英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

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魔人決戦編

第21話

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 牢屋へと続く地下への階段の周囲にいた魔人族の戦士を片付け、階段を降りていく。
 牢屋の前にも魔人族がいたが、剣を抜かせる間もなく喉を貫き、絶命させた。

「お、お前は……」

「あぁ、リベリコウスか。あの時とは逆になったな」

 鉄格子を握り締め、間抜けな表情をしているリベリコウス。
 昔私をよく苛めてくれた人物の一人だ。
 あの時、私の母親を追放したと楽しそうに語った時は、私が鉄格子を掴み、リベリコウスは丁度今私が立っている場所で私を挑発していた。
 私はそんなことをするつもりがないので、鍵を破壊し、牢屋の扉を開く。

「早く出て。魔人族たちが気付くのは時間の問題」

「お、おい……落ちこぼれ、だよな? お前……何でここにいるんだよ」

「外に出た森人の男から里が危機に陥っていると聞いたから、助けに来た」

「助けにって……」

 訳が分からない。と言うように間抜けな表情をするリベリコウス。
 まぁそうだろうな。これまで散々苛めを受けて、冷遇されて、挙句の果てには追放されたのだ。里や森人を嫌っていると思われていても可笑しくはない。
 実際は私が恨んでいるのは私を苛めた森人族だけだし、苛めに関わっていない森人は。何より、心が安らぐこの土地を愛している。
 そんなことは誰にも言っていない――私も旅の途中で気付いた――から知らないのだろう。

「早く出たら? ここは出入口が一つしかないから、そこ魔人族に固められたら、また牢屋に逆戻りだよ?」

「そ、それなら牢屋の壁に刻まれている輝術を消してくれ。それのせいで俺たちは力も出ないんだよ」

 珍しい。リベリコウスが私に頼みを口にするなんて。
 もう体裁を気にする余裕もないほど追い詰められているのか。
 リベリコウスの口にした輝術を探す。すると、見覚えのある輝術の術式が見つかった。

「これ……あの時の」

 追放されてから初めて訪れた只人族の街。そこで街に入るために手を貸して貰った偽商人たちに運ばれた荷物置き場。そこで見た輝術の術式。確かあの只人族たちは、これを森人族の里を襲った人攫いも使ったと言っていたな。
 魔人族もこれを使って里を襲ったのか。
 細剣レイピアで切り裂き、術式を破壊する。

「どう?」

「……少し体が軽くなった」

「安全な場所まで護衛する。全員付いてきて」

「わ、分かった。だけど、本当にお前どういうつもりなんだよ? お前、追放されただろう。何でここにいるんだよ。掟じゃ戻ることは許されてないだろう」

「そんなこと今話す必要ある? 死にたいの?」

「分かった……確かに今話すことじゃないな」

 私がここにいる理由を再びリベリコウスが探って来るが、私が何を愛しているのか詳しく語るつもりはないのではぐらかす。
 リベリコウスも外が騒がしくなっていることに気付いたのだろう。私の言葉に同意する。
 後は森人族を守り、安全な場所に移動してから魔人族の戦士と翼竜を片付けるだけ――だったのだが。

「――待て。その女の言葉に従うな」

 一人の男の言葉で動き出そうとした森人たちの動きが止まった。
 私にとっても懐かしい声だ。
 森人族の長の右腕。戦士を束ねる戦士長の更に上の総戦士長。そして――。

「……お久しぶりです。父様」

「貴様は娘などではない。罪人め」

 私もお前を父とは呼びたくはない。
 自然と目の前の男を見る視線は鋭くなる。

「別に従えとは言っていません。ここは危険だから、移動しようと言っているだけです。何が問題なのですか?」

「問題? 貴様がここにいること自体が問題だ。貴様は追放者。罪人だ。掟では追放者はこの地を二度と踏むことは許されていない。追放者でありながら、掟を軽んじるそんな女などの言葉に従えん。貴様らもだ。覚えておけ。こいつの言葉に従った者はこの場で罪人としてやる」

 周囲の森人たちが息を呑む。

「はぁ……状況、分かっていますか? こんな時に掟だなんて」

「掟を軽んじる者は里に災いを齎す。すぐに出て行け。魔人族の対処は我々で行う」

 目の前の男はやせ細り、立っているのもやっとの状態だ。牢屋に入れられていた森人族の殆どが同じ状態だ。
 こんな状態でどう戦うというのか。それなのに、魔人族の対処に私の力はいらないと口にする。

 男は忠実だった。
 戦う時は、森人族は体が弱いのだから遠距離から戦うべし。輝力を多く持ち、輝術に優れた森人は輝術で戦うべしと考えていた。
 里の秩序を守る時は、掟に従い、掟を守るために鉄の精神を持ち、あらゆる欲を捨てた。
 だから、娘が輝術を習得できないと分かると落ちこぼれと断定したし、罪人と処断されれば、顔色一つ変えずに追放に賛成した。
 目の前の男は、そんな男だった。

「…………」

 怒りも呆れも感じない。
 ただただ失望があった。
 そうだった。こんな男だったのだ。ほんの少しの間離れていただけだが、忘れていた。

「そうですか」

 基本や掟に忠実でも、こんな時ぐらいは真面な判断をしてくれると思っていたのに。
 

「では、皆々様はここで見学されていると良い。私が勝手に守ります」

 身を翻して外に出る。
 すぐに私の姿は魔人族の目に留まった。

「貴様ッ何故外に出ている!?」

「薄汚いとんがり耳野郎め!」

「うるさい黙れ死ね」

 苛立ちのままに細剣を振るう。
 一瞬で五人の魔人族の首が跳んだ。
 一人、また一人。
 魔人族が私の姿を見つけては挑み、私に殺されていく。
 軍の頭を失った魔人族の戦士たちは、統率が取れていなかった。

「つ、つぇえ……」

「何で森人族が剣を持ってるんだ!?」

「魔術を使え。例の術をつか――ぐぎゃああぁ!?」

「クソッ戦士たちよ。集まれ、集まれぇえ!!」

 一人の魔人族が剣を掲げて声を上げる。
 あの男、将軍や軍の隊長各ではないが、ある程度の地位にいる者か。
 呼びかけに応じて戦士たちが陣形を組んでいる。
 すぐに殺さないと面倒なことになるな。

「妖精剣術『無窮多連刺』」

 全身を使って跳躍し、上から刺突の雨を降らす。
 集まりかけていた魔人族ごと呼びかけていた男を刺し殺す。
 動揺が周囲に広がった。

「次は誰?」

「森人風情がッ竜を呼べ!! 餌にしてくれる!」

「オイ待て。何でお前が指揮を執っているんだッ。それに、翼竜は将軍の許しが無けりゃ動かすことなんてできないだろう」

 やはり、翼竜はこの近くにいるようだ。
 しかし、使えないと分かり安心する。負ける気はないが、この土地は破壊され尽くすだろう。そうなるのは流石に嫌だ。
 だが、この戦いに参戦してこないだけで翼竜はいずれどうにかしなければいけないだろう。
 一人だけ魔人族を生かして翼竜について情報を聞き出しておこう。
 そう考えて私は再び走り出す。

 剣を振るって来る魔人族も、逃げようとする魔人族も、森人族を人質にしようとする魔人族にも何もさせずに刺し殺す。
 太陽が山から顔を出し、大地を照らし始める頃にはもう動く者はいなくなっていた。
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