英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

文字の大きさ
20 / 52
魔人決戦編

第20話

しおりを挟む
 シリス国の街から出立して約三ヵ月――私は大森林の入口にいた。
 出発する前に予想していた通り、約三ヵ月ここに来るまでにかかった。
 今では森人族の男から貰った情報は古い情報。どうなっているのか想像もつかない。死体の山が築かれていても可笑しくないだろう。

 本当にこれで良かったのか。
 旅をしている間に浮かんできた疑問が再び浮かんでくる。前に進む足も重い。
 こちらを優先すると決めたはずなのに……アルバ様が心配だが、こちらの方が危ないと判断しただろうに。

「いや、それだけじゃないか」

 森の中を進みながら呟く。
 アルバ様が心配なのは間違いない。だけど……そう。私は柄にもなく緊張しているのだ。
 足が重くなっているのも、その緊張故のこと。

「こんな状況じゃなきゃ、帰らなかったのかもな」

 帰郷を望んでいても、違う状況であればもしかしたら帰らなかったかもしれない。
 あと少し、これをしてから、あれをしてから。そんな風に先延ばしにしていたかもしれない。
 どんな風に帰れば良いのか分からなかったから。

「女々しいなぁ……」

 頬を叩く。気持ちを切り替える。
 ここはもう危険な場所だ。いつ魔人族と遭遇するか分からない。気を引き締めよう。

「……上から行くか」

 木の上に登り、枝から枝へと飛び移る。
 懐かしい移動方法だ。これなら速く里に辿り着ける。

「ッ——酷い匂いだ。獣人族か?」

 途中、大森林の美しさには似合わない異臭を鼻が嗅ぎ取る。
 焦げたような、腐ったような臭いだ。前回獣人族の里で嗅いだ臭いよりもなお酷い。
 獣人族の里に近づいたようだ。魔人族の存在も声で感じ取る。
 息を潜めて身を隠し、獣人の里を探る。
 一番最初に目に飛び込んで来たのは山のように積まれた獣人族の死体だった。

「クソガァアア!」

「チッ煩い獣共だ。オラァ!!」

 里のあちこちから怒声と悲鳴が上がっている。
 男は大森林の資源を運び出す労働力として、女は慰みものとして働かされている。獣人族は完全に支配下に置かれ、奴隷とされているのが一目瞭然だった。

 それらを尻目に獣人の里を出る。
 彼等を救うことはしない。ここで騒ぎを起こせば森人族の里にいるであろう魔人族にも気取られることになる。私は森人の里を救いに来たのであって、獣人を救いに来たのではないのだ。

 男の話に出ていた里に一緒に攻めて来た翼竜は獣人族の里にはいなかった。
 ということは森人族の里にいるのだろうか。その場合、魔人族の軍勢と一緒に相手をしなければいけなくなる。
 無論、負けるつもりはないが、私は守ることが不得意だ。
 戦で負け、奴隷にされて疲労しきっている森人族を守りながら戦うのは厳しい。人質にでもされたらもっと厄介だ。

「多勢に無勢……それなら、夜襲しかないか」

 できるなら、将軍や隊長などから狙っていくのが良いだろう。指揮系統を麻痺させることができる。
 森人族の里の近くにある身を隠せる場所に辿り着き、そこで息を潜める。
 そして、日が沈み、夜が訪れると私は物音を立てることなく静かに里へと足を踏み入れた。




 森の中を身を潜めて進んでいく。
 天幕の中からは女の悲鳴と男の下卑た笑い声が聞こえる。
 この声には聞き覚えがある。多分だが、この女性の声の主は私に勉強を教えたくれたあの森人の女性だ。
 中で何が起こっているのかは簡単に想像ができる。
 だけど、助けるつもりはない。
 それらを無視して里の奥地にある天幕へと向かう。
 どんな種族でも一番偉い者がいる所は豪華で安全な所と相場が決まっている。この里で一番安全なのは巨大樹の中、もしくはそこの根元だ。
 魔人族の軍を率いる者もそこにいる可能性が高い。

 そう考えて、全てを無視して突き進み、窓から巨大樹の中へと飛び込む。
 素早く物陰に隠れ、耳を澄ませば魔人語が聞こえてくる。天幕のようなものは巨大樹の周囲にはなかったが、巨大樹を取り囲むように魔人族の戦士が配置されていたことから、ここに軍を率いる者――将軍、隊長のような者はいるはずだ。
 細剣レイピアを抜き、静かに息を吐く。

「隠密暗殺開始、ってね」

 物陰から飛び出し、階段を下る。
 この巨大樹の造りはシンプルだ。
 上までは螺旋階段一本で繋がっているだけ。途中で隠れる場所はなく、一目で侵入者が来ていると分かる造りになっている。
 だから、ゆっくりとしている暇はない。
 最高速度で階段を駆け上がり、気付かれる前に殺る。これが最も成功率の高い暗殺だ。

「え?」

 すれ違った魔人族の首に剣先を当てて切り裂く。
 喉をやられたせいで魔人族は声も出せずに階段の上を転がり、苦しむ。その間に私は更に先へと進む。
 権力者は高い所を好むから軍の将軍や隊長なども上にいる、と最初は考えたが、この巨大樹は里長のいた一番上の部屋まで途中で休憩する部屋もなく、螺旋階段が永遠とあるだけだ。

 そんな所にいても伝令が遅れるし、面倒なだけ。
 ここに永住するつもりのない魔人族がそこで寛ぐこともないだろうと考えて、私は下に向かっている。
 その考えは正しく、下に行くにつれて軍の中核を担うような魔人族の姿をチラホラと見かけるようになる。
 だが、相手は私を認識することはなかった。

 巨大樹の根の部分に近い部屋にいたのは十名程度の魔人族。
 その奥で腰を降ろしていた魔人族の風格は、魔人四天王には劣るものの他とは別格だった。
 そんな者でも私を捉えきれず、喉を斬られたことだけに気付き、苦しんで死んでいく。
 細剣に付いた血を払い、再び階段を上り、飛び込んだ窓から外へと出る。

「さて、残るは魔人族の戦士たちと翼竜だけど……問題は翼竜の方か」

 森人族の里の中にも、その近くにも翼竜の姿を見ることが無かった。
 何処かに隠れているのか、それとも別の場所を攻めているからいないだけなのか。後者の方が面倒が少なくて良いのだが……。

「っと、そんなに簡単にはいかないか」

 遠くの方で、精確には巨大樹の方から叫び声が聞こえてくる。恐らく暗殺がバレたのだろう。軍全体に情報が広がるのも時間の問題だ。
 死体を隠す時間もなかったため、仕方が無いのだが、少し予定を変えよう。

「よし。翼竜は後回しにして森人族を助けよう。捕まっているとすればあそこしかない」

 森人族の里で牢屋は一つしかない。
 向かったのは私が追放される前に閉じ込められた牢屋だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...