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夢魔討伐編
第17話
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「――――」
太陽の光すら入らない深海の中、巨大な何かが言葉を発した。
海人族が崇める海神。
一度動けば海を荒れさせ、世界を崩壊させることだってできる八大神の一柱にして、現在は八大星天に数えられる存在。
彼は、珍しい客人を見上げていた。
「こんな所に引き籠っているとは……全く、ここに来るまでに苦労したぞ」
海の中だと言うのにその人物は、まるで地に足が付いているかのように歩いて海神の元までやってくる。
「――――」
「それを言わねば分からんか? それとも説明してやらなければならないほど耄碌したか?」
最早誰も口にすることがなくなった言葉をその男は理解し、会話をする。
男は海神に向けて豪快な笑みを向ける。
「貴様の星天の座、俺が貰いに来てやった。古い神はさっさと隠居しな」
その言葉を受けて巨大な海神の体が動く。
動くたびに地響きが鳴る巨大な体に覚えることなく、男は海神と距離を詰める。
暫くして、八大星天の石碑から海神が消えた。
代わりに、海神が消えた位に収まったのは魔人族を束ねる王――ソムニウム。
古き神が八大星天の座を奪われた。この出来事に気付いたのは、世界でも一部の人間だけだった。
その出来事を知った者は、詳細を知ろうと情報を集めようとするが、同時期に魔人族の動きが更に活発。
ロンディウム大陸に存在する国々を落としていき、遂には世界最大国家であるルクリア王国の首都まで攻め落とす。
亜種巨人を討った勇者一行も魔人族との戦いに加わるが、八大星天に加わった魔人王の前に成すすべがなく、蹂躙された。
それから一年が過ぎ――。
「あぁッもう……ようやく着いた。懐かしさすら覚えるロンディウムの大地だ」
一人の森人が魔人族によって蹂躙尽くされたロンディウム大陸に辿り着いた。
家屋の残骸、炎と煙が立ち昇る。港から見える光景に唖然とする。
戦場跡のように街のあちこちが破壊されており、人もいない。
シリス国は森人を探すために訪れたことは何度もある。この港町にも足を運んだ。
特段これといった見栄えのない港町ではあったが、それでも豊かで人の往来も少なくはなかった。
なのに、今は人っ子一人いない。
人の話し声、馬車の車輪が地面を蹴る音、漁師たちの掛け声。あったものが全て無くなり、何処からともなく吹いた風が寂しくなるだけだ。
「……あの噂は本当だったのか」
氷結大陸を出て、ヒュリア大陸に足を運んだ時に耳にした噂。今、ロンディウム大陸にある国々は魔人族に侵攻されている――。
もっと速く辿り着けていたら良かった。そう胸の内で愚痴る。
氷結大陸を出てから約一年。
本来なら数ヶ月程度で済むはずだったのに、一年だ。
そうなってしまった原因は無論、魔人族にある。
メトゥス・ディーバ――夢魔との戦いから数週間、ラウルスティアが王女となり、国内が安定してきた頃、私は約束通り、船を貰い、ヒュリア大陸に向かった。向かったのだが、そこで襲撃を受けた。
強力な戦士がいたという訳ではない。あったのは厄介な兵器。
ロンディウム大陸に行く前に辿り着く、ヒュリア大陸。まずそこに私はいこうとしたのだが、既にヒュリア大陸は魔人族の手に落ちていた。
元々氷結大陸からヒュリア大陸を経由し、ロンディウム大陸にいる魔人族の軍に物資を送っていたのだ。ヒュリア大陸が落ちていなければ、こんなことはできないのは当然だった。
当然だったのだが、一年前の私はそんなことすら思い至らなかった。
ヒュリア大陸の港に船を止めようとした時、乗船者に魔人族がいないとバレたのが不味かった。
多くの船団が出航し、船を取り囲み、バリスタを放って船に穴を開けに来る。
これにはもうお手上げをするしかなかった。
船に穴が開いた状態では航海できず、氷結大陸にも戻れない。かと言って、岸に船もつけられない。
困った私たちはヒュリア大陸の東端にある小さな島国へと向かったのだ。
そこで分かったのは、魔人族によって海人族の国が滅んだこと、海神と代わり、魔人王が八大星天の座に付いたこと、そして、現在魔人王はロンディウム大陸に向かい、侵略を行っていることだった。
すぐにロンディウム大陸に向かうべきだっただろう。
アルバ様を最後に見たのはロンディウム大陸西方大地だった。なら、ロンディウム大陸にいる可能性が高い。
だけど、私が立ち寄った島国には海人族がいた。
あの港で私にまた来てねと言ってくれた子供が――ラティアがいた。
あの頃とは違い、今ではすっかり背が伸び、子供たちの面倒を見られるようになっていた。
彼女たちは必死に負けまいと戦っていた。
国が無くなったからなんだと、絶対に取り戻して見せると、島国に追いやられても尚、戦う意思を持っていた。
あの頃、私の腕の中にいた少女が今や戦士となり、戦っている。
それを見て見ぬ振りをして、ロンディウム大陸に向かうことはできなかった。
船出の際、ラウルスティアに餞別として渡された新しい細剣。
メトゥス・ディーバが使用していた二刀。それと同様の鉱石で鍛え上げられた細剣を手にし、私も戦いに参加を決意した。
手強い戦士はいなかった。だが、戦士の数といつの間にか作り上げた迷宮、そして罠が厄介だった。
壁をぶち抜いても空間ごと爆破させて阻止してきたり、非力だと見抜かれ、死を前提にして私に抱き着いて抑え込もうとしたり、と――。
死んでも勝つ、死んで勝つとばかりの犠牲が大きすぎる戦いをしてきた魔人族に大いに手古摺ってしまい、ロンディウム大陸に向かうのが大幅に遅れてしまったのだ。
「さて、と――どっちに行けば良いのか」
海を隔てていたせいで、こちらの情報は正確に伝わっていない。
まずは情報収集が必要だ。しかし、その情報を提供してくれるための人が周囲にはいない。よって、まずは人のいそうな所へ向かう必要があった。
「……よし、まずはシリス国の主要都市を回ってみるか」
港がこんな状況でも、主要都市ならばまだ生きている可能性もある。
全てが手遅れになっていないか、そんな不安が過るが、それを無理やり抑えつけ、早足になって足を前に進めた。
太陽の光すら入らない深海の中、巨大な何かが言葉を発した。
海人族が崇める海神。
一度動けば海を荒れさせ、世界を崩壊させることだってできる八大神の一柱にして、現在は八大星天に数えられる存在。
彼は、珍しい客人を見上げていた。
「こんな所に引き籠っているとは……全く、ここに来るまでに苦労したぞ」
海の中だと言うのにその人物は、まるで地に足が付いているかのように歩いて海神の元までやってくる。
「――――」
「それを言わねば分からんか? それとも説明してやらなければならないほど耄碌したか?」
最早誰も口にすることがなくなった言葉をその男は理解し、会話をする。
男は海神に向けて豪快な笑みを向ける。
「貴様の星天の座、俺が貰いに来てやった。古い神はさっさと隠居しな」
その言葉を受けて巨大な海神の体が動く。
動くたびに地響きが鳴る巨大な体に覚えることなく、男は海神と距離を詰める。
暫くして、八大星天の石碑から海神が消えた。
代わりに、海神が消えた位に収まったのは魔人族を束ねる王――ソムニウム。
古き神が八大星天の座を奪われた。この出来事に気付いたのは、世界でも一部の人間だけだった。
その出来事を知った者は、詳細を知ろうと情報を集めようとするが、同時期に魔人族の動きが更に活発。
ロンディウム大陸に存在する国々を落としていき、遂には世界最大国家であるルクリア王国の首都まで攻め落とす。
亜種巨人を討った勇者一行も魔人族との戦いに加わるが、八大星天に加わった魔人王の前に成すすべがなく、蹂躙された。
それから一年が過ぎ――。
「あぁッもう……ようやく着いた。懐かしさすら覚えるロンディウムの大地だ」
一人の森人が魔人族によって蹂躙尽くされたロンディウム大陸に辿り着いた。
家屋の残骸、炎と煙が立ち昇る。港から見える光景に唖然とする。
戦場跡のように街のあちこちが破壊されており、人もいない。
シリス国は森人を探すために訪れたことは何度もある。この港町にも足を運んだ。
特段これといった見栄えのない港町ではあったが、それでも豊かで人の往来も少なくはなかった。
なのに、今は人っ子一人いない。
人の話し声、馬車の車輪が地面を蹴る音、漁師たちの掛け声。あったものが全て無くなり、何処からともなく吹いた風が寂しくなるだけだ。
「……あの噂は本当だったのか」
氷結大陸を出て、ヒュリア大陸に足を運んだ時に耳にした噂。今、ロンディウム大陸にある国々は魔人族に侵攻されている――。
もっと速く辿り着けていたら良かった。そう胸の内で愚痴る。
氷結大陸を出てから約一年。
本来なら数ヶ月程度で済むはずだったのに、一年だ。
そうなってしまった原因は無論、魔人族にある。
メトゥス・ディーバ――夢魔との戦いから数週間、ラウルスティアが王女となり、国内が安定してきた頃、私は約束通り、船を貰い、ヒュリア大陸に向かった。向かったのだが、そこで襲撃を受けた。
強力な戦士がいたという訳ではない。あったのは厄介な兵器。
ロンディウム大陸に行く前に辿り着く、ヒュリア大陸。まずそこに私はいこうとしたのだが、既にヒュリア大陸は魔人族の手に落ちていた。
元々氷結大陸からヒュリア大陸を経由し、ロンディウム大陸にいる魔人族の軍に物資を送っていたのだ。ヒュリア大陸が落ちていなければ、こんなことはできないのは当然だった。
当然だったのだが、一年前の私はそんなことすら思い至らなかった。
ヒュリア大陸の港に船を止めようとした時、乗船者に魔人族がいないとバレたのが不味かった。
多くの船団が出航し、船を取り囲み、バリスタを放って船に穴を開けに来る。
これにはもうお手上げをするしかなかった。
船に穴が開いた状態では航海できず、氷結大陸にも戻れない。かと言って、岸に船もつけられない。
困った私たちはヒュリア大陸の東端にある小さな島国へと向かったのだ。
そこで分かったのは、魔人族によって海人族の国が滅んだこと、海神と代わり、魔人王が八大星天の座に付いたこと、そして、現在魔人王はロンディウム大陸に向かい、侵略を行っていることだった。
すぐにロンディウム大陸に向かうべきだっただろう。
アルバ様を最後に見たのはロンディウム大陸西方大地だった。なら、ロンディウム大陸にいる可能性が高い。
だけど、私が立ち寄った島国には海人族がいた。
あの港で私にまた来てねと言ってくれた子供が――ラティアがいた。
あの頃とは違い、今ではすっかり背が伸び、子供たちの面倒を見られるようになっていた。
彼女たちは必死に負けまいと戦っていた。
国が無くなったからなんだと、絶対に取り戻して見せると、島国に追いやられても尚、戦う意思を持っていた。
あの頃、私の腕の中にいた少女が今や戦士となり、戦っている。
それを見て見ぬ振りをして、ロンディウム大陸に向かうことはできなかった。
船出の際、ラウルスティアに餞別として渡された新しい細剣。
メトゥス・ディーバが使用していた二刀。それと同様の鉱石で鍛え上げられた細剣を手にし、私も戦いに参加を決意した。
手強い戦士はいなかった。だが、戦士の数といつの間にか作り上げた迷宮、そして罠が厄介だった。
壁をぶち抜いても空間ごと爆破させて阻止してきたり、非力だと見抜かれ、死を前提にして私に抱き着いて抑え込もうとしたり、と――。
死んでも勝つ、死んで勝つとばかりの犠牲が大きすぎる戦いをしてきた魔人族に大いに手古摺ってしまい、ロンディウム大陸に向かうのが大幅に遅れてしまったのだ。
「さて、と――どっちに行けば良いのか」
海を隔てていたせいで、こちらの情報は正確に伝わっていない。
まずは情報収集が必要だ。しかし、その情報を提供してくれるための人が周囲にはいない。よって、まずは人のいそうな所へ向かう必要があった。
「……よし、まずはシリス国の主要都市を回ってみるか」
港がこんな状況でも、主要都市ならばまだ生きている可能性もある。
全てが手遅れになっていないか、そんな不安が過るが、それを無理やり抑えつけ、早足になって足を前に進めた。
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