英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

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終編

第42話

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 星歴238年――バリエル神聖国家。大森林に向けて侵攻。
 派遣されたのはバリエル神聖国家を支える六大貴族の一家であるシートモリ家当主――ストゥ・ルトゥス・シートモリ。そして、ユース家当主――ホモーウス・レグ・ユース。
 二万の軍勢を率い、バリエル神聖国家を出立。
 途中、レジオネラ連合国家にという名目で援軍を要請し、三万の軍勢となり、大森林へと踏み入る。

 バリエル神聖国家だけではなく、他国も加わり侵攻してくることは森人族にとっては予想外だ。それでも恐れはしなかった。
 むしろ、全員生きて帰す者かと里全体が怒りに満ちた。
 なんせ、荒唐無稽な名目を掲げて侵攻して来ているのだ。魔人族に手を貸したことも無ければ、むしろ戦い、殺されかけ、凌辱されたのだ。怒らない方が不可能だった。

 だが、次に起こった出来事に森人族は怒りが吹き飛び、驚愕する。
 獣人族が只人族と争うことなく軍勢に加わったのだ。

 あの気勢の荒い獣が、縄張りに入れば誰でも容赦なく襲う獣が何の争いもすることなくすんなりと只人族の軍勢に加わった。
 これは森人族にも予想外だった。
 取引の成立する相手ではないのだ。獣人族は。力でねじ伏せられた?いいや、戦いは怒ってはいない。
 では、何が起こったのか?バリエル神聖国家が何かをしたのか?
 ここに来て森人族は初めて敵に対して恐れを感じ始めていた。




「皆、動揺していますね」

 バリエル神聖国家に対抗するために作られた砦の中に私――リボルヴィアはいた。
 私の後方には待機するようにペネトラティアとウニレが武装して佇んでいる。

「長年嫌と言う程獣人族と渡り合ってきたからこその動揺だな。仕方のないことだ」

 そう、仕方がない。こんなのは予想できなかった。
 まずは只人族ならばまだしも獣人族まで加わるとは――。獣人族と潰し合うだろうという思惑は完全に潰れてしまった。
 大森林の中に陣を張ろうとしている敵軍を睨み付ける。

「見ろ。獣人族に異種族を嫌っているバリエル神聖国家が一緒の陣にいる。本来なら有り得ないことだ。殺し合っていても可笑しくはないと言うのに」

「……獣人族が大勢います。あれって戦士団全員が出て来ているんでしょうか?」

「戦士が全て出て来ているかどうかは分からないが、物見の報告では獣人は五万。只人族の軍と合わせると八万だな」

「圧倒的に獣人族が多いのに、何であいつ等只人族を襲わないんだろ」

 数を口にするとウニレがボソリと疑問を呟く。
 何度も言うが、本当にこれは可笑しい。
 あいつ等の爪と牙は只人族の剣と鎧よりも強力だ。何より、ウニレが言ったように獣人族の方が圧倒的に数が多い。そして、緑が生い茂るこの大森林で私たちの次に機動力があるのが獣人族だ。
 これだけ好条件が揃っているのに、何故か獣人族は只人族を襲わない。
 今更慈悲の心にでも目覚めたのか?

「……師匠。私たち森人族の戦える者は一万しかいません。この砦に至っては千人程度です。守り切れるでしょうか?」

 不安そうな声でペネトラティアが尋ねてくる。
 里を守るために作られた五つの砦。そこには今それぞれの戦士団が二つずつ配置されている。
 この砦にいるのは私、そしてリベリコウスの戦士団だ。
 戦士団、と言っても私の戦士団は設立されたばかりなので数も揃っていないし、背丈の小さな子供ばかりだ。

「あの子たち、戦って大丈夫でしょうか?」

「戦わせはしない。後方で物資の運搬を手伝わせる。まだ戦いの場に出せる実力はあの子たちは持っていないからね」

 私の言葉にペネトラティアが安堵する。
 妹、弟弟子が死ぬかもしれないと思っていたのだろう。安心してくれていい。私は未熟な者を戦場に放り出すほど鬼畜ではない。
 しかし、数がすくなければ割を食う人物がいることも出て来る。

「だけどその分、あなたたち二人には無理を強いることになる。覚悟しなさい」

 実質、私の戦士団で戦えるのは私とペネトラティア、ウニレだけとなる。
 リベリコウスの戦士団がいても、私の戦士団が三人というのはか細く感じたのだろう。二人は少し不安げな表情を浮かべた。
 そんな二人の頭に手を乗せる。
 滅多にしない行動に二人は驚くが、照れた様子で私が頭を撫でるのを受け入れた。

「安心しろ。負けることはない。そのための準備はして来た。見て来ただろ? この砦には何がある? それに、あれが通用しなくなったとしても、

 この砦にあるものを思い出し、何より私の強さを思い出し、二人は安堵の表情を浮かべる。
 これで剣先が鈍ることはないだろう。
 そう考えた時だった。

「リボルヴィア戦士長! 物見から報告が来ました。敵軍に動きありとのことです!!」

 私の戦士団に所属する森人の少年が息を切らせながらも報告にやって来る。
 二人の頭から手を離し、砦の外に視線を向けた。
 報告の通り、敵陣の中から離れる軍があるのが見えた。

「様子見のつもりか? リベリコウスに伝えなさい。の用意をしろと。私たちは打ち漏らした奴を片付けにいく」

「はい、分かりました。お気をつけて!!」

 森人の少年が走り去って行った後、ペネトラティア、ウニレに視線を移す。二人共、既に覚悟を決めた表情をしていた。

「力を入れすぎるなよ。私たちだけが無理をすることはない。深追いも無理をするのも禁止。助けが必要なら合図を送れ。それと、これが一番大事だが、恐怖に染まっている奴はできるなら生かして返してやれ。

「「はい!!」」

「それでは、行くぞ」

 砦から飛び出し、木々の枝を伝って大森林の中を颯爽と走る。
 後の時代に第二次森林戦争と呼ばれる戦い。その始まりは派手なぶつかり合い等ではなく、静かなものだった。
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