っているのは私の中にある輝力で、肉体が欠損すると私を模る輝力を元に肉体が戻るのだ。
つまり、私は生涯病気や呪い、怪我などとは無縁になるということ。
デレディオスの教え方が間違っていたのか。それとも私がやり方を間違えたのか。
何方も違う。私と言う存在の外から誰かが手を加えたのだ。それしか考えられない。
それが悪いことなのか、良いことなのかはまだ分からない。人様の体を勝手に弄るなとは言ってやりたいが、別段困ったことにはなっていない。
まぁ、遠回りにはなったが、祝福と言うものについては未だに分からないことが多々あれど、戦いにおいて死ぬことがなくなったというのは大きなアドバンテージということだ。
「お前ぇえええ!!」
「シッ――」
振るわれる二刀を躱し、細剣を突き付ける。
メトゥスはいなすことはできず、その体に深い傷を負っていく。
「何故、何故当たる!? お前の動き、先程とはまるで違うッ。一体何をした!!」
「学んだのさ。あなたの剣技をね。傷を負ってまで学べて良かった」
直線的だった剣筋が、直前で変わり防御の陣を潜り抜けてメトゥスの肉体に突き刺さる。
手首の返しによる剣の軌道変更。これがメトゥスの剣技を何度も受けて学んだことだ。
戦いながらでは学ぶことはできなかった。そんな余裕はなかった。何故刃が通ると思った箇所に来ないのか、そこだけ考え、観察しなければ分からなかった。
「ふざけるな。こんな短期間でッ。さっきまで私が優勢だったのにッ」
「あぁ、そうだ。さっきまであなたが優勢だった。だけど、ラウルスティアも言っただろう。私たちを舐め過ぎた。油断していたから、そうなっているんだよ」
「クソガキがッ調子にのるんじゃない。私は夢魔のメトゥス・ディーバだ!! この程度の剣技で私の上をいったと思うな! 同じ剣技を身に着けたからなんだ。それでようやく互角だろうッ。これからが本当の――?」
ぐらりと、メトゥスの体が傾く。
「だから、言っただろう。私たちを舐め過ぎだ」
「ッこの矢じり、毒か!?」
ようやくメトゥスが気付く。
剣技が鈍った原因を、突然刃が当たらなくなり、細剣をその身に受けるようになったのかを。
私の剣技が上達したから、だけではない。
最後の最後にラウルスティアが一矢報い、突き付けた矢じり。それに塗られた毒がメトゥスの体を鈍化させていた。
「終わりだ。メトゥス・ディーバ」
「ッ~~クソガキが、クソガキ共がッ!!」
ラウルスティアを確実に殺すことができていたなら、まだこんなに簡単に膝を付くことはなかっただろう。
もしかしたら、勝者はまた違っていたかもしれない。
細剣を構える。
魔人が吠える。
直後に勝敗は決定した。
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