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第70話リミッター解除
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顔の横を熱閃が横切る。そこは先程まで頭部があった場所だ。
身を捻って回避していなければ、今頃頭は吹き飛ばされていたに違いない。それでも表情を変えないのは劣勢に対する慣れによるもの。
——朝霧友梨。彼女にとって上級吸血鬼に劣勢に追い込まれることは当然のことなのだ。肝心なのはそこからどうするか。
動きを読まれ、牽制され、封じられつつある現状でも慌てず、冷静に思考する。
3つの部隊を囮として中級、上級を引き付け、朝霧が地獄壺の上層部に突入。石上を救出する。それが朝霧に聞かされた作戦だ。
だが、有り得ない。杜撰過ぎる。
そもそもレジスタンスは地獄壺について殆ど情報を持っていなかったのだ。内部で吸血鬼がどのように配置されているかなど知る由もない。
運よく、中級の吸血鬼を引っ張り出せたとしても対吸血鬼用装備で固めたているとはいえ、勝率は低い。
朝霧の中で対吸血鬼用装備を纏って中級に勝てる者など1人しか知らないのだ。
中級にあっさりと殺されて石上の周りを固められることだって考えられた。それを本部の連中が考えていないはずがない。
「(——私自身も囮)」
単騎で突撃させられたことを考えるとそうなる。
地獄壺の壁はミサイルでも傷はつけられない。ならば、まずは穴を開けることを考えるだろう。
下からでは遅すぎる。相手の土俵で戦うには力が無さすぎる。ゴールまでの近道を探さなければ、レジスタンスは直ぐに力尽きるだろう。
「(私の役目は、石上の救出ではなく——壁に穴を開けること。そして、侵入出来た時の保険)」
上層部に上手く潜入でき、敵が誰もいなければ良し。敵がいたらそれでも良し。
朝霧は中級の吸血鬼すら簡単にあしらえる実力者。上級吸血鬼が相手でも数時間足止めした実績のある人間だ。思考も柔軟でその場その場で、適した行動も取れるだろう。
——何より、罠に嵌められても何も言えない立場にある。
「オラアァッ!!」
苛立ちをぶつける様に瓦礫を掴んでぶん投げる。
右手に掴んだのは床のタイルだ。正方形の形をした人一人が寝ころべるほどの大きさのタイルはグルグルと回転してペナンガランへと向かう。——が、あっさりと撃ち落される。
それを見て朝霧は舌打ちを零す。
4層が崩れた原因については心当たりがある。中級の吸血鬼が中々上がってこないと思ったのも納得出来た。
結城えりがこの地獄壺にいた。それで辻褄を合わせることが出来る。
戦いを見てはいないため、朝霧は予想することしかできない。だが、異能持ちが結城しかおらず、その結城も1層を丸ごと破壊する力を持っていない以上、相手をしていた中級の吸血鬼を追い詰めて破壊させたのだろうと考える。
結城がここにいることはレジスタンスも把握していない。命令を受けた様子もなく、隠し事がバレた時の幼児のような態度をする結城を見てそう確信できた。
ならば、この状況はレジスタンスが考える状況と大きく離れているはずだ。1層分破壊され、今や5層は頭に乗っかっている帽子のようなもの。
「(恐らく、状況把握に努める)」
考えられるのは部隊の追加。緊急時を考えて、精鋭部隊——朝霧と結城、石上と同様の異能持ちを派遣させて来るだろう。
「(それまで生き残る)」
決意を固める。
最小限の動きで熱閃を躱し、瓦礫を投げる。空気を叩く。
そんな時、朝霧の視界にこちらに駆けて来る結城の姿が目に映った。
心臓の鼓動が激しい。息が漏れる。
本能が警告する。ここから離れろと——。
肌が針で刺されているかのような錯覚に陥る。見られている。そう直感した。
ペナンガランは変わらず、朝霧の方へと顔を向けている。結城から見えているのは後頭部のみだ。それでも見られていると分かった。
朝霧は知らないだろうが、これはルスヴンと同じ感知能力だ。第六感に近い感覚のようなもの。
北條とは違い、結城には警告してくれる相手はいない。見て対処するしかない。だが、彼女にはペナンガランと朝霧の戦いに付いていける程の眼を持っていなかった。
「——んのッお!!」
だが、それは後押しを受ける前の話である。
振り向きざまに放たれたのは熱閃。それは薙ぎ払いだった。
姿勢を低くし、岩が簡単に解ける程の熱閃をやり過ごす。そして、続けて放たれる先程よりも小さな熱閃を横っ飛びで回避する。
どちらもこれまでの結城では躱す処か反応すらできないものだった。
何故、結城が反応できるようになったのか。それは石上の異能が関係している。
石上の異能は魔眼に分類されるもの。しかも、ラクシャサのように両目が揃わなければ力を持たないものではない。そういう意味ではラクシャサの上位互換とも言っていいものだ。
石上恭也の異能は左右の眼にそれぞれ備わっている。左目を失っても尚、その力は健在だった。
結城に施したのは暗示によるリミッターの解除。一時的な身体能力の底上げである。
戦いに真正面から参戦できる程ではない。
ほんのちょっと、戦いを横から見てヤジを飛ばす程度。石上の後押しを受けても今の結城にはその程度の力しか発揮しない。
だが、ペナンガランはそうは思わない。
ペナンガランの異能は強力無比で一撃でも貰えば人生終了間違いなしだ。砲撃は閃光のように速く、怪獣の放つ破壊光線での薙ぎ払いに銃弾を飛ばすように弾幕だって張ってくる。
それに加えて本体は有利な位置から一方的に撃ってくるのだ。
近接戦闘を得意とする朝霧には相性の悪い相手だ。
けれど、ペナンガランにも弱点がある。
それは——複数対一の戦いには向いていないと言うこと。異能を放つ銃口が1つしかないということである。
「また命令違反だが、よくやった」
銃口は1つしかない。それは即ち、向けられていない方は簡単に近づくことが出来るということ。
朝霧にとって脅威がなくなった時点で距離をゼロにするのには十分だった。
ペナンガランの頭上を取る。
そして、これまでにない程拳を固く握り締め、渾身の力を持って振り下ろした。
「ッ!?」
空気を殴れば衝撃波が生じ、中級の吸血鬼を一撃で戦闘不能にする拳を喰らってペナンガランが床に叩き付けられる。
叩き付けられた衝撃は周囲にも広がり、結城は身を怯ませた。
「(私がいるだけでも意味があるってこういうことだったんだ)」
弱点。と言っても簡単に突けるものではない。
体がない分、初動がなく動きは読み辛く、動作は速い。閃光のような異能を避けられるのはそれ相応の実力者のみ。
後押しのない状態の結城と同じ実力者が複数いてもこう上手くはいかないだろう。
改めて戦慄する。
「(これが、異能持ちの実力者ッ)」
朝霧に視線を向ける。
彼女はまだ戦闘態勢を解いていない。渾身の一撃を放ってもそれでは足りないとばかりに拳を握っていた。
「石上ィッ!! 寄越せぇ!!」
朝霧が叫ぶ。
足りないと判断した。今の自分ではまだペナンガランを殺す一撃を放つことが出来ないと理解したのだ。
視線を僅かに外し、北條に背負われた石上に目を向ける。
結城が戦闘に参加してきた以上、時間稼ぎに徹するつもりだった自分とは違い、石上はここでペナンガランを殺すつもりなのだと理解する。
危険な役割に新人を巻き込むなと言いたくなる朝霧だが、巻き込んでしまった以上もうどうすることもできない。ならばせめて納得のできる結果を出すまでと切り替える。
「結城!! 投げ飛ばせ!!」
結城が念力で地面に叩き付けるように朝霧を下に振り下ろす。
石上によるリミッターの解除によって朝霧の瞳は赤い。吸血鬼のような赤ではない。血流が速くなったことによる充血だ。
結城に施した体に対する負荷を抑えたものではなく、負荷を無視したリミッター解除。
自分の筋力がほんの少し動く度に骨は砕けている。だが、回復能力も底上げされている以上、骨折程度直ぐに修復される。
破壊と修復が絶え間なく体の中でループする。
体に奔る痛みは朝霧にしか分からない。だが、尋常ならざる精神力ではないとこの痛みには耐えることが出来ないのは確かだ。
「ウオオオオラアアアアアアアァァ!!!!」
獣が吠える。拳が振るわれる。
念力による加速。石上によるリミッター解除を加えて放たれた一撃は先程の一撃を超えた威力となった。
1つの層を突き抜けて終わりではない。威力が分散される宙に投げ出されるのならば、更に加えるだけだと朝霧は拳を叩き込んでいく。
3層、2層、1層——その更に下まで。拳を叩き込んでいく度に地獄壺が揺れた。
「ダアアアアアアラアアアアアアァァァァッ!!」
「煩わしいッ」
獣の咆哮が響く中でペナンガランが呟いた。
効いていない訳ではない。だが、結城、石上、朝霧の3人の異能を重ね掛けても命には届かない。
ペナンガランが指示を出す。命令先は下級の吸血鬼達。北條と結城が1層へと入る際に走り抜けた廊下や1層から3層に残っていた大量の吸血鬼だ。感知できる同族以外の全てを喰らえと命令を下す。
地獄壺の最高責任者から指示を受けて下級の吸血鬼は動き出す。
彼らは空腹だった。空腹で死にかけていた。
それでも暴走しないのは上級吸血鬼の命令があったからだ。だから我慢していた。共食いをせず、ずっと涎を垂らしていた。
その枷が外される。
ペナンガランは敢えて大雑把な命令を出した。感知できる人間全て。地獄壺の中とは限定しなかった。
そのおかげで下級の吸血鬼は歓喜極まる。全てを喰って良いのだと。もう我慢をしなくて良いのだと。
それは石上の暗示によるリミッター解除程の効果はなかった。だが、確実に下級の吸血鬼の戦闘能力を向上させた。
肉を、血を求めて走り出す。
壺の中での殺し合い。人と吸血鬼の喰い合いが激化する。
身を捻って回避していなければ、今頃頭は吹き飛ばされていたに違いない。それでも表情を変えないのは劣勢に対する慣れによるもの。
——朝霧友梨。彼女にとって上級吸血鬼に劣勢に追い込まれることは当然のことなのだ。肝心なのはそこからどうするか。
動きを読まれ、牽制され、封じられつつある現状でも慌てず、冷静に思考する。
3つの部隊を囮として中級、上級を引き付け、朝霧が地獄壺の上層部に突入。石上を救出する。それが朝霧に聞かされた作戦だ。
だが、有り得ない。杜撰過ぎる。
そもそもレジスタンスは地獄壺について殆ど情報を持っていなかったのだ。内部で吸血鬼がどのように配置されているかなど知る由もない。
運よく、中級の吸血鬼を引っ張り出せたとしても対吸血鬼用装備で固めたているとはいえ、勝率は低い。
朝霧の中で対吸血鬼用装備を纏って中級に勝てる者など1人しか知らないのだ。
中級にあっさりと殺されて石上の周りを固められることだって考えられた。それを本部の連中が考えていないはずがない。
「(——私自身も囮)」
単騎で突撃させられたことを考えるとそうなる。
地獄壺の壁はミサイルでも傷はつけられない。ならば、まずは穴を開けることを考えるだろう。
下からでは遅すぎる。相手の土俵で戦うには力が無さすぎる。ゴールまでの近道を探さなければ、レジスタンスは直ぐに力尽きるだろう。
「(私の役目は、石上の救出ではなく——壁に穴を開けること。そして、侵入出来た時の保険)」
上層部に上手く潜入でき、敵が誰もいなければ良し。敵がいたらそれでも良し。
朝霧は中級の吸血鬼すら簡単にあしらえる実力者。上級吸血鬼が相手でも数時間足止めした実績のある人間だ。思考も柔軟でその場その場で、適した行動も取れるだろう。
——何より、罠に嵌められても何も言えない立場にある。
「オラアァッ!!」
苛立ちをぶつける様に瓦礫を掴んでぶん投げる。
右手に掴んだのは床のタイルだ。正方形の形をした人一人が寝ころべるほどの大きさのタイルはグルグルと回転してペナンガランへと向かう。——が、あっさりと撃ち落される。
それを見て朝霧は舌打ちを零す。
4層が崩れた原因については心当たりがある。中級の吸血鬼が中々上がってこないと思ったのも納得出来た。
結城えりがこの地獄壺にいた。それで辻褄を合わせることが出来る。
戦いを見てはいないため、朝霧は予想することしかできない。だが、異能持ちが結城しかおらず、その結城も1層を丸ごと破壊する力を持っていない以上、相手をしていた中級の吸血鬼を追い詰めて破壊させたのだろうと考える。
結城がここにいることはレジスタンスも把握していない。命令を受けた様子もなく、隠し事がバレた時の幼児のような態度をする結城を見てそう確信できた。
ならば、この状況はレジスタンスが考える状況と大きく離れているはずだ。1層分破壊され、今や5層は頭に乗っかっている帽子のようなもの。
「(恐らく、状況把握に努める)」
考えられるのは部隊の追加。緊急時を考えて、精鋭部隊——朝霧と結城、石上と同様の異能持ちを派遣させて来るだろう。
「(それまで生き残る)」
決意を固める。
最小限の動きで熱閃を躱し、瓦礫を投げる。空気を叩く。
そんな時、朝霧の視界にこちらに駆けて来る結城の姿が目に映った。
心臓の鼓動が激しい。息が漏れる。
本能が警告する。ここから離れろと——。
肌が針で刺されているかのような錯覚に陥る。見られている。そう直感した。
ペナンガランは変わらず、朝霧の方へと顔を向けている。結城から見えているのは後頭部のみだ。それでも見られていると分かった。
朝霧は知らないだろうが、これはルスヴンと同じ感知能力だ。第六感に近い感覚のようなもの。
北條とは違い、結城には警告してくれる相手はいない。見て対処するしかない。だが、彼女にはペナンガランと朝霧の戦いに付いていける程の眼を持っていなかった。
「——んのッお!!」
だが、それは後押しを受ける前の話である。
振り向きざまに放たれたのは熱閃。それは薙ぎ払いだった。
姿勢を低くし、岩が簡単に解ける程の熱閃をやり過ごす。そして、続けて放たれる先程よりも小さな熱閃を横っ飛びで回避する。
どちらもこれまでの結城では躱す処か反応すらできないものだった。
何故、結城が反応できるようになったのか。それは石上の異能が関係している。
石上の異能は魔眼に分類されるもの。しかも、ラクシャサのように両目が揃わなければ力を持たないものではない。そういう意味ではラクシャサの上位互換とも言っていいものだ。
石上恭也の異能は左右の眼にそれぞれ備わっている。左目を失っても尚、その力は健在だった。
結城に施したのは暗示によるリミッターの解除。一時的な身体能力の底上げである。
戦いに真正面から参戦できる程ではない。
ほんのちょっと、戦いを横から見てヤジを飛ばす程度。石上の後押しを受けても今の結城にはその程度の力しか発揮しない。
だが、ペナンガランはそうは思わない。
ペナンガランの異能は強力無比で一撃でも貰えば人生終了間違いなしだ。砲撃は閃光のように速く、怪獣の放つ破壊光線での薙ぎ払いに銃弾を飛ばすように弾幕だって張ってくる。
それに加えて本体は有利な位置から一方的に撃ってくるのだ。
近接戦闘を得意とする朝霧には相性の悪い相手だ。
けれど、ペナンガランにも弱点がある。
それは——複数対一の戦いには向いていないと言うこと。異能を放つ銃口が1つしかないということである。
「また命令違反だが、よくやった」
銃口は1つしかない。それは即ち、向けられていない方は簡単に近づくことが出来るということ。
朝霧にとって脅威がなくなった時点で距離をゼロにするのには十分だった。
ペナンガランの頭上を取る。
そして、これまでにない程拳を固く握り締め、渾身の力を持って振り下ろした。
「ッ!?」
空気を殴れば衝撃波が生じ、中級の吸血鬼を一撃で戦闘不能にする拳を喰らってペナンガランが床に叩き付けられる。
叩き付けられた衝撃は周囲にも広がり、結城は身を怯ませた。
「(私がいるだけでも意味があるってこういうことだったんだ)」
弱点。と言っても簡単に突けるものではない。
体がない分、初動がなく動きは読み辛く、動作は速い。閃光のような異能を避けられるのはそれ相応の実力者のみ。
後押しのない状態の結城と同じ実力者が複数いてもこう上手くはいかないだろう。
改めて戦慄する。
「(これが、異能持ちの実力者ッ)」
朝霧に視線を向ける。
彼女はまだ戦闘態勢を解いていない。渾身の一撃を放ってもそれでは足りないとばかりに拳を握っていた。
「石上ィッ!! 寄越せぇ!!」
朝霧が叫ぶ。
足りないと判断した。今の自分ではまだペナンガランを殺す一撃を放つことが出来ないと理解したのだ。
視線を僅かに外し、北條に背負われた石上に目を向ける。
結城が戦闘に参加してきた以上、時間稼ぎに徹するつもりだった自分とは違い、石上はここでペナンガランを殺すつもりなのだと理解する。
危険な役割に新人を巻き込むなと言いたくなる朝霧だが、巻き込んでしまった以上もうどうすることもできない。ならばせめて納得のできる結果を出すまでと切り替える。
「結城!! 投げ飛ばせ!!」
結城が念力で地面に叩き付けるように朝霧を下に振り下ろす。
石上によるリミッターの解除によって朝霧の瞳は赤い。吸血鬼のような赤ではない。血流が速くなったことによる充血だ。
結城に施した体に対する負荷を抑えたものではなく、負荷を無視したリミッター解除。
自分の筋力がほんの少し動く度に骨は砕けている。だが、回復能力も底上げされている以上、骨折程度直ぐに修復される。
破壊と修復が絶え間なく体の中でループする。
体に奔る痛みは朝霧にしか分からない。だが、尋常ならざる精神力ではないとこの痛みには耐えることが出来ないのは確かだ。
「ウオオオオラアアアアアアアァァ!!!!」
獣が吠える。拳が振るわれる。
念力による加速。石上によるリミッター解除を加えて放たれた一撃は先程の一撃を超えた威力となった。
1つの層を突き抜けて終わりではない。威力が分散される宙に投げ出されるのならば、更に加えるだけだと朝霧は拳を叩き込んでいく。
3層、2層、1層——その更に下まで。拳を叩き込んでいく度に地獄壺が揺れた。
「ダアアアアアアラアアアアアアァァァァッ!!」
「煩わしいッ」
獣の咆哮が響く中でペナンガランが呟いた。
効いていない訳ではない。だが、結城、石上、朝霧の3人の異能を重ね掛けても命には届かない。
ペナンガランが指示を出す。命令先は下級の吸血鬼達。北條と結城が1層へと入る際に走り抜けた廊下や1層から3層に残っていた大量の吸血鬼だ。感知できる同族以外の全てを喰らえと命令を下す。
地獄壺の最高責任者から指示を受けて下級の吸血鬼は動き出す。
彼らは空腹だった。空腹で死にかけていた。
それでも暴走しないのは上級吸血鬼の命令があったからだ。だから我慢していた。共食いをせず、ずっと涎を垂らしていた。
その枷が外される。
ペナンガランは敢えて大雑把な命令を出した。感知できる人間全て。地獄壺の中とは限定しなかった。
そのおかげで下級の吸血鬼は歓喜極まる。全てを喰って良いのだと。もう我慢をしなくて良いのだと。
それは石上の暗示によるリミッター解除程の効果はなかった。だが、確実に下級の吸血鬼の戦闘能力を向上させた。
肉を、血を求めて走り出す。
壺の中での殺し合い。人と吸血鬼の喰い合いが激化する。
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